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ナゴヤドームにホームランテラスを設置するべきか?

皆さま、こんにちは。

今回は

「ナゴヤドームにホームランテラスを設置するべきか?」

という問いについて考えてみたいと思います。

今年に入ってからこの話題について耳にすることが増えましたが、その原因は長年解決されることのない慢性的な得点力不足にあるように思います。

与田新政権1年目にあたる今季は村上打撃コーチのもと「強い打球を打つ」ことをテーマに掲げ打撃改革を行ってきましたが、現時点ではまだ得点増という形では反映されていないように思います。

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8/27時点で、チーム得点数はリーグ5位の455得点。

打率こそリーグトップを誇るものの、ホームラン数と四球数がリーグワーストのため、連打に頼らざるを得ない「効率の悪い」得点パターンが課題と言えます。

そんなパワーレスな打撃スタイルを作り出した要因の一つが、「魔境」とも称される本拠地ナゴヤドームの存在。12球団屈指の広さと外野フェンスの高さから、12球団でもっともホームランが出にくいのはよく知られているところと思います。

そこでまず、ナゴヤドームが過去にドラゴンズにどのような影響を与えてきたか、考えることから考察を始めましょう。

1. ナゴヤドームはドラゴンズにどのような影響を与えてきたか

中日ドラゴンズは1997年からこのピッチャーズパークを本拠地としてきたことで、特に極端な投高打低だった2011-2012年以降は、そのナゴヤドームに合わせた投手中心の守り勝つ野球を志向してきました。

結果としてナゴヤドーム開場以降入団した日本人選手で、シーズン20本塁打以上を達成したのは福留孝介と森野将彦の2人しかいません。

ときに平田良介、堂上直倫や高橋周平などその年の目玉高卒野手をドラフト会議で指名することもありましたが、高校時代に発揮していたパワーツールはプロ入り後は影を潜め、よりナゴヤドームに適した好守の中距離ヒッターに変貌することもしばしば。

その結果、現在チームを悩ます深刻なホームラン不足と、同じようなタイプの打者しかいないパワーレスな打者が揃ういびつな構成に陥ってしまいました。

一方で狭い球場を本拠地とする他球団は、よりスケールの大きな打撃を志向することで球場の広さに関係なくホームランを打てる打者がどんどん育つことになります。特に近年は「フライボール革命」によりフライ打球を打つことのメリットが明確になってきたので、今後さらにその格差が広がる可能性が高いように思います。

では実際に本拠地の球場が狭くすればホームランが増えて、万事解決なのでしょうか。

2. ソフトバンクとロッテはホームランテラス/ラグーンでどのような恩恵を受けたか

ここでは既にホームランテラス/ラグーンを設置した福岡ソフトバンクホークスと千葉ロッテマリーンズを参考に、ナゴヤドームにおけるホームランテラスの是非について考えたいと思います。

まず始めに、両チームがホームランテラス/ラグーンを本拠地に設置した前後で「ホームランの出やすさ」がどれだけ変わったかについて見ていきます。

フライ打球全体に対するホームランの割合を示すHR/FBを確認してみると、下記のようになりました:

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■福岡ソフトバンクホークス 本拠地 HR/FB
2014年→2015年
打者: 4.8 (リーグ最低) → 10.4 (リーグ最低)
投手: 5.8 (リーグ最低) → 9.9 (リーグ最高)

■千葉ロッテマリーンズ 本拠地 HR/FB
2018年→2019年 (8/28時点)
打者: 5.1 (リーグ最低) → 10.1 (リーグ4位)
投手: 7.7 (リーグ5位) → 11.1 (リーグ2位)
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ご想像の通りかと思いますが、両チーム共ホームランテラス/ラグーンを設置することで本拠地におけるホームランの出やすさが投打共に飛躍的に向上していることが分かります。

つまり打者はホームランを打てる可能性が高まるが、一方で投手は被本塁打のリスクも高まるということです。

これは特にフライ打球の多い打者・投手に傾向が顕著に現れるので、ホークスの場合は松田宣浩 (18HR→35HR)、マリーンズの場合は鈴木大地 (8HR→14HR, 8/27現在)が恩恵を受けたと言えます。

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また打球傾向に関して言うと、ホームランテラス/ラグーンを意識して短期的にフライ打球の割合を増やすことは難しいように感じました。

例えば今宮健太のように打球傾向が極端でない場合は徐々にフライ割合を増やしホームランを増やすケースはあり得ますが、明石健志や本多雄一のようなゴロ打球が多い打者への影響をかなり小さいです。

よってチームとしてホームランテラスの設置を検討するに当たっては、自軍の打球傾向をあらかじめ考慮する必要があるかと思います。

その点マリーンズは2018年以前からチームとして打者のフライ打球割合がリーグ平均以上をほぼ毎年上回っており、ホームランラグーン設置には最適なチーム環境だったと言えます。

3. 中日ドラゴンズは投打にどのような影響を受けそうか

次に打球傾向から、ドラゴンズの選手が投打にどのような影響を受けそうか考えてみます。

以下は2014年以降の打者および投手のフライ打球割合を表したグラフです。

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打者に関して言うと傾向はかなり顕著で、2016年以降年々リーグ平均からの乖離が大きくなっています。

広いナゴヤドームで生き残るにあたり、よりゴロ打球を打つ選手が増えたからでしょうか。ゴロ打球割合は毎年のようにリーグトップクラスのため、短期的にはホームランテラス設置によるプラスの影響は限定的になるかと予想します。

一方で投手に関しては、比較的リーグ平均との乖離は小さいですが、今季に関して言うとリーグ平均を上回るほどフライ打球割合が増えています。

今季は被本塁打を125本も献上するなどかなり多く、結果としても現れている印象です。

こちらは選手によってはより大きな影響を受ける選手が出てきそうです。個別に見ていくと、下記の選手はホームランテラスを設置した場合影響が大きく出るだろうと予測されます。

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■打者 (2019年8/28現在 フライ打球割合)
木下拓哉: 55.6%
福田永将: 49.1%
堂上直倫: 46.3%
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以上の選手はゴロ打球割合よりフライ打球割合が高い傾向が出ているので、ホームランテラスを設置した場合にホームラン数の増加が期待できます。

特に福田永将はソフトバンク松田のように、30本台に乗せるような大幅増が期待できるのではないでしょうか。

ただ上記に挙げた選手はいずれもバリバリのレギュラー選手ではなく、また挙げられる名前がこの3人くらいと限られることから、やはり短期的な好影響は他球団に比べると小さいのかもしれません。

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■投手 (2019年8/28現在 フライ打球割合)
笠原祥太郎: 53.0%
阿知羅拓馬: 50.5%
柳裕也: 45.1%
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上記は今季30イニング以上投げた投手の中で、特にフライ割合が高かった投手になります。

ただ30イニング以下の投手にも梅津、藤嶋、山本拓、福谷、鈴木博と期待の若手を中心にフライボーラーが多いのは不安材料です。
広いナゴヤドームで戦うに当たりその広さを生かしたフライアウトを多く取れるフライボーラーを集めることは現環境では最適解ですが、球場サイズが狭くなるとすればその前提が変わってきます。

投手陣は打撃陣以上に、ホームランテラスの悪影響を被ってしまうかもしれません。

4. まとめ

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以上、ナゴヤドームにおけるホームランテラス設置の是非について議論してきました。

打球傾向から考えると、

打者はゴロ打球の割合が高い打者が多いので、短期的にはホームラン増加によるチーム全体への好影響は限定的。

一方で

投手陣は若手を中心にフライボーラーが多いため、被本塁打のリスクは高まりそう。

よってもし来年の設置となった場合、初年度の影響の大きさは

「被本塁打>本塁打」

となりそうです。

ただだからと言って、短絡的にホームランテラスの設置に反対したい訳ではありません。

前述の通り中長期的には徐々にフライ割合を増やす・減らす取り組みを行うことでよりその恩恵を受けられる選手を増やすことは可能だと考えます。

例えばメジャーリーグのミネソタ・ツインズは、チームの目標として打球角度を15度に設定して成功を収めているようですし、育成方針の一つに「最適な打球角度の設定」を組み込むのは現実的に可能かと思います。

投手にしても投球データの分析からよりゴロを打たせるための球質の研究や、手元で変化する球種の習得によりゴロ打球割合を増やすことは十分可能ではないでしょうか。

つまりホームランテラスを設置したらすぐに「勝てるチーム」に変貌する訳ではないので、チーム編成および育成方針の転換とセットで、戦略的に検討を進めていくべきだと思います。


最後に、個人的にはホームランテラスを設置しないにしても、「ホームランバッターを如何に育成していくか?」という問いについては常に向き合っていく必要があると感じています。

いくらナゴヤドームに最適化された働きが期待できる選手を集めたところで、シーズンの半分以上はナゴヤドーム以外で戦う必要があることからは目を背けることはできません。

また選手のタイプに偏りができてしまうということは、ある条件下では効果を発揮しますが、裏を返せば苦手なタイプも作りやすくなってしまうリスクもあります。

例えばゴロヒッター揃いの中日打線は、ゴロを打たせることに長ける「グラウンドボーラー」たちに今季かなり苦戦しています (例: 阪神青柳、広島アドゥワ・野村、巨人メルセデスなど)。

そういった意味ではフライ割合が大きい木下や福田、堂上のような打者が貴重になってくるのですが、チームとしてそういう「フライヒッター」を優先的にスカウティングする&獲得する取り組みも重要なように感じます。

読者の皆様にとっても打球傾向はなかなか馴染みのない指標かと思いますが、今後注目してみて頂けると面白いかもしれません。

以上、ロバートさんでした。
ありがとうございました!

データ参考:
1.02 Essence of Baseball
nf3 - Baseball Data House -

*2019/9/7 中日新聞プラスへの投稿分を転載

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