夜に口笛を
口笛で雲を呼んだ。
呼び寄せたところで行き先のことを忘れてしまった。それはよくあることだった。
「おっ、孫悟空気取りかい」(雲なんて呼び寄せて)
乗る気も一気に醒めてしまう。呼べもしない奴が好きなことを言うものだ。
「そんなんじゃないよ」
疑いを持ちながら雲を呼んだことはない。いつだってそれは日常の仕草の一つにすぎないのだ。雲はまだそこに浮いていた。飛んで逃げてもいい。行き先なんてなくても、ここから離れるというだけで十分に意味はある。密かに猫が近づいていた。そっと機会をうかがっているようにも見える。
(よかったら、お先にどうぞ)
あきらめの
家来をもった
陶酔に
浮きを続ける
舟は夢なか
折句「揚げ豆腐」短歌
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