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『普通の人々の戦いーーAIが奪う労働・人道資本主義・ユニバーサルベーシックインカムの未来へ』アンドリューヤン著、早川健治訳、那須里山舎刊 には、こんどのアメリカ暴動「ミネアポリス事件」を予言し警告を発しているところがある。

『普通の人々の戦いーーAIが奪う労働・人道資本主義・ユニバーサルベーシックインカムの未来へ』アンドリューヤン著 https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784909515032 

には、こんどの「ミネアポリス事件」を予言し警告を発しているところがある。

それは、第15章の「アメリカのコンディション=社会分裂」というところである。ここでは、白人底辺労働者層(トラック運転手)が暴動をおこすというシナリオが書かれているが、その前段に、伏線として、作家アレックス・ロスが書いている2015年のフレディー・グレイ暴動のことがある。ロスは、この暴動の背景を「経済的な絶望感」と表現していて、その部分をヤンは次のように引用している「暴動の引き金は、拘留中の25歳男性の死だったが、抗議活動家たちは、抗議の目的やスローガンをーー警察暴力問題よりも広い視野で捉えていた。ボルチモアの産業や製造業の基盤が崩れ、都市自体が見捨てられたことによって、地域社会が形骸化した。そこに貧しい黒人として生まれ育った人たちは、絶望感を募らせていた。黒人の労働者階級は、グローバリゼーションと自動化のせいで職を失ったと言っても過言ではない」(p264)
まさに、ボルチモアの地域社会の貧困化が、黒人のみならず、白人底辺層にも絶望感をもたらし、相互の軋轢と地域社会の分断を招いているのである。
また、ヤンは、同じ章で、上述したように白人底辺層(トラック運転手)たちが暴動をおこすシーンも想定していて、その部分は、暴動の主体が「白人」か「黒人」かの違いだけで、今回のミネアポリスと同じ現象となっている。ここにも、アメリカの分裂・分断社会の深刻さがよくあらわれている。
上記は、共に、今回の「事件」を予言するような箇所である。
『普通の人々の戦い』は、ユニバーサルベーシックインカムなどの政策提言の本ではあるが、その背景にある前半部分の、アメリカ社会、特に地域社会の閉塞感の分析がすぐれており、それが、この本のリアリティを増している。

ハンナ・アレント(政治哲学)は『革命について』で、アメリカ独立宣言の中の「幸福の追求権」について分析している。「幸福追求」とは、アレントにいわせれば、もともとは 公的な政治に参加する権利を保障する「財産権」だった のだ。しかし、「幸福の追求」とは、なんということはない、はてしない物質的繁栄ということであり、 アメリカンドリームとは、果てしない物質的富の「追求」ということにすりかわってしまった。
アレントの言う公的な世界への参加権=政治的参加権を支えるものこそ、財産権としてのユニバーサルベーシックインカムのはずだ。


今回のコロナ危機は、ヤンの分析するアメリカの病的な分裂社会に決定的な止めをさしたのかもしれない。さて、ユニバーサルベーシックインカム(UBI)は、そのアメリカを良い方向へ変えていく力になるだろうか。その行方は、世界の行方をも左右するだろう。




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