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Butterfly Effect Part.2 -Love is the answer-

真っ白のテーブルクロスの上で美しくゆらゆらと左右に揺れるキャンドル越しに2人の晴れ姿をうっとりと眺める。

ついに、この日を迎えた。

式場に入ると、天井から無数のテッポウユリとカラーが吊るされているというなんともユニークな演出が目の前に広がっていた。

テッポウユリの花言葉は、「甘美」(感覚に甘く快く感じること、うっとりする)、「清らか」。

女性の美しさや高潔さへの賛美を伝えたい時にこういった花言葉にメッセージを込めることがある。

そしてカラーの花言葉は、「華麗なる美」。

その言葉にまさに相応しい、息を呑むほどに美しい女神のような彼女がウェディングドレスに身を包み、花々の中心に堂々と佇んでいた。

そして彼女は、最初の挨拶のスピーチでこう私達に告げた。

「結婚式という堅苦しい式ではなく、パーティーだと思って皆さんにはどうか楽しんでほしいんです!」

ウェディングパーティーか。

彼女らしい考え方だなあ、と思わずフッと微笑んだ。

新郎新婦の挨拶が終わると、まもなく友人代表スピーチの出番が訪れた。

この先起こる美しい人生映画の始まりを祝して、ふと自身の振袖の重ね襟に左手をかざした。

黒をバックに、オレンジ、黄色、緑など様々な色が重なり合った舞い踊る蝶々の重ね襟にこれからの運命を委ねるように。


2人の目の前に立つ。

ゆっくりと息を吸い、マイクを持つ。

彼女は既にもう目から溢れんばかりの涙を静かに溢していた。

それを優しい眼差しで見守り、包み込む新郎がすぐ彼女の隣にいた。

その柔らかな心温まる光景を脳裏にしっかり焼き付けながら、話し始めた。



“今回、やっとこの場をお借りして、あのときのお二人の素敵なお話を存分にさせていただけること大変心晴れやかに思います。

「〇〇ちゃん(私の名前)、あんな、俺、プロポーズしようと思ってるねん。まじで言うたらあかんで。」

方言全開の〇〇君(新郎)が恥ずかしげにこっそり私に相談して来てくれた日を今でも忘れません。

当時私が働いていたホテルで、プロポーズをしてくださった〇〇君。

何ヶ月も前から計画を共に練り、何度も打ち合わせを重ね、当日のシミュレーションなんかもしてみたり。

彼のその真剣な姿を見るたび、この先起こる素敵な出来事に対する〇〇(友人M)の幸せな顔が頭に浮かんではニヤニヤしてしまいそうでした。

いよいよプロポーズ当日。

私まで朝から背筋がピンッと伸び、身が引き締まる思いで出勤しました。

プロポーズの直前、彼女の背中越しにこっそりグーポーズとウインクでこちらに合図を送りながら、ラウンジを出て部屋に戻って行く陽気な〇〇君の後ろ姿を見ていると、思わずフッと微笑んでしまいました。

プロポーズが成功した直後、2人の部屋にサプライズ登場した時に見た彼女の涙と幸せ溢れる表情を昨日のことのように今でも鮮明に覚えています。

ああ、この喜びと感動の瞬間のために私はホテルマンをやっているんだ、と改めて痛感させられるほどでした。

私のホテルマン人生における、大変心が熱く燃え上がる瞬間でもありました。

彼女は昔から、自分の幸せを香水のように彼女の周りにいる大切な人たちにまで振りまいてくれるような、そんな人です。

努力家で、心の芯が強く、家族への愛情も深く、いつだって真正面から自分自身と向き合うことができる人です。

彼女との付き合いは幼稚園から始まり、気づけばもう20年ほど。

青色の少し錆びたジャングルジムに登ってやんちゃに遊んでいた頃から早々に時は流れ、彼女は看護師に、私はホテルマンになっていましたね。

人生の巡り合わせって本当に不思議でなんとも面白いものです。

人生は時にこうも激しく変わっていきますが、いつまでも変わらない存在がきっと誰かの心を救うこともあると私は信じています。

彼女にとって私は、今もこれから先も変わらずこうしてそっとふとした時に寄り添えるような関係でいられればなと思っています。

たとえ踏んだり蹴ったりな日があろうとも、家に帰れば愛する人と寄り添い、聞いてよ今日はこんな日だったんだよ、と存分に話し相手に徹してくれる素敵な人がいる、そんな”あたりまえの幸せ”をどうか互いに噛み締め合って欲しいなと心から思います。

この素敵な生演奏の曲”Built for Love”の歌詞の中に素敵な二人に是非送りたいこんな言葉があります。

“I know I haven’t been perfect for you. That’s what I call love. We’re built for love.”
私があなたにとって完璧でないことは分かっている。
だが、それを補い合うことこそが愛というものだ。
私たちは愛のために作り上げられている。

こうして互いを「深く愛し合うこと」。人生において良きものはこのたった一つだけです。

本日はお日柄もよく、心温かな人々に見守られ、ふたつの人生を一つに重ねて、いまからふたりでどうか歩んでいってください。”



湧き上がる拍手が鳴った。

鳴り止まないその音と共に涙する御両家と友人達。

奥歯をグッと噛み締め、湧き上がる思いを必死に堪え、新郎新婦にそれぞれの思いを込め、とびっきりの熱い抱擁を交わした。

2人の体から共鳴するように強いエネルギーが伝わり、想いが溢れて弾けるような不思議な感覚だった。

今までの自身の人生において、一番大きな感謝と祝福を込めたスピーチであったことに間違いはないだろう。



その後しばらくして、新郎の祖父の挨拶が始まった。

ご年配にも関わらず、ハキハキと力強い声と真っ直ぐな眼差しに私は思わず釘付けになった。

そして最後にはっきりと一言こう放った。

「長生きしていて本当に良かった。」

その強い意志と、短い言葉に込められたストレートすぎる言葉が自身の胸に刺さってしばらく抜けないほどだった。

目の前が滲んで視界がだんだんとぼやけていくのが自分でも分かった。

20代そこらの私達では決して体感することのできない、半世紀をはるかに超える人生を歩んできた人だからこそ送れる言葉。

なんとも重みのある、そして寿命や時の流れさえも超えていく孫への朽ちることのない深い愛情を痛感した。

「長く生きてりゃ良いことも悪いこともたくさんある。それがまた人生の良さだよ」

自身の祖父に昔言われた言葉が頭をよぎって、ゆっくりと心に染み渡っていった。

人生という名の短い映画は、終わりを告げるその瞬間まで私達に期待させてくれるものだ。

長く生きる中で、こんな素晴らしいパーティーを目の当たりにした彼の祖父はさぞ幸せだったことだろう。

色褪せることない、決して変わることない美しい家族愛を目の当たりにした瞬間であった。



新郎新婦退場は形式的なものとはかなり異なり、参列者全員の席を新郎新婦が回り、一人一人にハイタッチをしながら笑顔で退場していくといういかにも彼女が考える朗らかなパーティーらしい演出であった。

スキップをするように、軽やかに一席ずつハイタッチをしながら回る彼女。

そして私の目の前にもやって来た。

ハイタッチではなく、ガシッと互いの手を重ね、強く握りしめ合い、こう一言だけ彼女は告げた。

「あなたのおかげや」

どうしようもなく目頭が熱くなった。

常に誰かの「おかげ」だと頻繁に口にする彼女らしい、彼女だからこそ心に沁みるたった一言を私に与えてくれた。

何度ありがとうと伝えれば十分だろうか。

素敵な瞬間を本当にありがとう。



パーティーを終え、個人的に彼女からスピーチをしてくれたお礼に、とプレゼントを受け取った。

翌日お洒落な小包装を開けると、ホームケアブランドのKomonsの食器用洗剤と消臭スプレーが入っていた。

懐かしい学生時代から変わらない彼女の綺麗な字でメッセージが綴られていた。

「大切な人って分かっていたけど、自分が思っていた以上に大切だったんだって気付かされるという幸せを感じた」

という彼女からの言葉が何度も、何度も私の頭の中を駆け巡った。

他人に気付かせる幸せを与えられるというこの蝶々効果。

彼女のパーティーにおけるテーマでもあった。

それをこうして叶えることができた幸せに胸が一層熱くなった。

そして何より、ひときわ目を引く文字が。

「Don’t look back in anger」

とボトルに印字されていた。

心が高鳴る音がした。

なんとそれは、私の大好きな映画「バタフライエフェクト」のエンディング曲のタイトルであったのだ。

Oasisの「Don’t Look Back In Anger」

意訳をすると、「悪い思い出にしないで」という意味である。

どんな思い出や記憶であろうと、全てを受け止め人はどんな時も歩みを進めていく。

決して怒りや悲しみ、いっときの感情に任せて過去を振り返るべきではない。

たとえどんな時も愛を持って、心温かく「今」
を受け止め、真っ直ぐに歩んでいく。

そんな私の生きる指針が詰まった思い出の曲である。

「最後までやってくれるなあ、、、」

目尻にシワをよせて、思わずはにかむようにくしゃっと1人で幸せそうに笑っている自分自身がそこにはいた。

また、彼女から受け取った引出物の紙袋にはこう綴られていた。

“LOVE IS THE ANSWER”
愛こそがその答えである

ベランダの物干し竿に羽を休めて留まった蝶がいつもより更に美しく輝いてみえたのは気のせいだろうか。

今日も地球の裏側の人々にまでどうか幸せの気付きを届けておくれ。



結婚本当におめでとう。

一度しかない今世において、こうして互いに巡り合った運命に最大の感謝と共に、とびっきりの愛を込めて。

SORAMI

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