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「第1章 まだ海じゃない。アルカンタラ桟橋」 アントニオ・タブッキの「レクイエム」で巡るリスボン

「今世紀(20 世紀)最高の旅行作家」とも呼ばれているタブッキ。「レクイエム」の解釈とかは他の批評論に任せて、私なりに、小説の背景となる場所や、それを巡る思い出を、物語を追いながら、綴っていきたいと思う。

アルカンタラ桟橋
「アルカンタラ」Alcântara と聞くと、リスボンでは、まず展望台を思い浮かべる人も多いと思うのだが、「レクイエム」の主人公が最初に向かうの
は、テージョ川沿いのアルカンタラ桟橋の方だ。主人公である「私」は、友人の農園で寝ていたらいきなりここへ来た、と言う。「不思議の国のアリ
ス」や「オズの魔法使い」を思い起させる寓話的な導入だ。

桟橋、というと海沿いのイメージを持つが、実はテージョ川沿いにある。わかりやすいランドマークは、4 月25 日橋で、そのたもとあたりになる。もう少し下るとそこは大西洋だ。行ったことのある人はご存知かもしれないが、テージョ川は「海ですか?」と思うほどの大河だ。カモメも飛んでいる。桟橋として賑わっていたころは、どんな感じだったのだろうか。

リスボンの主役が河口の港で、桟橋が賑わっていた頃は、アルカンタラは倉庫が立ち並ぶ街だった。港としての役割を終えて後、1990年代頃になって空きとなった倉庫を利用しておしゃれなレストランやバー、クラブなどが立ち並ぶようになった。この辺はガイドブックにもよく書かれているが、私は残念ながら足を踏み入れたことはない。ひとり旅だったり、女子旅だったり、仕事半分旅だったり、が主な理由ではあるが、何よりアルカンタラはリスボン中心からちょっと遠いというのもあった。

そんな私も、次に機会があれば絶対行こうと思っているのは、近年この辺りにできた新名所、MAAT(the Museum of Art, Architecture and Technology)だ。現代アート、建築、技術の粋を集めた新しい形の博物館との触れ込みである。

建物の屋根に上るのは、画像を見ている限りフリーのようだ。実際の展示物は奥に並ぶ建物がメインと聞いた。
ペソアもタブッキもびっくりの、現在のアルカンタラ桟橋界隈である。アルカンタラ桟橋は、小説の最後の方に再び登場する。

ちなみに、「アルカンタラ展望台」の正式名称は、サン・ペドロ・デ・
アルカンタラ展望台(Miradouro de Sao Pedro de Alcantara)。桟橋とはまったく別の場所、リスボンを見下ろす坂の上にある。

※使用画像はWirestock - jp.freepik.com によって作成された free 写真です。

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