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2020J1第11節 清水エスパルスvs横浜F・マリノス@日本平


エンターテイメント性に富んだ乱打戦は、我らがマリノスに軍配が上がりました。

新加入のジュニオール・サントスと前田大然、数試合ぶりに怪我から復帰した仲川輝人と實藤友紀、久しぶりの先発出場を果たした高野遼。前提として、連携面に不安を抱えた選手たちがスタメンのうち5人、つまり半分を占めていたことを考慮するならば、まずはチームとして機能させることができるかどうか、ここが重要なポイントになります。

アタッキングフットボールを標榜するマリノスでいう「チームを機能させる」とは、「前線にボールを送り届ける」こととほぼ同義です。特にサントスと前田は非常に能力の高い選手であるため、彼らにボールを渡すことさえできれば何かを起こしてくれます。だからこそ「前線にボールを送り届けること」が大事なのです。

結論から言うと、「前線にボールを送り届ける」ことに関しては一定程度機能させることができていました。それ以降の崩しの局面はかなりアドリブに寄っていましたが。

前置きが長くなりましたが、今回のテーマは「急造感溢れるチームがどのようにボールを前へ運んだか」です。構成としては、チーム個人とに分け、それを可能にした⑴チームとしての仕組み⑵立役者・和田拓也という形で進めます。

では、始めます。


【Starting Lineup】


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■横浜F・マリノス
 ◇基本システムは4-2-1-3
 ◇ジュニオール・サントスが初先発
 ◇仲川・實藤が怪我から復帰
 ◇前節から6人変更(松原、實藤、高野、和田、仲川、サントス)
■清水エスパルス
 ◇基本システムは4-2-1-3
 ◇5戦負けなし中 
 ◇前節から1人変更


【ボールを前へ運ぶ仕組み(ビルドアップ)】


マリノスのビルドアップをめぐる両チームの攻防についてです。

まずは清水のプレッシングの仕組みを述べ、それに対してマリノスがどうボールを運んだかという順序で述べていきます。


〜❶清水のプレッシング〜


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清水は上図の形態でプレスをかけてきました。システムで表すならば4-4-1-1です。

ボールの奪いどころはマリノスのボランチとSBのところでしょう。そのために、1トップは2CBの牽制、トップ下・後藤はボランチを牽制する役割を担っていました。また、SHはマリノスの特徴である偽SBを見越してか内寄りに位置し、マリノスのボランチとSBを両方見ることができるようにしていました。


〜❷マリノスのビルドアップ〜

一方、これに対するマリノスのビルドアップは下図の形でした。

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ポイントは、ビルドアップの出口を左サイドバックの高野遼が務めている点です。この試合の高野は、いわゆる”偽SB”ではなく、ノーマルなSBのポジション、つまり、大外で幅を取っていました。

結果的にこれがビルドアップの助けになります。内に絞ってマリノスのボランチも監視する清水のSHの外側のスペースをうまく使うことができたからです。こうして高野を経由してライン間のマルコスに斜めのボールを入れたり、高野自身が推進力を活かして持ち運んだりすることによって、マリノスの攻撃はスピードアップしていました。



【ボールを前へ運ぶ立役者・和田拓也】


上述したボールを前へ運ぶチームとしての仕組みに一役買った立役者が、この試合で久しぶりのスタメン出場を果たした和田拓也でした。彼の良さはポジショニングボールを繋げる技術とに分けられるかと思います。

それぞれについて具体的に述べていきます。

〜❶ポジショニングの上手さ〜

一つ目の強みはボールを受ける前のポジショニングです。主に清水のボランチの手前のスペースに顔を出してパスを引き出すことが多かったのですが、これがかなり効いていました。

実際にどのように効いていたのかですが、清水のボランチを喰いつかせてその背後のスペースを空ける、もしくは、清水のSHを引きつけて大外のスペースを空ける効果がありました。

マルコスや高野がフリーで、かつ前を向いてボールを受けられたのは、紛れもなく和田拓也の気の利いたポジショニングによるところが大きかったはずです。


〜❷ボールを繋ぐ技術の高さ〜

二つ目は、単純なボールを繋ぐ技術です。これはボールを受ける技術パスを出す技術とに分かれます。

前者についてですが、彼はボールを走りながらでもピタッとトラップをすることができます。尚且つ、ミスをほとんどしません。次のプレーにスムーズに移るうえで、このトラップの技術は非常に大事です。しかも走りながらボールを受けるので相手は捕まえることが困難なわけですね。

続いて後者についてですが、フリーでボールを受けた際にはライン間で待ち構えるマルコスへの縦パスや大外で幅を取る仲川への浮き玉のパスなどキーとなるパスを連発していました。躊躇なく局面を打開するパスを出せるため、マリノスの攻撃の潤滑油になっていました。

トラップからパスまで、これら一連の動作をテンポ良くスムーズに行なえる和田拓也がいたことで、マリノスのパス回しのテンポが上がっていたことは言うまでもありません。

以上、 #和田拓也レビュー でした。



【まとめ・考察】


清水が採用してきた戦術との相性も大いに影響していますが、攻撃の入り口、つまりビルドアップの部分は大分戦と比べて良化していたと言えるでしょう。ここは和田拓也や實藤の気の利いたポジショニング、身体の向きの作り方によってプレスをいなすことができたのが大きいです。

一方で、出口の部分、つまり崩しの局面は、かなり前線の選手のアドリブや個の力に寄っている部分が大きいのが現状。組織としての完成度はまだまだ向上の余地があります。この辺りは試合をこなしながら時間をかけて構築してほしいところです。今のままでは特に引いて守ってくる相手に苦労するかと。


一方で、大分戦からの配置の変化についても述べておきます。

配置の変化とは、前線の立ち位置についてです。大分戦では、エリキ・オナイウ・前田の3トップが全員内に絞る形でした。そして大外レーンであまり活きないティーラトンという組み合わせが機能不全を起こしていました。

この試合では、右サイドはウイングの仲川が幅を取ってSB松原が内側、左サイドはウイングの前田(後半:エリキ)が内に絞ってSB高野が幅取りと、左右のサイドで非対称、つまりアシンメトリーの配置でした。

何よりも大外レーンでプレーしてこそ最も輝く高野が生き生きとプレーをし、2アシストの大活躍。選手の特徴を活かすうえではこの配置は今後も使っていきたいところでしょう。


またこの試合では今まで不遇の時を過ごしていた渡辺皓太が1G1Aの大活躍するなど、過密日程に耐えられるほどの選手層の厚さを感じさせてくれています。やはりその時使う選手の特徴が出やすいシステムのバリエーションを豊富に持っておくことが大事、というのが私の持論です。

この点、今後の試合がますます楽しみになる、そんなミッドウィークの1試合でした。





8/19 Wed. 19:00K.O. J1第11節 清水3-4横浜

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