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親父のいびき

親父はよくいびきをかく。
毎晩のように隣の部屋から地響きのような寝息が聴こえてくる。
棚やカーテンと言う名のパーティションを設置しても無駄だ。
音量だけの問題ではないのだ。
低音なのか、振動なのか、科学的なことは解らないが、絶妙に眠りを妨げる塩梅で私の耳に不快音をお知らせしてくる。
例えるなら、ウシガエルとスマホのバイブレーションが蚊が飛ぶ音くらいのボリュームで聞こえてくる感覚、と言うのが相応しい表現だろう。

とは言え、勿論いびきも永遠ではない。
息が詰まれば止まるのだ。
だがしかし、ここで安心しているようでは未だ甘い。
何せこの途切れは、つづく災いへのトリガー。

息が詰まった直後、一瞬覚醒した反動で唸り声をあげるのだ。
ふんぐぅーん゛ん゛んっ!

――。まるで、
「せっかく気持ちよく眠っていたのに、起きてしまったじゃないか。けったくそ悪い、どうしてくれるんだ?」
と、周囲に怒りをぶつけるように。
こっちは何とかいびきスルークエストを遂行し、うとうとし始め、ようやくゴールが見えてきた頃なのにも関わらず、隣人の唸り声一つでスタート地点からやり直しである。

そして隣の部屋は静寂を取り戻す。
唸り声を上げると同時に寝返りをうち、姿勢が変わったのだろう。
人を起こしておいて、自分はしれっと寝るのだ。
赤ん坊ならまだ可愛気もあるのかもしれないが、普段から口を開けば自分の話ばかり、欲しいリアクションが返ってこなければ機嫌を損ねる頑固者には同情も湧かない。

まあ。
これだけ賑やかだと、稀にいびきも唸りも一切ない日があると、それはそれで生きているか心配になるのだが。

なんて考えてるうちにクールタイムが明け、次周期の睡眠妨害ラッシュが始まる。

きっとこれが平和なのだ。

ほんとうに嫌なら、別居するための行動をとればいいのだから。

いつも飯作ってくれて有難う。

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