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4年生の授業を振り返る~月・水曜編~

ここに来てなぜか曜日で分けるという(笑)。4年生ともなると授業の数が少なくて、3年生の時に倣って実技系・演習系・講義系で分けるとなんだかアンバランスなことになり、また振り返るとちょうど曜日ごとにカラーの異なる年でもあったので、まずは「声楽の月曜」と「能楽の水曜」にスポットを当ててまいります。

という流れで、本題に入る前に在学中よく聞かれたことを備忘録しておくと、会社とか家庭のある人はともかく、公私ともにフリーランスならば仕事と学部通いの両立は問題なく可能だと思う。少なくとも芸大(楽理科)の場合、大げさじゃなく年の半分は夏休みと春休みだからそこでまとめて稼げばいいし、授業の少なかった今年に至っては私、なんか知らんけどフリーライター生活10年での最高売り上げを記録したからね(笑)。

週5で通ってた1~2年生の頃は確かに前年比6割くらいになっちゃってたけど、それは過度に真面目な私が「ここまでは1~2年のうちに取っておいたほうがいい」みたいな話を真に受けてしまったからで、たとえば最初から6年かけて卒業すると決めて1~2年生推奨の授業を4年かけて取ったりすれば稼ぎは減らない、どころか学費を稼がねば!みたいなモチベがある分むしろ増やせる可能性すらある気がする。…って、1年生の頃の私に言ってあげたい私です。

■月曜①声楽実技演習【前期のみ:優】

芸大に入ったからには歌を習いたい、と最初から思っていたのに副科実技の声楽は教職課程を取っていないと履修できないシステムで、それが残念だとほうぼうで言っていたら音楽環境創造科にこのような授業があることを2年生の時に教えてもらったのだけど、3年生の時は他の授業と重なっていて取れなくてようやく。卒業要件に関わらない他科の自由科目を4年生にもなって取るとか、社会人学生ならではですよね。

しかし期待が高まってしまっていた分、あまり満足できる授業ではなかったな~。芸大の声楽科の子たちがやってきたような、基礎の発声とか噂で聞くコールユーブンゲンとかからやってくれるのかと思ったら、普通にイタリア歌曲とか日本歌曲を歌うだけ。それならいっそ合唱だと楽しかったんだけど、コロナのせいか元からそういう授業なのか、一応みんな集まっての対面授業ではあるんだけど割と一人ひとり歌わされる感じで、そうなると時間的に一人数分だから何も身につかなかったです。歌う前に説明されるのも歌ったあと注意されるのも発声じゃなくイタリア語の発音のことばっかりで、もちろんそれはそれで大切なことなんだろうけど、それも私的には期待外れポイント。さらには先生がちょっとでも体調不良だったりするとすぐリモート授業にしちゃう(しかも当日朝とかに連絡来る…)超慎重人で、リモートになるとますます発音しか教えてもらえないのも痛かったです。

形式上は前期と後期で独立しているものの、先生的には通年のつもりみたいで、基礎的な歌曲をみんなで歌った前期に続き、後期ではそれぞれ大好きな曲を歌えるようになることを目指します、だからよほどの事情がない限り後期も取ってねみたいに言われ、『オペラ座の怪人』の《Think of Me》を歌えるようになったらそれは楽しいだろうな~!とすごく迷ったのだけど…たった数分のために音楽環境創造科のある北千住に通う気にはやはりなれず、前期でやめてしまいました。あとそもそも、私が芸大で歌を習いたいと思ったのは歌えるようになりたかったからじゃなく声楽科のレッスンを疑似体験したかったからで、歌えるようになるためだけなら町の教室通えばいい話だしね。あ~あ、教職課程取ってます!って嘘ついてでも副科実技の声楽取ればよかったよ(笑)。

■月曜②声楽史【通年:優】

同じ声楽でもこっちはがっつり座学のリモート講義。私が3年生の時に楽理科の常任になったこのN先生の授業はほかにもいくつか受けて、ありがちな好き勝手喋るんじゃなくしっかり教えてくれるタイプだからどれもとても勉強になったけど、対面で雑談することはついぞ叶わず無念…。授業を聞く限りガチガチのクラシック学者だから、叶ってたところで弾んだ気はしないけど、向こうは私の顔も知らないと思うとリモート授業って何だろうとはやっぱり思いますよね。まあこの授業に関してはリモートで特に困ることはなかった、どころか一応毎週リアルタイムでやるけどアーカイブも残してくれたから皆勤できてむしろ助かりましたけど。

授業内容は、概ね15世紀から20世紀前半までのドイツ、フランス、イタリアを中心とした、オペラ以外の歌曲の流れと特に重要な作品の楽曲分析。授業名に「西洋」と冠されていなくても当然のように西洋しか扱われないところに、音楽民族学の分野でさんざん言われている「音楽史」における西洋偏重をまざまざと見せつけられたけど、1年生と3年生の時に受けた西洋音楽史の授業ほどは範囲が広くない分、最後にはロシアとかにもちょっと触れてくれました。とはいえもちろん、イギリスやアメリカまではノータッチ。つまりは、あわよくばミュージカルに繋がる話も聞けるかなという淡い期待は3年生のオペラ史の授業に続いてあっさり裏切られたわけですが、それでも「歌」の話であるというだけで十分ミュージカルの授業として受けられてしまうのが私です。

クラシックの歌曲は、まずゲーテとかが書いた有名な詩があって、そこに名だたる作曲家たちが音楽をつけているパターンが圧倒的に多く、ゆえに詩の内容と韻律をどう音楽に「置き換える」かが非常に大事というかほぼすべて。だから歌曲を理解・分析するためには言語の習得が不可欠だし、日本語に訳して歌うとかマジありえねー世界のようでした。という情報からミュージカルという芸術の独自性や訳詞の問題、詞先・曲先のメリットとデメリットを考えたり、「置き換える」ための技術色々を知ってミュージカルのソングライターたちにもぜひ応用してほしいとか思ったり(とっくにしてるのかな?)、先生の楽曲分析の仕方を私のミュージカル卒論の参考にさせてもらったり。情報量が多すぎて細かいことはほとんど忘れてしまったけど、総じて面白い授業でした。あとペーター・コルネリウスの《ひとつの音》、とても好き(THE備忘録)。

■水曜①謡曲【通年:優】

3年生の時に長唄を取って、日本音楽の2拍子のリズムにもうちょっと慣れたい、「ゴロ」とかの技術ももっと習いたい、コロナで叶わなかった試験替わりの発表会にも出たいとの3つの理由から、もう1年日本の歌をやるべく謡曲を取ったのですが。能楽は基本8拍子で、ゴロなる技は存在せず、発表会の習慣もありませんでした(笑)。まあでも、ひと口に「日本の歌」と言っても色々あることが分かって良かったし、ゴロの代わりに「ユリ」とか習えたし、先生優しくてバカな質問にもいちいち答えてくれたし、何より学内に存在することすら知らなかった能楽堂みたいな稽古場(=写真)で毎週レッスンできて楽しかったのでヨシとします。邦楽科の皆さんのあの、興味持ってくれてありがとう何でも教えるよ的な姿勢はぜひ、クラシック尊べない者は人間にあらずみたいな作曲科の皆さんにも見習ってもらいたいものですね!(どさくさ)

ただ、非日常体験をなんとなく楽しんでいただけで、何かが身についたかと言われると非常に微妙。1年かけて1曲やる点は長唄と同じながら、その曲の長さが全く違っていて、長唄の《末広がり》は最初の1か月で最後まで通ってあとは何度も繰り返して深めていく形だったけど、謡曲の《羽衣》はひととおり習うだけで1年かかるもんだから、振り返ってみると毎週ひたすら先生のモノマネをしていただけだったなという気がしなくもありません(笑)。どこがどう8拍子なのかずっとよく分からなかったし、多すぎる楽譜の記号も全く覚えられなかったし、途中からちゃんと音楽として認識できた長唄と違って、最後まで「これただの抑揚じゃね?」という感じがしてました。あな奥深し、日本の歌。

悔やまれるのは、ビブラートについてはどうせ長唄と同じでご本人は意識してつけてるわけではないのだろうと思って質問しないでいたなか、最後の最後に先生のほうからビブラート(「ナビキ」と言う。それがもうかっこいい)の話をしてこられて、しかも一緒に受けてたバイオリン科の子とビブラート談義が弾んでいたこと。意識してなびかせてるならやり方とか効能についてもっと詳しく知りたかったし、何ならビブラートのある楽器(声含む)を扱うすべての科の同級生を一堂に集めてビブラートシンポジウムとか開きたかったです。まあそれは叶わなかったわけだけど、せっかくナビキというものの存在を知れたので、これからはビブラートフェチ改めナビキフェチを名乗っていきますね。

■水曜②日本音楽史講義【前期のみ:優】

専門講義に属する授業は残り一つで卒業要件に達するので、とりあえずいくつかお試しで受けてみて面白そうなのだけ続けようという、その「いくつか」の一つとしてこの能楽の授業が、時間割的にちょうど謡曲レッスンの直前にありまして。単体だったら続けてなかったと思うけど、この授業で能楽の歴史とか伝統芸能を継承していく上での問題点を学び、それを認識したうえで謡曲レッスンに臨む形がなんともちょうどよく(レッスンでやってることの位置づけが授業のおかげで分かり、授業で言われていた問題点がレッスンで実感できる)、セットで受けられてどっちにとっても良かったなと思います。

ただ本当、単体で続けるほど興味ある内容ではなかったから、今となっては「能楽の歴史と伝承の問題を学んだ」ということしかほぼ覚えていない。レポートで何書いたかもウロ覚えなんだけど、確か伝承の問題についてなんでもいいから考えてみてみたいな課題だったから、男性しか舞台に立てない日本の伝統芸能を宝塚と絡めて書こうと思って調べたら、意外と能楽の世界って女性も普通に活躍してるのね。歌舞伎と宝塚が特殊な存在で、でもそれもこれから時代の波に乗って変わっていくのかなあみたいなことを、宝塚だけじゃ「どんなレポートもミュージカルに絡めて書く」MYルールに沿い切れてない気がして、ミュージカルにおける人種キャスティング問題なんかも絡めて書きました。カオス!

ちなみにこの授業はリモートで、ただ直後に対面の謡曲レッスンあったから家で受けると間に合わず、大学内のリモート授業受けられる部屋みたいなところで受けてました。私が受けてたのは楽理科が開放してた部屋なんだけど、大学全体としては「5-109」という大きな部屋が開放されていて、いつの間にかそこが若い学生たちの間でマルキュウと呼ばれていたことはぜひ備忘録しておきたい(笑)。それで思い出したけど、ほかの子と練習することをみんなが「合わせ」と呼んでたのも忘れたくない芸大用語だな~! 別に本人たちは何も意識してないであろう普通の言葉だけど、「これから合わせで~」とかなんか素敵で憧れて、副科ピアノで歌の伴奏した時「合わせいつやる?」とかちゃっかり使ってみたのもいい思い出です。

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