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2019 中日ドラゴンズの「中継ぎ投手」運用を考える

皆さん、こんにちは。今回は

「今季の中日ドラゴンズにおける中継ぎ投手運用」

について考えてみたいと思います。

先週は今季の先発投手運用について考えてみました。

今回は「中継ぎ投手」の運用について、前回同様に今季の起用法を細かくチェックしながら、その内容について掘り下げていきたいと思います。

1. 基本成績を振り返る: 魔の6月を除き基本的には優秀な成績

まずは中継ぎ投手に限定した今季の結果について、月別推移から簡単に振り返ります。

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防御率は投手の成績を表す一般的な指標ですが守備による影響を取り除くことができないので、守備の影響を受けないHR/9 (9イニングあたりの被本塁打数)、奪三振割合、与四球割合の指標についても合わせて見ていきます。

まず防御率については、

6月を除いて全ての月でリーグ平均を下回る好成績を残しています。

6月は2度のショッキングな逆転サヨナラ負けや、西武打線による山賊被害などが響き防御率が跳ね上がってしまいましたが、それ以外の月では好成績を残し、特に後半戦はリーグでも上位レベルで失点が少なかったと言えるでしょう。

その他の守備から独立した指標についても、ほとんどの月でリーグ平均より好成績を残しており、先発投手と比べて通年で安定した成績を残していたと言って良いのではないでしょうか。

昨季は中継ぎ投手の防御率がリーグ最下位だった点を踏まえると、補強なしでここまで改善できたのは運用面によるサポートも大きかったのかもしれません。

中継ぎ投手については、下記の5点について掘り下げてみていくことで、その好調の要因について探ってみたいと思います:

①投球回数
②連投回数
③回跨ぎ・ロングリリーフ起用数
④役割分担
⑤ブルペンにおける「肩の作り方」

2-1. 中継ぎ投手の「投球回数」

まずは今季中継ぎとして起用された投手が、どれだけの投球回数を投げたかについて見ていきます。

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上記表はセリーグ各球団における、中継ぎ投手それぞれの投球回数を表しています。
球団によって投手の起用人数や、一部の投手への依存度が違うのが分かるかと思います。

ドラゴンズに注目してみると、今季はセリーグでもっとも少ない16人の投手を中継ぎとして起用しました。
60イニング以上投げた投手は最多ホールドポイントを記録したロドリゲスのみで、他球団と比較するとグラフの形状がなだらかで、多くの投手に負担が分散されているように見えます。

ただこれだけでは負担分散が適切に行われていたか判断することは難しいので、連投や回跨ぎと言った中継ぎ投手に負担が掛かる起用法がどのように行われていたかについて、以下で確認していきたいと思います。

2-2. 中継ぎ投手の「連投」

こちらでは中継ぎ投手が今季どれだけ連投を重ねたかについて見ていきます。下記では3日連続で登板した「3連投」がどれだけあったかについて確認します。

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ドラゴンズはセリーグにおいて巨人に次ぐ20回の3連投以上の登板(うち4連投1回)が発生しました。
今季から投手コーチに就任した阿波野コーチは開幕前から「3連投はシーズン終盤までなるべく避ける」と発言しており、シーズン中も「なるべく避ける」姿勢は見て取れましたが、回数だけ見ると残念ながらリーグ内でも上位と言う結果になってしまいました。

ただ内訳を見てみるといずれもAチーム(*試合終盤に勝ちパターンとして投げる中継ぎ投手)の投手がほとんどで、Bチーム(*試合序盤〜中盤に投げる中継ぎ投手)の投手は田島と祖父江がそれぞれ一回ずつと、役割に応じて明確に判断に違いが出ています。

今季5位に沈んだドラゴンズはリーグワーストレベルの得点力で僅差のゲームが多く、また終盤までリードした勝ち試合は確実にモノにするために4点差でもAチームを惜しみなくつぎ込んできた結果が、この数字に表れているように思います。

2-3. 中継ぎ投手の「回跨ぎ・ロングリリーフ」

次に中継ぎ投手が今季どれだけ回跨ぎ・ロングリリーフでの登板をしたかについて見ていきます。
今回は中継ぎ投手が1回1/3以上投げた試合を「回跨ぎ・ロングリリーフ」としてカウントしています。(*厳密にはその基準以下での回跨ぎもあるかと思いますが、集計上の都合で上記の定義としていることをご理解ください)

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こちらはリーグ内のライバルチームと比較して、もっとも少ない回数となりました。
内訳を見るとBチームとして投げていた又吉、三ツ間の右サイドコンビがそれぞれ10回以上の回跨ぎをこなし、主に先発が早めに崩れた試合やビハインドの試合中盤に淡々と回を跨いでいた印象が強いです。

またセットアッパー・ロドリゲスの1回1/3以上の登板がゼロだったことからも分かるように、基本的にAチームの投手には回跨ぎを行わせていなかった方針が読み取れます。

3連投の回数は多くなってしまいましたが、回跨ぎ・ロングリリーフの実情と合わせて考えると「Aチーム、Bチームの役割分担を適切に行うことで起用法を使い分け、なるべくの負担分散に務めた」と言えるかと思います。

以下では改めて「ブルペンにおける役割分担」の考え方について少し掘り下げて見ていきます。

2-4. 中継ぎ投手の「役割分担」

中継ぎ投手の役割分担については、過去にもこのブログで何回か取り上げさせてもらいました。

以下ではまず開幕直後とシーズン最終盤における「ブルペンの序列」について確認していきます。

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開幕直後からその顔触れがガラッと変わっているのが一目瞭然かと思います。
特にシーズン終盤の中継ぎ陣については、Aチームとしての起用に値する投手の人数が増えたことで、ハイレベルな投手を早い回から投入できる点が他球団と比較して強みになっていたと言っていいでしょう。

中継ぎ投手の負担分散・運用のキモであった役割分担については、今季のAチーム、Bチーム起用でそれぞれ印象的だった点を挙げたいと思います。

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▼Aチーム起用: 鈴木博志、Rマルの後釜としてロドリゲスではなく岡田をクローザーに抜擢
シーズン序盤における鈴木博志の二軍降格判断、Rマルの国際大会参加による離脱に伴い、その後釜としてクローザーに抜擢されたのは岡田だった。
打者を「制圧」できる支配力を持っていたのはロドリゲスの方だったが、与田監督は経験豊富な岡田をクローザーに指名。
前任者である岩瀬から推薦されたと言うこぼれ話も聞こえてきたが、この抜擢を後押しした決め手として「より支配力のある投手はセットアッパーとして起用する」と言う戦略的な理由があったのではと推察する。

一般的にはクローザーが中継ぎ投手の中で最も負担が大きい役割と認識されがちだが、「9回3点差以内」など登板機会がある程度予測できるクローザーよりも、試合終盤のピンチの場面や相手の上位打線に合わせて登板するセットアッパーの方に負担が掛かるケースの方が多い。
よってチームNo.1のリリーバーであるロドリゲスをより試合終盤の重要な場面で起用するために、比較的「準備がしやすい」クローザーには支配力では劣るが経験豊富な岡田を抜擢したのではないか。

岡田は血行障害の影響からか登板ごとの調子のムラが激しかったり、ストレートとスライダーのツーピッチになりがちで不安定な面も露呈したが、シーズン終盤までその座を明け渡すことはなかった。
来季以降の起用法については現時点では明かされていないが、個人的には今季の「セットアッパーロドリゲス・クローザー岡田」の判断自体は妥当だったように思う。


▼Bチーム起用: 失敗もあったが何度か試された「序列上げ」起用
あまりフォーカスが当たることの少ないBチームの起用法について印象的だったのは、シーズン中何度か試された「序列上げ」起用が挙げられる。
これはブルペンでの序列が低い投手が好調を維持している際に、その投手をより重要度が高い場面で試すことでAチームの枚数を増やそうとする試みである。

例えばシーズン後半以降に序列下位から結果を積み重ねた藤嶋や福は、首脳陣の課した「序列上げテスト」をクリアすることで最終的にAチームリリーフとして定着した。
一方でその「序列上げテスト」をクリアできなかった投手も何人かおり、代表的なのは小熊である。

印象的だったのは結果的に彼の今季最終登板となった6/1巨人戦。
4試合連続自責ゼロとまずまずの投球を続けていた小熊は、4点リードの6回に勝ちパターン継投の一番手として送り出されるも、一つのアウトも取れず無死満塁のピンチを作り降板。代わった田島が同点の満塁ホームラン、さらに勝ち越し弾まで浴びたことで最悪の継投策と批判されてしまった。
ただ個人的には「小熊をリードした中盤でも使えるようにしたい」と言う思惑が背景にあったように思うので、人選の拙さよりも小熊自身が首脳陣の期待に応えられなった、と言う点に尽きると思っている。
こういった「序列上げ」起用の積み重ねが、シーズン終盤の層の厚い中継ぎ陣を作り上げた要因である。
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2-5. 中継ぎ投手の「ブルペンでの肩の作り方」

最後に中日中継ぎ陣がどのようにブルペンで準備していたかについて見ていきます。
こちらについては全球場、全対戦相手について観察した訳ではありませんが、ブルペンが観客席から見える神宮球場でのヤクルト戦に限定した内容についてお伝えします。

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上記表は両軍の中継ぎ投手が試合中、どのようにブルペンで準備したかを表したものになります。
「ブルペン」の項に名前がある投手は、該当するイニング中に投球練習(キャッチボール、立ち投げ含む)を行ったことを示しています。

例えば今回取り上げた上記試合は、延長12回までもつれる白熱した試合となりました。
両軍とも先発投手+6人の中継ぎ投手をマウンドに送り込みましたが、ブルペンで肩を作った投手・回数には明確な差があったことが分かるかと思います。
何度か神宮球場でブルペンの観察をした限り、両チームのブルペンでの「肩の作り方」については、下記のような違いが見受けられました。

▼中日ブルペン
・試合序盤〜中盤にかけてブルペンにおける序列の低い投手から順番に肩を作り始める
・試合状況を睨みながら、登板直前に2度目のブルペン入りで最終調整を行う
・試合状況によっては序盤に肩を作った投手が登板しないこともある

▼ヤクルトブルペン
・先発投手が崩れない限り、基本的にブルペンは稼働しない
・勝ちパターンの投手など登板予定のイニングが明確な投手は、登板直前の味方の攻撃イニングから一度だけ肩を作る (例: 8回裏の石山)
・味方投手がピンチを迎えた際などそのイニングでの投手交代が考えられるケースで投手が複数回肩を作るケースはあるが、基本的には肩は一度しか作らない


他球団の試合を見るに中日の「2度肩を作る」スタイルが日本では一般的のようですが、ヤクルトの場合は2014年から投手コーチを務めた高津さんの影響で、メジャー式の「登板直前に一度肩を作る」スタイルに徐々に変えていったそうです。
中継ぎ投手運用についてはいかに登板試合数、連投を抑えるかにフォーカスが当たりがちですが、ブルペンでの投球も投手の肘肩に負担が掛かっているのは間違いありません。

よってドラゴンズのブルペンにおける肩の作り方については、好調の要因となったというよりは、まだまだ改善の余地がある部分だと言って良いかと思います。
ただ上記ヤクルト式のルーティンをすぐに取り入れることも難しいように思うので、来季以降の改善に期待して引き続きチェックしていきたいと思っています。

3. 中継ぎ投手運用・まとめ

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以上、今季の中継ぎ投手運用について見ていきました。
まとめると

「役割分担の明確化で①AチームとBチームの負担分散だけでなく、②勝利のための戦略的な配置転換、および③Aチームで使える投手の数を増やすことを狙っていた」

と言えると思います。

繰り返しになりますが昨季からの補強がほぼない中で、育成・指導のみならず上記で挙げたような「運用」により強力なリリーフ陣を作り上げたのは賞賛に値すると思います。

今季台頭したリリーフ投手には実績の乏しい若手も多く、来季以降も今季並みの成績が残せるかどうかは未知数ではありますが、阿波野・赤堀両コーチが如何に今季以上のブルペン陣を来季作り上げるかは、今から楽しみです。

と言うことで、2回に渡り今季の投手運用について見ていきました。

次回は「野手起用法・戦術」について考えたいと思います。


ロバートさんでした。
ありがとうございました!

データ参考:
1.02 Essence of Baseball
nf3 - Baseball Data House -

*2019/11/2 中日新聞プラスへの投稿分を転載

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