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大野雄大のノーヒットノーランを振り返る

皆さん、こんにちは。
今回は先日達成された大記録、


「大野雄大のノーヒットノーラン」


について振り返ってみたいと思います。

大記録が達成されたのは9/14、ナゴヤドームでの阪神戦。中5日で登板した大野は好相性の阪神打線を手玉に取り9回を126球、無安打無失点の快投を見せ、チームとしては

6年ぶり12人目のノーヒットノーラン

を達成しました。

○勝利投手 (23試合 9勝8敗 防御率2.59)
9回 126球 被安打0 奪三振9 与四球1 失点0

既に多くの媒体でこの偉業に対して取り上げられているかと思いますが、当ブログでは彼の投球データを掘り下げて見て行くことで、この偉業達成の決め手になったポイントについて分析していきたいと思います。

達成のポイント①「効率的にアウトを稼ぐローリスクな投球」

まずは9/14の投球割合について見ていきます。

大野の組み立ては平均球速146キロ、最速151キロのストレートを軸に、右打者へはシュート、左打者へはフォークが中心。スライダーは両方の打者に投じるものの全体で見るとあまり割合は多くありません。

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またスポーツナビの計測ではフォークとシュートが区別されて記録されているものの、動画を見る限り同じツーシームの握りで似た変化をしているように見えます。

本人の試合後のコメントではツーシームとフォークを区別して発言していますが、計測上対右へはシュート、対左へはフォークと機械的に(?)分類されていることからも、本質的には同じボールなのかもしれません。

いずれにせよ、このツーシーム系のボールとストレートをメインに、スライダーはあくまでアクセントのような配球で相手打線を牛耳っていきました。

ただ実はこの球種割合は今季開幕時から一貫して続けて来たわけではなく、試行錯誤の上たどり着いた「最適割合」のように感じます。

実際に4/2の今季初登板の投球割合を振り返ってみると、ストレートは60%以上、次に多いのがスライダーの21%、そしてツーシーム系が17%と続くなど、変化球の使い方が全く異なっていました。

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これは交流戦ごろまでのロメロにも言えることですが、投球の6割以上ストレートを投げていると当然打者からも狙いが絞りやすくなるため、いくら150キロ近い球速を武器にしていても相手打線を圧倒するのは難しくなります。

そこから登板を重ねるうちに徐々にストレート、スライダーの割合が減少しツーシーム系のボールの割合が増えていきますが、それにより被本塁打・長打のリスクが高いフライ打球の割合が減り、ゴロ打球の割合も高くなっていきました。

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ゴロ打球を増やすことはイコール長打のリスク減を意味し、また12球団屈指の内野守備を誇る中日内野陣をバックに投げることで効率的にアウトを稼ぐ「ローリスクな投球」をすることに繋がります。

大野は今季リーグ5番目に多い18本のホームランを献上していますが、ゴロ割合が格段に上昇した8月以降は1本しか打たれていません。

また8月以降の全6登板でQS (=クオリティスタート、6回以上を投げて3失点以内の投球を指す)を達成する安定感抜群の投球を続けていることからも、球種割合の最適化が如何に効果的かが分かるかと思います。

自慢のストレートに「頼りすぎず」、ゴロを打たせる投球に徹することが、今回全27アウトのうち12アウトを内野ゴロで稼げたことに如実に表れていたと思います。

達成のポイント②リーグトップレベルの進化した「2球種」

次に打者の左右別投球データについて見ていきます。

▼対右打者:

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・外角低めに集めたシュート(ツーシーム)が空振りとゴロ打球を量産
・ベルトゾーンに投げ込まれた直球は威力十分、多少甘くてもゴロに抑える
・高めへ浮いたスライダーは1球のみと、投げミスが少なかった
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▼対左打者:

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・フォーク(ツーシーム)を低めに制球良く集めて空振りとゴロ打球を量産
・こちらもベルトゾーンから高めへ投げ込まれた直球がヒットになることはなく、凡打で打ち取る
・スライダーの大半はゾーン内へ投じられ、カウントを稼ぐ
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左右別の投球データを見てきましたが、基本的に攻め方は同じで

「ストレートをゾーン内に散らして、ツーシームを低めに落とす」

パターンで打者を制圧していったように思います。

前項で述べた球種割合の最適化がハマっているのも大きいですが、やはりストレートとツーシーム、それぞれがリーグトップレベルの威力を発揮したからこその快挙だったと言っても過言ではありません。

またこの2球種の「進化」こそが、今季大野の復活の大きな要因であったのは間違い無いでしょう。

以下では大野のマネーピッチであるとも言える、この2球種についてより詳しく見ていきます。

2-1 ストレート: リーグ2位の被打率誇る、球威抜群の「投球の軸」

まずはストレートです。
下記の表は9/20時点で今季セリーグの規定投球回数に到達している投手の、ストレートにおける各種成績になります。

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大野は異次元の成績を残している今永と比較するとどうしても見劣りしてしまいますが、被打率、空振り率といずれも今永に次ぐリーグ2位の好成績を残しています。

前述の通り、シーズン序盤はストレートをゴリ押しすることもありそれにより本塁打を浴びることも多々ありましたが、シーズントータルで見ると被打率はかなり優秀です。また空振り率もかなり高い水準を維持しており、リーグ3位の149三振を奪った大きな要因になっていることは間違いないと思われます。

今季大きな武器になっている大野のストレートですが、それは昨季0勝に終わった反省から、球速ではなく「球質の向上」を目指した結果なのではと考えています。

今季は開幕から「球速には拘らない、間を意識する」と発言しており、力任せに全力投球というよりは、シュート回転&カット気味に引っ掛けないような8割の力感で質の良いストレートを投げることを意識していたように思います。

その結果として被打率と空振り率は最後にエース級の活躍をした2015年の水準まで回復し、また「球速には拘らない」と言いながらも、今季ここまではキャリア最高の平均球速を維持し続けられています。

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球種が他の先発投手らと比較しても少ない大野の場合は、投球の約半数を占めるストレートの球威増こそが、復活のための大前提だったように思います。

2-2 ツーシーム: ストレートと同じ軌道から変化する「ピッチトンネル」を意識したボール

次にツーシームについて見ていきます。こちらは今季門倉コーチからの指導を受けて習得した「新球種」になります。

各種報道や投球データでは前述の通りシュートやフォーク、またチェンジアップなどとも形容されますが、映像などで確認する限り縫い目に沿って握るツーシームの握りのように見えます。それを深く握ったりリリース時の微調整で小さく変化させたり大きく落としたり調整しているため、球種判定が複雑になっているように思います。

大野はこのボールをシーズン途中からストレートとのコンビネーションを意識して活用することで、飛躍的に打球の質を改善 (ゴロ割合の増加)させたと感じています。

このボールが何故それほどまでに強力だったかというと、要因は「ストレートと同じ軌道で変化すること」だと思います。これは近年「ピッチトンネルを通す」と言う言葉で説明されます。

例えばカーブや大きなスライダーのように手元から離れてすぐ「変化球だ!」と打者にバレるボールではなく、途中までストレートと同じ軌道で打者に向かっていき、打者の近いポイントから変化を始める変化球を投じることで相手打者のミスショットを誘う考え方になります。

大野のツーシームは打者からすれば投じられた瞬間はストレートに見えるものの手元で大きく変化するため、打者からは相当打ちづらいボールになっていると推察します。

実際に今回の対戦相手だった阪神の打者は試合後口々に「ストレートとツーシームの見極めが難しかった」とコメントしており、大野の術中にハマっていた様子が見て取れます。

今回はこの決め球ツーシームが失投なく低めに制球されることで、ノーヒットノーランという最高の結果となって現れたように思います。

今後の展望: 二桁勝利&最優秀防御率の獲得なるか

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以上、大野の投球データからその偉業達成の決め手となったポイントについて見てきました。ここからは残り少なくなったシーズンにおける、大野の個人成績の展望について確認していきたいと思います。

以下が9/20時点における大野の今季成績になります:
23試合 9勝8敗 防御率2.59 166回2/3

長いシーズンも残り7試合を残すのみとなりましたが、大野の残り登板は9/22の広島戦 (マツダ)と、9/30の阪神戦 (甲子園)になりそうな見込みです。逆転CSに向けて大野の快投はチームにとっても重要ですが、大野自身にとっても2015年以来4年ぶりの二桁勝利が懸かった大事な2登板になりそうです。

またタイトル争いで行くと、現在防御率が広島ジョンソン (2.44)に次ぐリーグ2位に着けており、この2試合で如何に失点少なく長いイニングを投げられるかが、逆転での自身初の投手タイトル獲得へのカギになります。

今季柳とともにチームの苦しい先発事情を支えてきた大野には、残り2試合最高の結果を出してチームの勝利に貢献し、同時に二桁勝利&最優秀防御率のタイトルを獲得して欲しいと心から願っています。

以上、ロバートさんでした。
ありがとうございました!

データ参考:
スポーツナビ
1.02 Essence of Baseball
nf3 -Baseball Data House -
データで楽しむプロ野球

*2019/9/21 中日新聞プラスへの投稿分を転載

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