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落語形式で考えよう;報道されてる品質不祥事はマネジメントシステムで防げるってホント?

【第五十三回】 品質マネジメントシステムの適合性証明の実態


熊さん 「大家さんの話は,ISO9001は買い手に対する受注責任を果たすための業務の管理責任を明確にするマネジメントの責任の原則を決めてる、って事でヤンしたね?」

大家さん 「そうだよ。」

熊さん 「だけど、受注したら受注責任を果たすってぇのは当然の事だし、受注責任を果たせる自信があるから受注仕様って事でヤンしょう?そら、受注するときは受注した製品をまだ作ってはいないから、受注したらこうします、って買い手に向かって話すためにマネジメントシステムと業務の管理システムを説明することは必要だって事は分かりヤスよ。だけど、買い手の品質要求を実現する能力があるってぇのはよほどインチキ会社でなければ売り手としては当たる前の事でヤンしょう。それを審査して表彰する、という今までの品質管理表彰制度の延長みたいな事をやっても意味があるとは思えないんでヤンス。」

大家さん 「いや、ISO9001の適合審査ってのは、前にもいったと思うがな、審査して表彰するというような、自分は他と違うんだというような表彰を意味するのではないんだよ。売り手としては充分に自信があるけど、買い手としては実感できないだろう?特に、他国の売り手だと一層わからんじゃない。だから、買い手に代わって専門の審査機関が審査して買い手に対しての品質マネジメントシステムの証明をやりましょう、と言うのが適合性証明と言われる制度で、売り手自身のための表彰制度とは混同してはならんのだ。」

熊さん 「そういや、以前にそんなことを聞いたなぁ。表彰だったら表彰されないことが普通でヤンスが、売り手の大多数が自信を持ってることだったら、説明不足や勘違いで一、二度失敗する事があるとしても証明されないってことは少ないンじゃありゃしませんでヤンスか?大体から、日本は品質では折り紙付きの国って言われているでヤンしょう?」

大家さん 「ウン、そうだ。ISOの事務局の発表によると、世界で90万を超えるISO9001の適合性証明が発行されていると言うし、日本でも3万を超える証明書が発行されているという事がそういった事を示しているんだ。」

熊さん 「フーン、そうなんでヤンスか。」

大家さん 「そう言やぁ思い出したが、ついこないだバスとトラックの専業メーカーが国の型式指定をねつ造したデータを使って取得していたって事件でそのメーカーが設置した特別調査委員会の報告書が公表されていたけど知ってるかい?」

熊さん 「報告書が出たって事は新聞に出てヤシたンで知ってヤスが、それがなんかISO9001と関係があるんすカイ?」

大家さん 「直接には関係はないんだがな、ねつ造したデータを使って国交省に申請をしたのは開発部門の中で開発したエンジンを国交省の基準に適合するか検証することを担当する適合検証の部署だと指摘していてな。」

熊さん 「じゃぁ、その適合検証の部署とやらを改心させれば良いんじゃござんせんか?」

大家さん 「いや、適合検証の部署も好きこのんでねつ造したわけではないようで、特別調査委員会はねつ造しなければならないと思うよう適合検証の部署を追い込んでしまった会社の仕組みにメスを入れなきゃならないといってな、ISO9001に倣って会社の品質マネジメントシステムを構築するように提案しているんだ。」

熊さん 「会社の品質マネジメントシステムがなっていないから犯人を生んでしまったって事ですな。」

家さん 「でもな、熊さんが言うようにその自動車会社は例外として折り紙付きの品質優良国の日本も、第二次大戦の敗戦からの復興期には『安かろう、悪かろう』と言われていて必死で品質改良の努力をやってきて今があるんだ。それで、『品質改善』のための品質管理が発達してきたんだよ。」

熊さん 「それはアッシも聞いたことがありヤス。」

大家さん 「この『品質改善』ってのは主に業務の改善を扱っていて、改善は悪いところを善くすることでISO9001の考え方と違ったし、その計画をし推進するためのマネジメントには焦点を当てられていなかったと思うんだ。品質管理の優秀なところを表彰する制度が作られ、みんな表彰されようと努力していたんだが、買い手を中心に据えていたかというそうじゃなく、結局、自分の生き残りのための努力だったと言えると思うよ。」

熊さん 「そこにISO9001が上陸してきたってワケでヤンスな。始めはそれまでの考え方と違うんで、黒船が来たみたいな感じがあったんでしょうな。」

大家さん 「だからな、適合性証明を取るためのコンサルを売り込む人がいるんだが、日本的な品質管理に過去の成功体験を持ったコンサルタントの中には『品質マネジメントシステムとは、組織が顧客に対して提供する製品やサービスの品質を継続的に改善していく仕組みのことを意味します』なんて事を言う人もいるんだ。」

熊さん 「一番肝心の買い手の品質要求を実現する能力の説明責任を果たすってぇことがどこかにブッ飛んでイヤスな。」

大家さん 「あるいは、『品質マネジメントシステムとは、製品やサービスなどの成果物やその製造過程に対して、監視し管理するシステムのことを指す』と言うような事をいうコンサルタントもいるようなんだ。」

熊さん 「ありゃー、品質マネジメントシステムと業務管理システムとの区別がついてやセンですね。これでコンサルができるなんて思えないでヤンス。」

大家さん 「だから、熊さんも気をつけな、同じ穴のムジナにならないようにな。」

熊さん 「まあ、アッシのところにコンサルやってくれってぇ話しを持ってくるヤツがいりゃぁ、自分のお客様の立場に立てねえでオレに頼ろう何て考えるトップのところのコンサルは願い下げだぁ、って言ってヤリやさぁ。」

大家さん 「そうかい、そうかい、そりゃ良いな。まあ、間違っても大工の熊さんのところに話しを持ってくる事はないと思うがな。」

熊さん 「エヘ、まったくそのとおりでさぁ。だけンど、コンサルの押し売りに『おととい来やがれ』と言ってやる自信ができヤシた。仕事仲間の大工たちにも教えてやるでガンス。」

大家さん 「そりゃあ良いことだ。熊さんも頑張りな。何かあったらまたおいで。」

とまぁ、落語の世界ではかなりお堅い話題に長いことお付き合いをありがとうございました。この品質談議の一席、そろそろお後がよろしいようで・・・。

 テケトン テケトン、テケトン、テケテケテケテケ・・・・・・・・・

 (幕)

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