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週刊ゲーム漂流記:第9回『Desert Child』

メジャーマイナー・プラットフォーム・有料無料・新旧問わず、面白いビデオゲームなら何でも紹介していこうというコンセプトの「週刊ゲーム漂流記」。
第9回は、若きホバーバイクライダーとなって頂点へのし上がるシューティングレースゲーム『Desert Child』

人類が居住圏を宇宙にまで拡大した未来。悪化していく地球の環境から逃げるように、人々の多くは火星へと移住していった。そんななか、政府は突如として火星移住への助成金を停止すると発表。火星行きのチケット価格は跳ね上がり、一般市民にはとても手が届かない世界となってしまった。

『Desert Child』の主人公は、いつも腹を空かせた若いホバーバイクライダー。金はないが、野心はある。このくそったれな地球から脱出して、何としてでも火星へ行き、そこで開催される宇宙最大のレース Grand Prixで優勝することを夢見ている。今日も自慢の愛車を駆り、砂と熱の乾いた大地を疾走していく。

宙に浮くホバーバイクで行うハイスピードなレース。銃火器の使用が許可されているので、大きな危険が付きまとう。しかし、勝てばそれに見合った金と名誉を手にすることができる。

本作の主な流れは、レースを繰り返し賞金を稼いでいくこと。勝つことはもちろん、コース内に設置されたオブジェクトを破壊して金を拾っていくことも重要だ。まずは500ドル。それだけ貯めて、火星行きのチケットを買わなくてはならない。しかし、バイクのパーツを売り払わなければ愛車の修理もままならないような金のない若者にとって、500ドルなんて大金はそう簡単に手にすることができるわけもない。もちろん、生きてる限り腹だって減る。一杯のラーメンを我慢してレースに出場し続けても、良い結果は出ないだろう。
バイクと自分、両方のコンディションを整えつつ、夢を実現するための資金を稼ぐ。そこに華々しさなど微塵もない。下手を打って金が尽きてしまえば、ママに電話して工面して貰わなければいけなくなる。はっきり言ってダサすぎる。

「ママの名前をスポンサーとして付けなくてもいいのか?」って顔を合わせるたびに煽られている。今に見ていやがれ。

無事に500ドル貯めて火星行きのチケットを手にすると、舞台を火星に移して、今度はGrand Prixへの出場料を稼がなくてはいけなくなる。その額、10000ドル。今までのはいわば前座で、火星へ着いてからが本番ということになる。
途方もない金額だが、火星では金を稼ぐためのアプローチが一気に増える。ピザ屋でバイトして地道に安全に稼いだり、賞金首を捕まえたり、新開発の銃火器のテストをする。銀行に金を預けて、利息で堅実に増やしていくのも良い。もっと手っ取り早く稼ぎたければ、薄暗い路地裏から裏の仕事を斡旋して貰うことだって可能だ。八百長に手を染めたり、ネットバンクをハッキングすれば、10000ドルなんてすぐに貯まるかもしれない。路上に停めてあるバイクからパーツを頂いてしまうこともできる。ただし、ひたすら悪事を重ねれば、それ相応のリスクが伴う。警察との刺激的なレースを求めているのなら、それも良いだろう。

火星には誘惑がたくさんある。レコード屋でご機嫌なサウンドを買い漁るのは、実に気分が良いものだ。晴れた日は、多様な食文化の入り混じった都市を散策して、美味しいものを食べ歩く。ところでここへは何しに来たんだっけ?

本作のメインコンテンツは、シューティングとレースを掛け合わせたホバーバイクレースであることは間違いない。しかしながら、その魅力の大半は、実はレースの外の日常にあると私は思っている。
とりわけ、色鮮やかで緻密に描かれたピクセルアートとエネルギッシュなヒップホップミュージックが生み出すシナジーは最高にクールだ。そこに、2Dだと言うことを忘れてしまいそうになるダイナミックな構図を用いることで、誘惑的な都市の魔力や淀んだ空気を巧みに醸し出している。この場所で1日1日を過ごしていると、地位も金もないが自分だけは絶対に成功するという根拠のない自信だけを抱いて都会へ出てきた若者の、刹那的で快楽的な剥き出しの感情がリアルに伝わってくるのだ。
バイクを荒っぽく扱って壊してしまうと電子端末までヒビ割れてしまっていたりとか、都会で初めて口にした屋台のスナックは吐くほど不味かったのにその後なぜか癖になってしまっていたりとか、街の修理屋は高くつくから郊外の工場でバイクを修理して節約したりとか、そのディテールにも等身大の若者の日常を感じさせてくれる描写が多く含まれている。何気ないことを何気なく描いている、このゲームのそういうところがとても好きだ。

購入は上記からどうぞ。コンシューマ版も配信中(PS4およびSwitch版では規制により一部表現が差し替えられている模様)。

ココイチでカレー食べます。