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祖父と兄と、時々ビール

改札を降りると田園風景が広がっている。路地に入って、祖父母の家につく。

「ばあちゃん、ただいま!」
「おお、さとるくん、よくきたね。あつかっただろう。」
8年前に亡くなったはずの祖父が立っていた。


夢幻鉄道―――夢と現実を行き来する電車―――

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「おじいちゃんはね、さとるくんが大きくなったら一緒にビールを飲むんだ、“乾杯”するんだ、って言ってたのよ。」
「ばあちゃん、それ言うの何回目だよ。」
今日は祖父の8回忌だ。

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「まあ、俺は一緒にビール飲んだけどな。お前よりじいちゃん孝行だ。」 
「僕はまだ小学生だったんだから、しょうがないじゃん。」

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「ぽっくりいっちゃってね。お父さん、お粥食べるかい、ってきいたら、いい、少し休むって言って。まさかそのまま逝ってしまうなんてね。」

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玄関亡くなった時、僕は友達の家にいた。出かけるときにはいってらっしゃいと、祖父は送り出してくれた。

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「でも、ほんとに立派な人でした。」
ばあちゃんはいつもそう締めくくる。

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祖母と別れて電車で帰る僕らはいつの間にか寝落ちしていた。
「俺、何かできることあったのかな。」
兄のそんな声が聞こえた気がした。

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「小張木、小張木、終点です。」
兄はいなかった。
「兄さん、先に出たな。」
慌てて虫かごととリュックサックを両手に抱え、ホームへ飛び出した。

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改札を降りると田園風景が広がっている。路地に入って、祖父母の家につく。

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「ばあちゃん、ただいま!」
「おお、さとるくん、よくきたね。あつかっただろう。」
8年前に亡くなったはずの祖父が立っていた。

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「さとる、遅かったな。」
階段の上からずいぶんと小さな兄が降りてくる。 
「今日は俺の誕生日。初めてビールを飲む日だ。」
「初めてって、何年も前から兄さんは飲んでるじゃん。」
「公式には、まだ、な?」

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頭が動転した。亡くなった祖父に小さな兄。
「さとるくん、手洗ってきて。」
祖母に言われるがままに洗面台に立つと、鏡の前にはまるで小学生くらいの僕がいた。

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夢だ。

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「たけるくんの成人を祝って—」
「じいちゃん。僕もビール飲んでいいかな?」
「お前、流石にだめだろ。まだ小学生じゃん。」
「まあ、“乾杯”だけさせてよ。」
「おお、そうかそうか。じゃあ、“乾杯”。」

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その夜、祖父は2つ同時に夢が叶ったと嬉しそうだった。

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次の日、祖父は体調を崩した。夜に祖父が僕のことを呼んだ。

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「さとるくんは、この世界の住人ではないだろう。」
僕は顔を挙げた。
「分かってる。ここはたける君の夢じゃ。もうすぐ死ぬのも、じいちゃんは知ってる。」

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「初めからじいちゃんは死んじまってる。だから何も変わらんのよ。だけど、お前たち二人は生きてる。だから、お互い、助け合って生きて行くんじゃよ。」

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部屋を出ていく僕に、ポツリと祖父は言葉を掛けた。
「お前たち二人はじいちゃんの誇りじゃ。胸はってな。あと、ばあさんに、ゆっくりでいいから、また会いにきてなって伝えておくれ。」

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翌朝、僕にいってらっしゃいを言うため、祖父は玄関までやってきた。僕は、家に留まった。祖母がお粥を用意した。祖父は疲れたから後で食べると言った。じっと座っていた。そしてそのまま逝ってしまった。呆然と立ち尽くす兄に、僕はそっと手を差し伸べた。周りが光に包まれた。

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「小張木、小張木。」
隣で眠る兄を起こし、電車を降りる。
「すごい変な夢みたわ。お前、めっちゃ泣いてたぞ。」

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「でもさ、なんか、ありがとな。」

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改札を降りると田園風景が広がっている。路地に入って、祖父母の家につく。

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「ばあちゃん、ただいま!」
「さとるくん、早かったね。ゆっくり涼みなさいな。」
「うん、でもその前にさ、ビール取ってきていいかな。」
「お前まだ未成年だろ。 あと数ヶ月待てよ。」
そういう兄をなだめて冷蔵庫からビールを取る。

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仏壇の前に座って、ろうそくに火を付ける。
鐘を打って、手を合わせる。
「ちょっと早いけどさ、じいちゃん、“乾杯”。」

夢幻鉄道 ―完―

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