センター・サークル

 審判が高々と投げたコインを追って見上げた。ボールかピッチかその選択を大事とみるか、些細なこととみるかは人それぞれだろう。公正を期すためかあまりに高く投げたために、すぐには落ちてこない。芝よりも青い夜空に吸い込まれそうになる。この時間はただ待つだけの時間だろうか。何かを学ぶにはとても足りないように思える。だけど、学びは時を引き延ばしてもくれるはずだ。

 何をするにも僕は人よりもずっと時間がかかる。本を手元に置いて一度も開くことなく寝かせてしまう。楽しみは先にあると思えれば、少し気が楽になる。新しい楽しみの候補が先に現れた時、ようやく手元にあるものに触れることができる。今かどうかがいつも定かではない。問題は解くよりも前にずっと時間をかけて読み込まなければならない。問題の本質を見極めて、密かに隠されたテーマがそこにあるのなら……。コインはまだ上昇の途中だった。

 月明かりの中に祝日の地下街が見える。二人は頬を寄せ合いながら、食品サンプルの入った窓をじっとのぞき込んでいる。「何食べよう?」祝日の旅人が愛おしかった。同じものに視線を送る二人。両者の視線を一身に集めるサンプル(きっとオムライスだ)。その構図があまりにまぶしくて僕は泣きそうだ。認められているという一点においてあまりにも人間らしい。ああ、なんだ準備中か。硝子が割れて閃光と共に円盤が降りてくる。センター・サークルに着陸すると宇宙人は僕を誘拐しようとしたが、ほんの青二才だとわかると歩いてピッチを出て行った。

「駄目だよ君、こんなところに停めたら。君だけのスペースじゃないんだから」
 緑の服の人が近づいてきて僕を責めた。

「違う! 僕のじゃない!」

「ゴール♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪」
 いつの間にかゲームが始まり、ゴールが認められている。
 そんなことがあるだろうか。
 センター・サークルを避けて世界がまわっていくなんて。
(1ー0)
 いいや、そんなことが許されてはならない。

「おい、みんな待て! もっとちゃんと始めなきゃ!」

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