潜竜上天

表題

潜竜上天の事

概要

 文化五年(1808年)の6月17日に浅草観音の堂上と仁王門の上に黒雲が出て、火柱が立ち雨足が強くなった。

訳文

 文化五年6月17日に浅草観音の堂上と仁王門の屋根の上に黒雲が集まり、そのうちに燃える火のようなものが立ち昇り、雨足がやたらと強くなったと人が言っていたが、山崎宗篤曰く、彼のところに出入りしている髪結もはっきりと見たと話していたので、嘘ではないだろうとのことだ。
 いつの頃だったかこのようなことがあったが、その時は火災があったと言い伝えられているため土地の者は恐ろしがっているが、これがきっかけで火の扱いを用心するようになれば結果的に良いことだろうと思われる


原文

 文化五年六月十七日、浅草観音の堂上幷に山門の屋根上に黒雲集り、其内燃ゆる火の如きもの立昇り強雨頻りなるを、人の語りしが、山崎宗篤が許へ来る髪結も、「顕然と見しよし咄ぬれば、虚談にもあらずや」と、宗篤子の語りぬ。いづれの御代にや右様の事ありしが、火の災有りしと申伝うる旨、土地の者恐れけるが、是を以慎一徳なるべしとおもはれぬ。

出典

『耳袋 巻之十』天明2年‐文化11年(1737‐1815年)刊(『耳嚢 下』、岩波文庫、1991年)

備考

 表題から推測して、立ち昇った火のようなものが龍だと考えられているようである。


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