スクリーンショット_2020-01-01_13

2019 中日ドラゴンズの「野手起用法・戦術」を考える

皆さん、こんにちは。今回は


「今季の中日ドラゴンズにおける野手起用法・戦術」


について考えてみたいと思います。

今季ドラゴンズはシーズンを通して慢性的な得点力不足に悩みチーム打率こそリーグトップだったものの、得点数はリーグ5位に終わりました。単純比較はできませんが、投手陣が失点を前年から100点以上減らしたのに対して得点数は前年を下回ったことからも、課題が浮き彫りになった感があります。

一方で野手起用に関して見ていくと、今季は昨季までと比べ「新戦力の台頭」という明るいニュースが比較的多かったように思います。

即戦力の補強がない中でうまく現有戦力を活用し、大ブレイクした阿部を筆頭に加藤、遠藤、井領ら実績の乏しい、あるいは伸び悩んでいた中堅選手が一軍戦力として活躍したのが印象的でした。

そこで今回の記事では、与田監督、伊東ヘッドコーチらによる今季の「野手起用法・戦術」を細かくチェックすることで、その内容について掘り下げていきたいと思います。

1. 基本成績を振り返る: 12球団屈指の守備陣と課題が明確な打撃

まずは野手の今季成績について、打撃は各項目について月別推移で、守備は通年におけるポジション別のリーグ内の相対的な評価について振り返ります。

【打撃】
打撃成績について見ていくと、前述した「得点数リーグ5位」が示している通り、出塁率と長打率においていずれもリーグ平均を上回ったのは8月のみという結果が出ています。

スクリーンショット 2019-11-08 0.11.38

8月と言えば月間勝率こそ5割を下回ったものの、アルモンテ、福田、ビシエドら中軸野手がリーグ屈指の働きを見せ、今季唯一チームの月間得点が100を超えた月でした。ナゴヤドームでもその長打力を発揮できる選手たちの活躍なしでは、やはり得点力アップを語ることは難しいように思います。

また打席数における四球割合、三振割合については一貫してリーグ平均かそれ以下という結果となりました。

簡単に言えば「三振はしないが四球による出塁はできない」という傾向が見て取れ、こちらも長打力を発揮できる選手が少ないためストライクゾーン内で勝負される割合が多いことに表れているように思います。


【守備】
低調だった打撃成績の一方で、守備については多くのポジションでリーグ屈指の数値を叩き出しました。

守備指標UZR (*Ultimate Zone Rating)においてセカンド、サード、ショートとライトでリーグ1位を獲得。キャッチャーとセンターはリーグ5位と奮いませんでしたが、チーム全体で見るとリーグ屈指の成績を残しており、守備においてはチームの強みであると言っていいかと思います。


結果だけ見ると明暗別れる「打撃」「守備」でしたが、それではその結果はどのような起用法・戦術によってもたらされたものなのでしょうか。

今回は以下の4項目から野手運用について見ていきたいと思います。

①ポジションから見る起用法
②打順から見る起用法
③控え野手の起用法
④バント・盗塁に見る戦術

2-1. ポジションから見る起用法

まずは今季与田監督が「どのポジションで誰を起用していたか」について、昨季との比較を見ていきます。

スクリーンショット 2019-11-08 0.38.21

ポジションによって起用法に違いがあるのが分かるかと思います。

ファースト、ショート、センターの3ポジションについてはそれぞれレギュラー選手が明確に固定されており、ビシエド、京田、大島の3選手がこの2年間ほぼ固定されているのが分かります。

ショートの京田については開幕スタメンを剥奪されるなど与田監督の競争を促したい意図が見て取れましたが、結果的にはその高い守備力を武器にシーズンを通して起用され続けました。

▼世代交代したキャッチャー
前年と比較してその顔触れが大きく様変わりしたのはキャッチャーです。

30代の捕手が正捕手を争った昨季から一転し、今季は加藤が開幕から大抜擢。また木下も怪我で途中離脱したものの、終わってみれば自己最多の出場機会を得た一年となりました。

正捕手争いは来季加入する郡司も含めまだまだ予断を許さない状況ですが、伊東ヘッドコーチおよび中村バッテリーコーチのもと、若手を積極的に起用することで将来の正捕手を我慢強く育てたいという意向が色濃く表れていたように思います。

他球団と比較して攻守に大きな弱点となっているポジションですが、出場できるポジションが一つしかない分かなり育成が難しいので、ベテランよりも若手・中堅に優先的に出場機会を与える方針は間違っていないように思います。

▼キャプテン高橋周平のサード専念
さらに今季の野手起用を語る上でもっとも印象的だったのは、「キャプテン高橋周平のサード専念」だったと思います。

前年にセカンドのポジションで初めて規定打席に到達した高橋周は、その打撃ポテンシャルで今後数年に渡りチームに強みをもたらすヤクルト山田哲人のような存在になるかと思っていました。

ただその予想を覆し、与田監督は彼をあっさりと本職のサードに戻し、春季キャンプからおそらく一度もセカンドのポジションで練習すらさせていなかったように思います。

その意図については深く語られてはいませんが、恐らく今年からキャプテンに任命した高橋周を得意なサードのポジションに専念させることで、攻守にワンランク上の成績を残して欲しかったのではと推察します。

実際に打撃面では怪我で離脱するまで首位打者を狙える成績を維持し続け、守備ではリーグトップクラスの貢献で初のゴールデングラブ賞も獲得。与田監督の起用に見事応えた形になりました。(*追記: その後セリーグ三塁手としてベストナインの獲得も発表されました)

またサードに専念させた高橋周の煽りを受けレフトでの出場がメインになった福田や、彼の代わりにセカンドでレギュラーの座を掴んだ阿部の活躍も特筆すべき点です。個人的に大好きなこの両者については改めて個別記事を書こうと思っているので今回の記事ではこれ以上の言及は避けますが、この二人が前年ほとんど一軍で出場機会がなかったポジションで結果を出したことが、チームの底上げに繋がったのは間違いありません。

野手起用については、リーグでも上位レベルの成績を残せる選手は固定しながら、それ以外のポジションでは若手・中堅選手の積極的な起用や配置転換により成果を出したと言えるのではないかと思います。

2-2. 打順から見る起用法

次に与田監督が今季「どのように打順を組んでいたか」について見ていきます。

スクリーンショット 2019-11-08 1.16.53

まず左側は各打順における中日のOPS (出塁率と長打率を足し合わせた指標)と、リーグ平均を比較したものになります。また右側は各打順においてどの選手が多く起用されたか、出場試合数の割合を示しています。

▼孤立した1番平田
中日は主に平田が担った1番打者の成績がリーグトップだったものの、京田が任された2番打者および8-9番の主にバッテリーが担っていた打順でリーグワーストでした。

つまり「攻撃力の高い1番打者をリーグワーストレベルの打者の間で孤立させた」ということです。

これは今季の得点力不足の原因の一端を如実に表しているように思います。

打順の特性上1番打者は走者なしで打席が回ることが多く、長打力も兼ね備えた平田を1番で起用することは最適ではなかったように思います。

さらに平田の後には長打力に弱点を抱える京田が控えていることで、相手投手は「平田を出塁させても京田で打ち取れば良い」との考え方が生まれていたはずで、それが平田の出塁が効率的に得点に結びつかなかったと言えるのではないでしょうか。

▼認知され始めた2番打者の重要性
上位になればなるほど多くの打席が回り、またクリーンアップから中位にかけてより走者を置いた場面での打席が増える特性を理解した上で打順を組むことが、効率的な得点力の向上に繋がることは間違いありません。

その中で2番打者は「打順が2番目に多く回り、かつ1番打者以上に走者ありで打席が回る」点に置いて、現代野球ではその重要性の高さが見直されている打順になります。

日本ではまだまだ2番打者=バントが上手い、小技に長けた選手というイメージが強いと思いますし、特に伝説的な2番打者・井端弘和を長年見続けていたドラゴンズファンにとっては尚更だと思います。

ただ近年では2015年のヤクルト川端 (首位打者)や、今年の巨人坂本のように強打者を2番に据えるトレンドも定着してきており、2番打者にどれだけ優れた打者を置けるかが強力打線を形成する上ではカギになってきます。

与田監督も今季数試合で福田や高橋周を2番に起用するなどしてきましたが、限定的な起用に留まりました。打順の組み方については正直改善の余地があるように見受けられるので、こちらは来季以降も引き続き注視していきたいと思います。

2-3. 控え野手の起用法

次に与田監督が今季「控え野手をどのように起用したか」について見ていきます。以下は今季のセリーグにおける、代打・代走の起用数を表しています。

スクリーンショット 2019-11-08 2.04.31

▼代打堂上・井領が真価を発揮
まず代打については、他球団と比較してそれほど多く起用されることはありませんでした。ただ代打成績はリーグで唯一2割を切るなど成績は奮わず、レギュラー野手がほぼ固定だったのとは対照的に控え野手とのギャップが垣間見れます。

その中で存在感を発揮したのは、堂上と井領です。

堂上はチームトップの41回代打で起用されると、2本の代打本塁打で15打点をマークするなど、その意外性のある打力を遺憾無く発揮しました。また堂上に次ぐ35回代打起用された井領は、10打席以上ではチームトップとなる打率.273をマークし与田監督の起用に応えました。

チーム全体としては結果が出なかった代打陣ですが、来季は後半から出場機会を増やした石垣や二軍で安定した成績を残していた渡辺勝ら若手選手の台頭にも期待したいところです。

▼論争を巻き起こしたビシエドへの代走・守備固め
次に代走に関しては、こちらも他球団と比較してそれほど多く起用されていた訳ではなさそうです。チームで最も多く代走起用されたのは遠藤で、昨年まで工藤が務めていた代走・守備固めの「渋い」ポジションを獲得し、プロ入り後初めて開幕から一軍の座を守り抜きました。

また代走とセットで語るべきなのは守備固めで、特に今季の中日においては「ビシエドへの代走→守備固めが本当に必要なのか?」という論争が度々巻き起こりました。

これは5/21広島戦の「ビシエドに代走を出していれば同点だった」という場面があって以降彼への代走起用に注目が集まるようになり、その後は「ビシエドへの代走・守備固めの必要性」についての議論が持ち上がる流れだったように思います。

ビシエドへの代走起用については賛否あるかと思いますが、個人的には以下の理由がその背景にあったように思います:

・長打力に乏しいチーム状況では、延長戦での得点力減をトレードオフにしても僅差の終盤、チャンスでのワンヒットでの得点狙う「戦術的」起用
・負担軽減、控え野手の出場機会創出を狙う「戦略的」起用

守備固めについては代走遠藤がレフト、レフト福田がファーストというケースが多く、代走によるワンチャンスの得点可能性の向上よりも、レフトも含めたフィールド全体を考えた守備力の向上が目的だったように思います。「ビシエドを欠く延長戦の攻撃力低下のリスク」よりも、守備を固めて1点を守りきる意図があったのではと考えます。

またビシエドを試合終盤から積極的に休ませたことが、今季における全試合スタメン出場と通年での活躍の一因だったのも間違いないでしょう。
見た目以上の走力と守備力を持つビシエドの途中交代は昨季22回しかありませんでしたが、今季は56回に増えたことがその裏付けです。

今季の代走起用に関しては、単純に塁上の走者の走力を上げる目的以上に、上記のような理由が背景としてあったことは間違いないと思います。

2-4. バント・盗塁に見る戦術

最後に与田監督が今季「バント、盗塁をどの程度活用したか」について見ていきます。以下は今季のセリーグにおける、バント・盗塁数を表しています。

スクリーンショット 2019-11-08 2.45.53

▼2番京田でバント増、試合終盤以降が多い
まずバントについては、今季セリーグでは広島に次いで2番目に多い108個を記録しました。

そのうちチームトップ、広島菊池に次ぐリーグ2位となる24個のバントを決めたのが京田。前述の通り2番打者として多く起用されたのもあり、その数が増えています。

バントについては「1点を取る確率は高くなるが、複数得点する期待値は下がる*」戦術のため、点差やイニングなどその場の状況に応じてその必要性が変わってくるかと思います。例えば初回無死一塁での2番打者でのバントは適切ではない(序盤は複数得点を狙いに行くべき)が、同点の9回裏無死一塁ではバントは有効、といった具合です。

そういう視点から京田の24個のバントを分析していくと、下記の通りとなりました。

▼京田がバントを行ったイニングと個数
1-3回: 8個
4-6回: 6個
7回以降: 10個

いずれも点差は1点ビハインドから2点リードまでの間になります。
またそのうち初回無死一塁からのバントは5個だけでした。

チーム全体として、また京田個人としてもリーグ内でもバントという戦術を取るケースは結果的に多かったですが、個人的には「思考停止で型にハマった」バント多用ではなく、むしろ場面の状況に応じて適切にバントという戦術を選択している印象が強いです。

*追記: バントは「1点を取る確率は高くなるが、複数得点する期待値は下がる」戦術という記述について、フォロワーさんから「得点確率も概ね下がるのでは?」というご指摘を頂きました。そこで改めて「セイバーメトリクス入門」を参照し、シチュエーション別の得点確率 (=1点を取る確率)について確認してみました。すると統計的には無死二塁と無死一二塁を除いて、バントは得点期待値と確率の双方を下げる戦術であることがわかりました。よってバントは「1点を取る確率は高くなるが、複数得点する期待値は下がる」戦術である、というのは全てのケースで正しい訳ではありません。
記事内の文脈的には「バントは思考停止的に多用するものでなく、状況に応じて適切に使うべき戦術である」がメッセージのため、セイバー的な理論をそのまま当てはめたものではないですが、誤解を招く表現となっているため訂正します。
セイバーメトリクスの観点からみた「バントという戦術の有効性」について、詳しくは前述の「セイバーメトリクス入門」の第二章一節をご参照ください。

▼盗塁企図自体少なく、ほぼ大島と京田
次に盗塁については、成功数も企図数もリーグ4位と積極的に仕掛けているわけではないことが分かりました。また全63盗塁のうち47個を大島と京田で稼いでいることからも、チームとして盗塁を推奨していたわけではなさそうです。

個人的に盗塁による得点力アップへの影響は軽微だと考えているので、走れる選手が少ないようなら敢えて走る必要もないのではと思います。

その点で今季得点力不足に喘ぎながらも、ハイリスクローリターンな盗塁という戦術に傾倒しなかったのは妥当な判断かと思います。

3. 野手起用法・戦術まとめ

スクリーンショット 2020-01-01 13.36.13

以上、今季の野手起用について見ていきました。
まとめると

「若手野手への出場機会増やレギュラー選手の配置転換でチーム力の底上げは達成できた一方で、打順の組み方には課題が残る」

と言えると思います。

投手運用に関する記事でも散々述べましたが、野手においても即戦力の補強がない中でうまく選手をやり繰りしていった与田監督とそのサポート役だった伊東ヘッドコーチの手腕は評価されるべきだと感じています。

一方で得点効率を少しでも高めるための打順の組み方などは、他球団を手本に引き続き試行錯誤していくべきかなと感じました。
今季は怪我人が多く大島を3番起用せざるを得なかったり、そもそも似たようなタイプの打者しかいなかったりと編成上の課題も大きいですが、それでももう少し改善の余地はあったはずです。

来季は今季の反省点を活かして、更なる得点力アップにつながるような新しい取り組みが一つでも多く見れたらいいなと思います。


以上、ロバートさんでした。
ありがとうございました!

データ参考:
1.02 Essence of Baseball
nf3 - Baseball Data House -

*2019/11/9 中日新聞プラスへの投稿分を転載

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?