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2019 中日ドラゴンズの「先発投手」運用を考える

皆さん、こんにちは。今回は

「今季の中日ドラゴンズにおける先発投手運用」

について考えてみたいと思います。

今季ドラゴンズは開幕直後こそ怪我人が多発した影響で投手陣のやり繰りはかなり苦しかったですが、終わってみればチーム防御率はリーグ3位、失点数はリーグ最少と想像を超える好成績を収めることができました。

結果だけを見ると昨オフはほとんど補強がなかった状態で、昨季リーグワーストのチーム防御率を記録した投手陣をここまで立て直した与田監督ならびに阿波野・赤堀投手コーチの手腕は、絶賛に値するものだと思います。

ただ結果が出た一方で、「投手運用」についてはどのように評価すべきでしょうか。今回の記事では、まず「先発投手」の運用について、今季の起用法を細かくチェックしながらその内容について掘り下げていきたいと思います。

1. 基本成績を振り返る: 8月以降各種成績が向上

まずは先発投手に限定した今季の結果について、月別推移から簡単に振り返ります。

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防御率は投手の成績を表す一般的な指標ですが守備による影響を取り除くことができないので、守備の影響を受けないHR/9 (9イニングあたりの被本塁打数)、奪三振割合、与四球割合の指標についても合わせて見ていきます。

指標によって傾向が異なりますが、8月以降は概ねリーグ平均並みもしくはそれより良い成績を残せているように見えます。

例えば被本塁打に関しては5月以降一貫してリーグ平均を上回っており、ナゴヤドームを本拠地とするチームの数字としてはかなり物足りないですが、5月以降は右肩下がりに改善がなされ、9月にはリーグ平均並みに持ち直してます。

特に後半戦から月を追うごとに成績が良化していった先発投手陣ですが、長いシーズンを乗り切るにあたりどのような起用がされたかについて、以下の4項目から考えてみたいと思います。

①起用人数
②投球回数
③投球数
④登板間隔

2-1. 先発投手の起用人数

まずは今季何人の投手が先発投手として起用されてきたかについて見ていきます。

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今季ドラゴンズは計17人の投手を先発投手として起用しました。
これは直近5年ではチームとして最多であり、今季セ・リーグ内で比較してもDeNAと並び最多の人数でした。

内訳を見ていくと、柳・大野雄・ロメロの主力級3人を中心に先発ローテーションを回し、ベテラン山井にチーム4番目に多い先発機会を与えました。先発機会が8回以下の投手については、大半が怪我で通年の活躍が叶わなかった選手です。

この顔ぶれを見ると今季如何に怪我人が多く、多くの投手を先発起用しなければならなかったか、その台所事情の苦しさが垣間見れると思います。

2-2. 先発投手の投球回数

次に今季先発として起用された投手が、どれだけの投球回を投げたかについて見ていきます。

こちらは前回のドラフト指名戦略を考える記事(『2019 中日ドラゴンズのドラフト指名戦略を考える』)でも取り上げましたので各選手について取り上げることはしませんが、セリーグの各球団と比較して見ていくと下記の通りとなります。

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各球団とも6人以上の投手がシーズン規定投球回数の約1/3以上を投げているのに対し、ドラゴンズは僅か4人のみ。

これは今季オープナー・ショートスターターなどの戦術を駆使した日本ハム(5人)よりも少ない人数になります。

前述した通り怪我人の多さがその要因で、衰えが隠せなかった山井がチーム4番手に来るほど「起用せざるをえなかった」状況が浮き彫りになっています。慢性的な得点力不足に喘いだチームにも関わらず、外国人枠は野手1:投手3の配分を維持し続けたのもそれが原因かと思われます。

ここは運用に課題ありと言うよりも、逆に「怪我人多発の苦しい状況&限られた選手層の中うまくやり繰りできた」と評価して良いかと思います。

2-3. 先発投手の投球数

次に今季先発として起用された投手が、各登板で何球投げたかについて見ていきます。

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DeNAとヤクルトが特筆すべき少なさですが、ドラゴンズはリーグ3位の62試合で先発投手が100球以上投じています。これは上記表の通りチームの三本柱である柳、大野、ロメロがその8割を占めるなど、主力投手には100球を超えても続投させていた方針が見て取れます。

上記3人を除くと先発投手の100球超えは僅か13試合のみとなりますが、これは主に下記2点が要因と考えられます。

①若手への100球規制
怪我明け、もしくは実績の乏しい高卒投手に対しては好投を続けていても100球を目処に交代させる慎重な継投策が目立った。例えば肩の怪我から復帰した梅津は一軍で6度の先発機会が与えられ4勝、4QSの好投を見せるも、100球を超えての投球は9/25の最終登板のみ(102球)。二軍でも9登板で一度のみと、梅津の肘肩に過度な負担を掛けないよう配慮されていた。

②打ち込まれる前の早めの継投
こちらは若手投手に限定した話ではなく、失点こそないものの打ち込まれる兆候が見られる場合は躊躇なく交代させ、早めにリリーフを投入していた。例えば開幕直後の笠原や山井に対しては投球回数・球数にまだ余裕があっても、「投球フォームに乱れが生じていた」などの理由からスパッと継投策に入ることがよくあった。

勝負にこだわるドライな判断である一方で、乱れたフォームから投球し続けることによって起きる怪我のリスク回避目的であったとも考えられる。

怪我人が多発する中でなるべく故障のリスクを下げたかったと考えると、主力投手以外にはなるべく投球過多にならないよう配慮・運用していたのは適切な判断だったと言えるのではないでしょうか。
一方で若手投手の成長を促すにあたって「過保護すぎたのでは?」と言う疑問も当然あるかと思いますが、苦しい台所事情を考えるとそこはトレードオフに近かったのかなと思います。

2-4. 先発投手の登板間隔

次に今季先発として起用された投手が、各先発登板間でどれだけの間隔を空けて登板していたかについて見ていきます。
*なお以下で取り上げる中4, 5日と言うのは一軍での先発登板から次の先発登板への間隔をカウントしており、二軍戦での登板や中継ぎでの登板は考慮していませんので、ご了承ください。

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こちらはセ球団別の、先発投手が中4-5日で登板した試合数についてカウントしてみました。
ここでもDeNAは特筆すべき少なさですが、ドラゴンズはリーグ4位の16試合で先発投手が中5日での登板を経験しています (中4日はなし)。

その内訳を見てみるとやはり主力投手3人に集中していて、特に週末のカードに先発することが多かった柳と、外国人枠の関係等で登板間隔がやや不安定だったロメロについては、日程の関係で中5日での登板が増えていました。
一方で大野は週頭での先発がほとんどだったため、規定投球回に到達した投手の中でも中5日での登板は少なかったように見受けられます。

他球団との比較で見ると、ドラゴンズは登板間隔の調整については消極的だったように思います。
巨人や広島が対戦カードに応じて戦略的に登板間隔を積極的に動かして来ていたのに対して、ドラゴンズは基本は中6日の登板間隔を維持し、二軍からの若手投手の抜擢などで凌いでいたように思います。

チーム事情による安易な登板間隔の変更で投球内容に支障がきたしては元も子もありませんので、先発投手の駒がなかなか揃わなかった今季のドラゴンズにとっては、登板間隔をなるべく維持する方針は間違ってなかったのではないでしょうか。
ただ来季以降上位進出を窺うに当たっては、ライバル球団のように戦略的な登板間隔の変更も検討すべきと思います。

3. 来季の先発投手起用における展望

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以上、今季の先発投手運用について見てきました。
まとめると

「怪我人多発&限られた選手層の中、主力先発投手以外は投球数・登板間隔の面で最大限配慮した運用を行なっていた」

と言えると思います。

8月以降成績を向上させた先発陣については、怪我人の復帰や各投手のパフォーマンス向上によるものであることは間違いありません。ただシーズンを通した上記のような運用が背景にあったことは、見逃せないでしょう。

来季以降も与田監督はじめ阿波野・赤堀投手コーチのもと勝利と育成、怪我リスク回避のための投手運用には注目していきたいと思います。


また来季チーム成績をさらに押し上げるための「先発投手の成績向上」を考えるに当たっては、これまでに述べた運用面の他に以下3点がカギになってくると考えます。

①大野、柳の成績維持
今季復活を遂げた大野、自身初の二桁勝利&シーズン規定投球回をクリアした柳は来季以降も「主力先発投手」としての活躍を期待したい。

特にシーズン後半に成績を落とした柳については、オフの調整でさらなる球速アップとシーズンを通して調子を維持するスタミナ面の改善に取り組むべきか。

②第3, 4の柱の創出
大野、柳に加えて次世代の台頭に期待したい。現状ロメロの契約は不透明ではあるが、今季後半戦に掛けて先発ローテーションを守った小笠原、梅津、山本拓が来季は開幕からフル回転できるかは注目すべき点。

また今季は安定した活躍ができなかった笠原、福谷、清水、勝野、阿知羅、松葉らの奮起にも期待したいところ。さらに今年のドラフトで獲得した橋本、岡野の即戦力投手がどれだけ先発ローテーション争いに加われるかも非常に楽しみである。

③フライボーラーからの脱却
最後に冒頭で説明したように、先発陣の被本塁打の多さは改善すべき課題であると言える。

ゴロよりもフライを打たせる投手の割合が多いドラゴンズ先発投手陣はナゴヤドームでは多大な恩恵を受けているが、ビジター球場では非常に被弾が多くそれが不安定な投球に繋がっている点は否めない。

2021年からのホームランテラス設置検討も考慮すると、来季はチームとして「如何にフライボーラーからの脱却を図れるか」がカギになってくる。


以上、今季のドラゴンズにおける先発投手運用と来季展望についてでした。

次回は今季の「中継ぎ投手運用」について見ていきたいと思います。


以上、ロバートさんでした。
ありがとうございました!

データ参考:
1.02 Essence of Baseball
nf3 - Baseball Data House -

*2019/10/26 中日新聞プラスへの投稿分を転載

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