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落語形式で考えよう;報道されてる品質不祥事はマネジメントシステムで防げるってホント?

【第三十八回】  設計と開発の狙いとマネジメント-前編


熊さん 「8.3は製品とサービスの設計と開発って標題を持ってンで、きっと製品とサービスを生み出す難しい仕事を簡単にできる方法が書いてあるんでガショウね。」

大家さん 「いやいや、早とちりしちゃいけないよ、熊さん。ISO9001はマネジメントシステムの標準だから実際はどうするかまで書いてないんでな、実際の技術や方法は自分で考えなくっちゃ。ISO9001には期待できないよ。それより、第1条は顧客要求事項の実現能力を説明責任を果たす事がISO9001の目的だと言ってんだから、売り手が新しい製品やサービスを生み出すってことは対象になっていなくてな、買い手が考えた製品やサービスを売り手が引き受けたら、それを実現するためのことが対象になってんだよ。」

熊さん 「ホントですかい?」

大家さん 「初めて発行されたときのISO9001をみるとな、契約で製品を設計して供給する場合に適用するってことが書いてあって、設計が契約に含まれてないなら当時あったISO9002や9003を適用することになっていたんだよ。もっとも、ISO9002や9003は今はISO9001に一本化されているんだがな。」

熊さん 「じゃぁ、売り手に設計や開発の仕事があっても、買い手が買おうとする製品やサービスがもう実現しているので設計や開発はお呼びでないンなら、8.3に見合う説明責任の必要はないってことでガスか?」

大家さん 「そう、その通りだよ。ただ、熊さんは設計や開発って言ってるがな、ISO9001の原文をよく見るとな、どうやら設計と開発を一つのプロセスとして扱っていて、別の活動とはみていないようだ。」

熊さん 「どういうことでヤンスか。」

大家さん 「機械でもソフトウエアでもサービスでも、設計の前提になるパフォーマンス性能の要求はあるものの設計図も示されない状態で製品を受注した場合を考えてみな。その時は、設計図を引くに当たって製品を具体化しながら、部品、部材も買い手が指定していなきゃあ検討して、進めて行かなきゃならんだろう?だから、設計と開発は同時並行で進めていく事になるってワケだ。」

熊さん 「なるほど、ISO9001じゃぁ設計と開発を一つのプロセスとして表してるっていうことが分かりヤシた。翻訳JISが『設計・開発』ってナカポツを入れて訳しているのもソンな事を考えての事でヤンスね。で、機械ものでも標準化された量産部品で、このため設計・開発時点ではまだ買い手がハッキリしていない、って時はどうなるんでヤンス?」

大家さん 「量産品なんぞの時は開発当時は買い手がまだ決まってないことが多いんだから、要求事項を提示する顧客ってのがまだ現れてないんで、売り手側で要求性能を決める以外にないのだ。だから実際に設計・開発が完了して顧客開拓活動が始まってから、設計・開発した結果が買い手の要求にマッチするかどうか調べるしかないんで、設計・開発の要求事項を外した品質マネジメントシステムとしてISO9001を使うことが必要になるんだ。」

熊さん 「ISO9001認証機関って処が設計・開発の要求事項ってヤツを除外した認証ってのを認めているんでヤンスか?」

大家さん 「設計・開発の要求事項を除外した認証書は認証機関の元締めの認定機関の国際的会議体で認めているんだよ。」

熊さん 「だけどよぅ、設計・開発をチャンと進めていますってぇことの証明を第三者からもらいたいという気持ちになることも多いんとチャイますか?」

大家さん 「確かにそうなんだ。かといっても、自分で勝手に設計・開発の目標を決めて実現をしたとしても自己満足でしかないから、そんな事を評価しても買い手は喜ばないのは、熊さん、当たり前だろう?だから、目的とする潜在的な買い手を決め、市場調査や文献調査,技術調査で開発しようとする製品のイメ-ジを固め、必要な性能を決定するという活動を経て売り手として決めた顧客要求事項の設計・開発活動でなきゃならんと思うよ。」

熊さん 「基本は買い手のためになる説明責任を果たしてなくっちゃならねえ、ってことでヤンスね?」

大家さん 「うん、そうだ。ところで、いま話していた機械製品の時の事は、考え方としてはサービスやソフトウエアでも似ていると思うんだけど、モノを作るための材料が製品の場合はチョット違うようなのだよな。」

熊さん 「どう違うんでガス?」

大家さん 「鉄、非鉄材料とか化学材料などの『素材』と言われるものが材料の代表だが、これらは形を与えて製品に使われるものでな、製品を作るために買い手が購入するものなんだ。で、買い手はどんな製品を作るかはハッキリしてるけど、そのための素材は何らかの加工をして何らかの形状とした部品にして製品の中に組み込むので、形状を持った部品としての強度や耐久性などの品質は言えるが、使う素材はこうでなければならないとは始めは言えないものなんだ。」

熊さん 「アッシらの仕事でも、同じ素材を使っても厚さとかスパン長さとか断面形状などで部品の強度などは変わるモンでヤンス。」

大家さん 「たとえ言おうとしても、形状を指定した品質を言わなけりゃならないし、形状を売り手に教える事は本来社外秘にしておくべき製品情報を一部公開する事になってしまうだろう?教えられた売り手も買い手ごとに異なる形状などに合わせた試験、検査をするのじゃあ煩雑になってコストアップになってしまうので、標準化された量産品の事業の狙い合わない事になるんだ。」

熊さん 「そりゃそうでヤンスね。そういや、アッシらが素材を使う場合は、業者に見本をいくつか持ってこさせて、それを実際に評価した上で適切と考えるものを選んで、業者のいう仕様を信用して契約しやす。なんせ、素材についてはコチトラは専門ではありゃせんですし、専用の素材を使おうとしたら高いモノになっちまうンでヤンスから。」

大家さん 「だけど、使ってみたら期待しないモノが入ってきたなんて時はどうするんだい?」

熊さん 「それで、たとえ業者のいう仕様で買ったモノでも、中に使ってみておかしなモノが入っていたってぇことがあった時は、始めに評価した見本と比べて違っているはずでヤンスから、きつく言って取り替えさせるでガンス。」

大家さん 「なるほどな、売り手が言った素材の仕様は言ってみれば仮の仕様で、契約では明文にしてないけど本当は見本で確認した部品にした性能が本当の仕様と見なすって事だよな。」

 (次回に続く)

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