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2020 中日ドラゴンズのドラフト指名を振り返る

皆さん、こんにちは。今回は10/26に行われたドラフト会議における、中日ドラゴンズの指名戦略について振り返ってみたいと思います。ドラフト会議の1週間前に更新したブログでは補強ポイントの確認からステークホルダーの分析まで行い、指名戦略と中京大中京高・高橋宏斗の1巡目入札を予想していました。

また2020年10月19日から23日にかけて行われた予想ドラフト、ヨソドラでは上記の記事で考察した指名戦略に基づき、以下noteでまとめた指名予想を行っています。

以上二つの記事でまとめた考察および指名予想と比較して、実際のドラフト会議で採られた指名戦略について考えたいと思います。今回中日ドラゴンズは、下記の選手を指名しました:

▽2020年 中日ドラゴンズ指名選手
1位: 高橋宏斗 投手 中京大中京高校
2位: 森博人 投手 日本体育大学
3位: 土田龍空 内野手 近江高校
4位: 福島章太 投手 倉敷工業高校
5位: 加藤翼 投手 帝京大学可児高校
6位: 三好大倫 外野手 JFE西日本
育1位: 近藤廉 投手 札幌学院大学
育2位: 上田洸太朗 投手 享栄高校
育3位: 松木平優太 投手 精華高校


まずは指名された各選手の紹介と、ルーキーイヤーとなる来季の展望について見ていきましょう。

ドラフト1巡目: 公言通り中京大中京高・高橋宏斗に入札

ドラフト1巡目では前日の公言通り、中京大中京高・高橋宏斗に入札。楽天も高橋への入札が予想されていましたが、実際には早稲田大・早川隆久へ入札(そして交渉権獲得)。他球団からのサプライズ入札もなかったことで、無事に一本釣りで高橋の交渉権を獲得しました。

中京大中京高・高橋宏斗は今年の高校生ナンバーワン投手。大学進学を最優先に進路を検討していましたが、今月6日に一転してプロ志望を表明したことで一躍今年のドラフトの目玉の一人となりました。

彼のプロ志望により米村チーフスカウトが「うちのドラフト戦略は変わった」と発言するほど、地元の超高校級投手は無視できない存在だったことは想像に難くありません。高橋が大学進学なら近畿大・佐藤輝明、中央大・牧秀悟のいずれかの1位指名を検討していたらしいので、「野手ドラフト」という編成側が目指していた方向性を今年は断念してまで優先した高橋の活躍には、今後も注目が集まります。

▼2021 ドラゴンズでの展望: まずは二軍で「土台づくり」メインも、一軍登板は30イニング未満の「お試し昇格」はアリ

スカウト陣のコメントによると「大学、社会人を含めても今年のナンバーワン」「松坂大輔、田中将大クラス」と即戦力としての期待も懸かりますが、焦りは禁物。与田監督も先発投手の投球管理に慎重で、昨季怪我がちな梅津晃大を性急に一軍昇格させなかったことを考えると、1年目からバリバリ戦力として回すプランは頭にないだろうと思われます。

来季まずはファームで「土台づくり」をメインとし、先発投手として優先的に育成されるのが基本線ではないでしょうか。昨年の高卒ルーキー・垣越建伸は4月末にプロ初先発を果たすとそこから徐々に登板イニングを増やしていきましたが、高橋も同様に慎重に起用されることが予想されます。

とは言え注目度の高いドラフト1位の投手なので、シーズン中盤以降に一軍先発ローテーションの状況によっては、一軍先発に抜擢される可能性も十分あり得ます。2022年シーズンに新人王の可能性を残す、30イニング未満での「一軍お試し登板」程度の起用なら現実的かなと思います。


ドラフト2-3巡目: 即戦力投手と将来のショートを指名

全体22番目となる2巡目指名はドラフト1位候補としても名前が挙がっていた地元出身の日本体育大・森博人を指名しました。

森の指名は事前のスカウト会議で即戦力投手を求めていた現場のニーズに合致するだけでなく、高い評価をしていたスカウトや地元志向を強めたい親会社のニーズにも合致するまさに「三方良し」の指名だったように思います。最速155キロのストレートを武器に、来季はバリバリの即戦力として1年目からの活躍が期待されます。

▼2021 ドラゴンズでの展望: まずは中継ぎの即戦力としてAチームの一角を目指す

即戦力選手の指名がほぼなかった今年のドラフトを考えると、森に掛かる即戦力としての期待はかなり大きいように思います。先発、中継ぎいずれも高いポテンシャルを秘める投手ではありますが、まずは中継ぎとして一軍戦力になることを個人的には期待しています。

今季の中日は、ライデル・マルティネス、祖父江大輔、‪福敬登‬の3人で構成されるAチームが圧倒的だった一方で、主にビハインド展開で投げるBチームが打ち込まれるケースが多く見られました。森はまずBチームとして一軍レベルを経験し、シーズンを追っていく中で序列を高めAチームを目指すシーズンを送って欲しいと思います。

将来有望な投手を1年目からガシガシ起用するのに不安を覚えるファンも少なくないかと思いますが、そこは阿波野・赤堀両投手コーチのブルペン運用に期待したいところです。


折り返しの3巡目では近江高・土田龍空を指名しました。個人的には同じ内野手でもより現場が求める即戦力として、三菱自動車岡崎・中野拓夢やまさかここまで残っているとは思わなかった東北福祉大・元山飛優の指名が先かと思っていたので、土田の名前が先に呼ばれたことに正直驚きました。

とは言えドラフト前の考察記事でも指摘した通り、石垣雅海が二軍レベルを卒業し、根尾昂や高松渡が外野起用も視野に入れる中、高卒ショートの指名は補強ポイントにピンズド。さらに土田は今年の高卒ショートではナンバーワンとも言われる天賦の高い守備力を備えた選手であるため、打撃や走塁など攻撃面にストロングポイントを持つ中日若手内野陣にはない「守備がウリの選手」として、存在感を存分に発揮してくれるはずです。

▼2021 ドラゴンズでの展望: ファーム不動の「ショートストップ」として優先的に起用

土田自身も「しっかり下積みをして、3、4年目にレギュラーで活躍したい」と語っていたように、来季はまずファームが主戦場となりそう。土田の高い守備力を考えると、複数ポジションを守らせる方針の中日二軍でもほぼショート一本で優先的に起用されるのでは、と予想します。課題は守備より打撃にあると思いますが、通年で試合に出続けられる体力づくりと攻守にレベルアップ、両面でしっかり下積みをして欲しい選手です。

また今季中日二軍でもっとも多くショートを守った根尾は、来季セカンドや外野中心に守ることになるのではと思います。この辺はまたこのオフにでも、「根尾昂のプロ2年目を振り返る」記事にて詳しく取り上げる予定です。


4-5巡目: 高卒投手を連続指名するサプライズ。中長期的な視点での「将来性へ振り切った指名」の予感

4-5巡目では、高卒投手を連続して指名する個人的にはとても驚きの指名が行われました。土田が3巡目で指名されたことで尚更4-5巡目では即戦力寄りの指名になるかと思いましたが、指名されたのは左投手の倉敷工業高・福島章太と、右投手の帝京大学可児高・加藤翼の二人。中日の指名順までにめぼしい即戦力投手・野手が既に指名されていた可能性もありますが、それ以上に中長期的な視点から将来性を優先した印象の方が強く残りました。

2016年5位の藤嶋健人が中継ぎで一軍戦力となり、2017年4位の清水達也と6位の山本拓実が早くも一軍のローテーションを争うところまで成長していることが、今回の思い切った指名の背景にあるのは間違いないでしょう。近年、下位指名でも次々に戦力化できている「育成メソッド」と、有望な投手を見極める「スカウトの目利き」の両輪こそ、これからの中日ドラゴンズにおける投手王国復興の原動力となるのではないかと思います。

4巡目で指名された福島は左の剛腕投手で、野本圭スカウトが就任以降初めて指名された選手です。5巡目の加藤翼は例年通りの「地元枠」で、地元岐阜出身の最速153キロ右腕。いずれもストレートが武器の本格派として期待される点は、ナゴヤドームにホームランテラスが設置されても高い奪三振能力を武器に自力でアウトを量産できる投手の獲得・育成を志向するチーム方針とマッチします。近い指名順で指名された左右の剛腕投手たちには、1位指名された高橋をバチバチに意識しながら、共に切磋琢磨して欲しいです。

▼2021 ドラゴンズでの展望: 福島、加藤ともに「土台づくり」の一年に

来季の起用法として、両者共にまずは体力づくりと二軍での実戦登板を積むことがメインになるでしょう。福島は「やるからには開幕1軍」とコメントも出してはいますが、まだ先が長い高卒投手だけに焦りは禁物。現首脳陣もその辺はよく分かっているだけに不安はありませんが、まずは怪我なく通年で活躍できるプロとしての体づくりと、プロのレベルに適応することに時間が費やされることと思います。


6巡目: 野本スカウトの「隠し球」はアスリートタイプのスケールの大きな社会人外野手

支配下最後となる6巡目では、改めて野本スカウトの担当する中四国地方から高卒5年目の社会人外野手、JFE西日本・三好大倫を指名。社会人2年目までは投手を務めており、3年目から外野手に転向した選手のようです。

私自身もドラフト指名されるまでは知らなかった選手でしたが、走攻守揃ったアスリートタイプの外野手として社会人出身の選手でありながら伸び代を期待できる点は、補強ポイントに十分マッチしている存在と言えるでしょう。身体能力が高く長打力も期待できるスケールの大きさを見るに、大島洋平の後釜としてセンターとしても、また怪我がちの平田良介をベンチに追いやるレギュラーのいずれにおいても、将来活躍している姿を思い描くことができそうな選手です。

▼2021 ドラゴンズでの展望: まずはファームで攻守にプロのレベルに適応し、バットで一軍昇格チャンスを掴みたい

社会人出身の選手とは言え、6巡目指名の三好にとってはまずファームでプロレベルに適応するのが先決でしょう。特に外野手転向後3年でどれだけ外野を守れるかは未知数のため、工藤隆人二軍外野守備コーチと共にレベルアップを図ってもらいたいところです。二軍で多くの打席機会を得る中で結果を出し、今季の渡辺勝や滝野要のような序盤の代打として一軍昇格のチャンスをまずは掴み取って欲しいと思います。


育成1-3巡目: 3人の将来性豊かな投手を獲得!

育成指名においては、札幌学院大・近藤廉、享栄高・上田洸太朗、精華高・松木平優太と3人の投手を獲得しました。近年の育成指名では愛知・岐阜出身の投手を多くても2人までの指名となっていたため、地元以外の選手も含めて3人も指名したのは驚きでした。

近藤はここ2年毎年担当エリアの選手が注目されている、八木智哉スカウトが担当した左の奪三振マシン。上田は地元享栄高校出身の、ポテンシャルが高く評価された大型左腕。松木平は投球フォームの美しさから高い注目を集めていた、こちらもダイヤの原石タイプの右腕。前述の通り、下位指名でも戦力に育て上げる自信と確かな方針を持っているからこその指名だと思うので、中長期的な長い視点でこの将来性豊かな投手の今後を見守っていきたいと思います。

▼2021 ドラゴンズでの展望: 近藤はまずはファームで結果を残したい。上田、松平木は実戦登板より「土台づくり」最優先

来季の起用法として、大卒左腕の近藤は体調面に不安がなければ1年目の開幕からファームで起用されていくように思います。先発とリリーフ、どちらになるかは分かりませんが、育成選手という立ち位置を考えるとまずはリリーフで起用される可能性が高いように思います。リリーフの場合だと投球内容次第では早期の支配下登録も考えられるので、まずは二軍レベルで結果を出していきたいところです。

上田、松木平の二人は実戦登板よりも「土台づくり」の一年になることが予想されます。支配下の高卒投手3人と比べて実戦登板の機会も少ないでしょうが、彼ら以上に焦らずまずはプロ野球選手としての体づくりを優先して欲しいところです。


●編成表のアップデート: 投手を多く抱えるのは負担集中を避ける「リスクヘッジ」か

以上、今年の全指名について見ていきました。今回交渉権の獲得に成功した9選手を編成表に落とし込むと、下記の通りとなります:

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ぱっと見でも、如何に高卒投手に偏った指名が行われていたかがよく分かると思います。

さらに投手陣においては現時点で支配下で38人、育成で5人の合計43人も在籍していて既に余剰気味だったにも関わらず、新たに7人の投手を指名したのは正直アンバランスに感じます。昨年のドラフト後にも同じ感想を持ち、「今後トレード等で投打の人数配分は改善されるだろう」と予想していた一方で現実にはそうならなかったことを考えると、育成含めて投手を多く囲うというのは怪我などで主力選手が抜けても、一軍・二軍含めて一部の投手に負担を集中させないような、リスクヘッジの意図もあるのかもしれません。


続いて事前の考察記事で挙げた補強ポイントとどう合致しているか、についても見ていきましょう。

●補強ポイントとの整合性: 与田監督の契約最終年の来季に向けた補強はマスト

先発: 期待の若手は多いものの優勝争いをするには層を厚くしたい、即戦力欲しい
→x 高卒投手を5人獲得し、将来性に期待。来季の一軍戦力にはカウントできない

中継ぎ: AチームとBチームの乖離が激しいため層を厚くしたい、即戦力欲しい
→◎ 森はリリーフの即戦力として期待できる

捕手: 一軍、二軍ともに充実しており補強の必要性は低い
→- 指名なし

内野: 即戦力レベルの二遊間、育成対象のショート両方必要
→△ 次世代のショート・土田の獲得には成功したものの、即戦力内野手の獲得は見送り

外野: 即戦力と将来性を両立した大卒以上の外野手
→○ ポテンシャル十分の三好はファームでどれだけやれるかがカギ


考察記事で挙げた補強ポイントと照らし合わせてみると、まず現場も要求していた即戦力投手は森の獲得のみ。さらに野手は将来に向けた指名としてポテンシャルの高い土田と三好を指名した一方で、散々各種メディアでも発信されていた「阿部と京田の競争相手を用意する」については今年の有力候補だった中野や元山をスルーするなど、ドラフト前の意気込みと現実の指名が大きく乖離していた点は気になりました。

既存戦力と比較したときに今年の候補の中にはスカウトのお眼鏡にかなう選手がいなかった、ドラフト候補の充実度を考えると今年は将来有望な投手の獲得を優先し、「野手ドラフト」は来年でも問題ない・・などなど、編成視点で考えたとき、今回の指名はドラゴンズの中長期的な方針を優先するものだったのは間違いないでしょう。

ただ一方で、来季が契約最終年となる与田監督にとっては今回のドラフトが現場のニーズを反映した指名ではなかったこともまた事実です。来季の戦力補充を今年のドラフトだけで賄うのは現実的ではありませんが、即戦力となる選手が森一人ではさすがに心許ないでしょう。今季終盤の快進撃でAクラスが手の届くところまで来ているとは言え、巨人との戦力差を考えると、与田監督ら首脳陣による現有戦力の底上げに「おんぶに抱っこ」で来季優勝争いをしていけというのは、あまりに不憫ではないでしょうか。

コロナ禍での球団経営悪化は想像に難くないですが、大野雄大への大型契約の提示はもちろん、FA選手の獲得、トレードなどオフの精力的な補強とセットで初めて「今年のドラフトは100点満点だった」と言えるのだと思います。そんな中で、まずは大野へ4年総額12億程度の大型契約と、ソフトバンクを退団する内川聖一の獲得調査に乗り出した点が報道されました。ビシエド重傷も報じられる中、今後も来季に向けた補強については注目していきたいところです。


●ヨソドラとの相違: 正解は1位高橋宏斗のみ・・

最後に、前述のヨソドラで行った指名と実際の指名の相違を見ていくことで、「答え合わせ」をしていきたいと思います。今回は1位公言の高橋宏斗のみ当たりで、残りは全て外す散々な結果となりました・・。

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過去の傾向と与田監督最終年の来季に向けて「即戦力重視」を前提に指名戦略の予想を組み立てていきましたが、球団がもっと先を見据えていることがよく分かりました。今回改めてドラフト予想の難しさを痛感しましたが、ヨソドラは指名戦略の予想やドラフト候補選手の調査などを通して今年のドラフトについて深く理解することに繋がる、大変意義深いイベントだったと心から思います。また来年も開催予定とのことなので、来年も懲りずに参加させて頂きます (小声)。


以上、ロバートさんでした。
ありがとうございました!


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