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週刊ゲーム漂流記:第3回『The Doll Shop』

メジャーマイナー・プラットフォーム・有料無料・新旧問わず、面白いビデオゲームなら何でも紹介していこうというコンセプトの「週刊ゲーム漂流記」。
第3回は、日本を題材にしたフランス産ホラーアドベンチャー『The Doll Shop』

本作は、セシル・ブランとオリヴィエ・ピシャールのフランス人アーティスト二人組からなる制作ユニット「アトリエ・セントー」が送る短編ホラーアドベンチャー。
アトリエ・セントーといえば、新潟での二人の妖怪紀行を描いたバンド・デシネ『鬼火』が、第11回日本国際漫画賞の優秀賞を受賞したことが記憶に新しい。
過去にリリースした『After School』や『幽霊ステーション』など、日本を題材にした作品を多く公開しており、その手描きによる淡い水彩タッチのアートスタイルは、日本の風土における儚く曖昧で捉えがたい“狭間”の空気感を見事に表現している。
この『The Doll Shop』も、舞台を日本の寂れた寒村としていて、今作の水彩によるアートは、ワークショップを介してフランスの美術学校の生徒たちの手によって彩色されたものだという。

物語の主人公となるのは、村で人形屋を営む一人の男だ。男は、子供の時分からずっと村に住んでいて、父親の仕事を引き継いで人形師となった(店名から姓は小林だと思われるが、ゲーム内では特に言及されない)。しかし、高価な人形はなかなか売れず、人形の修復依頼で生計を立てている状態だった。

来る日も来る日も壊れた人形と向かい合い、独り身であるがゆえ普段は誰とも接せずに生きてきた男が、他人と打ち解けず孤立していったのは想像に難くない。唯一の趣味は蝶の収集で、美しい羽根を持つその虫たちをピンで刺して飾っては、乾いた心のうちを満たしていた。
仕事が終わると、ラーメンを食べに行くか、銭湯に行くか、収集のために取り寄せた蝶を雑貨屋へ受け取りに行くか、神社でひとり考えに耽るか。閉鎖的な日常で、ただルーチンを繰り返している。

誰にも話せない秘密を抱えながら。

深く雪が降り積もる村には人通りもなく、元から男以外の住人は存在していないかのような錯覚にも陥る。

ゲーム内容は、ポイントアンドクリックで村の中を移動しながら探索し、ごく簡単なパズルを解くなどして進行させていく、ビジュアルノベル色の強い探索アドベンチャーとなっている。
特筆すべきは、やはりそのビジュアルだろう。前述したとおり、手描きの水彩画によって表現された寒村は、妙に生々しくその物寂しさを伝えてくる。そこに雪の降る画面効果と悲哀のあるサウンドが相まって、常に喪失感のあるような、不安な気持ちに苛まれる。

本作のジャンルはホラーにあたるが、ショッキングな画像や大きな音を立てて驚かす所謂ジャンプスケアの類は一切として用いられていない。じわじわと、まさに雪のように、静かに恐怖が降り積もっていく。

また、村での4日間がそれぞれチャプターとして分けられており、それまでの選択肢によって最終的に訪れる結末は3つに分岐する。すべての結末を見届けると、追加カットが挿入される仕組みだ。
プレイ時間は1時間前後に落ち着くだろう。日本語に対応していて、翻訳は完璧とは言えないが、物語を解釈するには不自由しない出来となっている。

村のあちこちに貼られている行方不明になった子供のポスター。しかし、その事件は住人に忘れられつつある。

雪深い日本土着の情景に包まれて、日常と非日常の境が曖昧になっていく。過疎化と高齢化が進む地方の事情や、村社会の閉鎖的なコミュニティが、その狭間で揺れ動き、言い知れぬ不気味さが浮き彫りにされていく。

やがて男は、思いがけず子供の頃の幼馴染と再会することになる。人との繋がりを拒絶して、人との繋がりを渇望した男にとって、それは光だったのだろうか。

この物語はとても恐ろしく、そしてとても哀しい。
騒がしげなハロウィンの夜が過ぎ去った今日みたいな静かな夜に、ひっそりとプレイして見届けてみてはいかがだろうか。

ダウンロードは上記からどうぞ。

ココイチでカレー食べます。