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7/8観戦記@神宮: ヤクルト秋吉は9回1イニングを7球で締めるためにブルペンで何球を投じたか?

今日は7/10、参院選の投開票日ですね。久しぶりに週末日曜に街に繰り出してみるとどこも人で溢れかえっていて、暑さも相まってすぐにうんざりしてしまいます。真田丸も通常放送時間より1時間弱前倒しで始まるので、今日はさくっと今週金曜の観戦記をUPして早めに退散することにしましょう。

試合総評:先発ジョーダンが乱調KO!打線もヤクルト成瀬を仕留めきれず3ヶ月ぶりの白星許す

試合はヤクルト成瀬、中日ジョーダンの両先発でスタートしました。先に主導権を握ったのはヤクルト。中日ジョーダンが制球に苦しみ満塁のピンチを招くと、バレンティンがレフトへ先制のタイムリーツーベース。ジョーダンはその後も制球が定まらず、3回にはバレンティンに死球を与え乱闘騒ぎにまで発展してしまいます。結果ジョーダンにヘルメットを投げつける暴力行為をはたらいたとしてバレンティンが退場になってしまいますが、5回にも安打と四球から無死満塁のピンチを招いてしまったところでジョーダンはKO。乱闘騒ぎの主役となった両外国人助っ人が試合序盤で早々と姿を消す異様なゲームとなりました。試合はこの無死満塁のチャンスを生かし3点を奪ったヤクルトがそのままリードを守り勝利。6回途中2失点と好投した先発成瀬に3ヶ月ぶりの3勝目がつきました。敗れた中日はこれで神宮での対ヤクルト戦4連敗。

フォーカスポイント: 高津&伊藤智仁コーチ率いるヤクルトブルペン陣の調整法とは?

…さて無難な試合評は例のごとくこの辺にしておいて、ここからは過去対西武、対ヤクルトとの試合で考察した「ブルペン運用」について、今回新たに観察してきたことをnoteしたいと思います。過去2回の投稿はコチラです。↓

過去2回ドラゴンズと対戦チームのブルペン運用を比較してきました。発見したことは、ドラゴンズは複数回複数の投手に肩を作らせ、リリーフ投手に対し試合展開に応じた臨機応変な対応を求めるということです。先発投手が立ち上がりを無失点に抑えても、試合序盤で崩れても、必ず2回にはリリーフ投手の肩慣らしが始まります。試合中盤の5, 6回には田島を含めたブルペン陣すべての投球練習が一度は完了します。球数を数えたわけではありませんが、2度3度と準備する投手(小川や祖父江は登板無しでも毎日ブルペンでフル稼働してます)は60~70球と投げているでしょうか。ブルペンでの投球と試合でのそれは体への負担は全然違う!と言ってしまえばそれまでですが、閑散としている対戦チームのブルペンと比較して我が軍のブルペンがここまでせわしなく稼働しているのを見てしまうと、ここまで準備させる必要は果たしてあるのだろうか?とどうしても感じてしまいます。

前回の記事でヤクルト高津コーチの記事を紹介しましたが、その中で印象に残ったのは「アメリカでは打者3人の間で肩を作る、最初に投げる球から20~30球でマウンドへ上がる」という記述でした。

「メジャーのブルペンはバッター3人くらいの間に登板できる肩を作らないといけないんです。日本は登板のあるなしにかかわらず、1度ピッチング練習をして準備します。それから着替えて、次の電話が鳴った時に、10、20球を投げればマウンドに上がれるような態勢を取るんですけど、アメリカは1回の電話で、その時が1番打者なら4番に合わせてくれと言われるんです。その3人で肩を作らないといけない。つまり、最初に投げる球から、20、30球で肩を作る。僕は肩ができるのが早いほうでしたけど、それでも戸惑いました。でも、このやり方になじんでいくと、余計なボールを投げないのでやりやすかったです」
昨シーズン、ヤクルトの中継ぎ陣は1度で肩を作るルーティンを徹底した。その効果で余分な疲労を軽減。1年間投げ続けることができた。高津のアメリカでの経験が十分に生きる結果となった。
「最初は戸惑いがありますけど、絶対にできることなんです。いかに慣れるか。ヤクルトの一軍の投手は、みんなができるようになったので、秋吉(亮)やオンドルセクが70試合投げても、最後までへばらなかった。その調整法がうまくいったからと思っています。」
Slugger2016年3・4月合併号内「不定期連載インタビュー MLBから何を学んだのか⑧ 高津臣吾[東京ヤクルト一軍投手コーチ]」より引用

上記記事にもあるように、現在はヤクルト投手陣も少ない球数・準備回数でマウンドに上がれる省エネ仕様になったことで、登板回数がかさんでも最後までへばらずシーズンを完走できるようになったようです。確かにいくらブルペンでの投球と言えど、「投手の肩肘は消耗品」と言われる以上は投げないに越したことはありません。今回は人生で初めて神宮の一塁側、しかもブルペンが良く見える席を確保することができたので、ヤクルトブルペンがどのように稼働していたか?について以下でnoteしたいと思います。高津コーチ、またブルペンの伊藤智仁コーチはヤクルトリリーフ陣をどのように操縦しているのか?

試合展開に応じて準備する松岡、ペレス。登板予定の前の回に20~30球投げてマウンドに上がる勝ちパターン:ルーキ、平井、秋吉

ヤクルトブルペン入り投手:
山中、ルーキ、ペレス、岩橋、秋吉、平井、松岡、久古
7/8ヤクルトの継投:
成瀬(5回2/3)→松岡(0回1/3)→ルーキ(1回)→平井(1回)→秋吉(1回)
ブルペン稼働状況:
■1~4回:動きなし。
■5回表:松岡投球練習開始。
マウンドからホームベース間の半分の距離からキャッチボール開始。徐々に距離を広げマウンドの後ろまで移動。マウンド後方の傾斜を利用した投げ込みを数球行ったところでブルペン入り。20球程度を投げ込んだところで終了。

■6回表:ペレス開始、松岡再開。
成瀬がピンチを招いたところで松岡リリーフ。好調福田に四球を与えるも、堂上をサードフライに抑え無事火消し成功。
■6回裏:ルーキ開始→7回表リリーフ。
■7回裏:平井開始→8回表リリーフ。走者を出したところでペレスが投球練習を再開するも、登板機会なし。
■8回裏:秋吉開始→9回表リリーフ。
ルーキ、平井、秋吉と勝ちパターンの投手は登板予定の回の直前のイニングで投球練習を開始し、高津コーチのコメント通り「打者3人の間で、20~30球で肩を作る」ことを実践。
■試合終了、中日3-6ヤクルト

以上ヤクルトブルペンの稼働状況についてでした。基本的にブルペンで投球練習をする投手=その日登板する投手というのが明確で、ドラゴンズのように登板機会がなくても、試合展開を睨みながら何度も投球練習を行わせない、ということがわかります(*ちなみにこの日ドラゴンズ小川は1回裏、5回裏、7回裏と味方投手が失点する度に投球練習を行っていました)。

詳述:クローザー秋吉のブルペン投球

ここまで見てきただけでも如何に高津&伊藤智コーチがリリーフ陣のブルペン稼働を減らすことに神経を使ってきたかがわかるかと思いますが、次にクローザー秋吉のブルペン投球から「打者3人の間で、20~30球で肩を作る」ことの内容についても詳しくnoteしていきたいと思います。秋吉は8回表ドラゴンズの攻撃が終了すると同時におもむろにマウンドに現れ、準備を開始します。

1. 8回表終了後、クローザー秋吉がブルペンに登場。ブルペンキャッチャーと二言三言会話した後、マウンドから半分の距離からキャッチボール開始。徐々に距離を伸ばし8球でキャッチボール終了。

2. マウンドからブルペンキャッチャーを立たせたまま、投球練習を開始。6球を投げ込んだところでキャッチャーを座らせる。

3. キャッチャーを座らせストレートを次々投げ込む。合計7球

4. ストレートを一通り投げ込んだ後は変化球。自軍の攻撃状況を時折見ながら10球の投げ込み。

5. 代打今浪がショートゴロに倒れたのを見て、ラスト1球、威力のあるストレートを投げ込む。ブルペンキャッチャーのミットが小気味良い音を叩いたところで同僚から受け取った水を一飲みし、マウンドへ。

合計: 立ち投げ含むキャッチボール14球、ブルペンでの18球の計32球で準備完了。9回のマウンドへ。

結局この日秋吉はドラゴンズ福田にバックスクリーン左へのソロホームランを浴びるなど1点を許しますが、後続を抑えたった7球で試合を締めました。ルーキや平井も同様のルーティンで準備を行い、30球前後の投球数でマウンドへ上がっており、最低でも2回は投球練習を行わないとマウンドへ上らせないドラゴンズのブルペン運用とは対照的だったと言えます。

連投・回またぎなんでもござれのヤクルトリリーフ陣は長いシーズンを乗り切れるのか?

以上ヤクルトのブルペン運用について見てきました。ヤクルトは上記のようにブルペンでの準備を制限しなるべく少ない球数・準備回数をリリーフ投手陣に課しており、その成果として各投手ともより短時間で肩を作ることに成功しています。単純に投球数が減っているため、その分肩肘への負担は少ないといえるでしょうか。ドラゴンズのようにブルペンで何度も準備させるよりは明らかにこちらの方が各投手への負担が少ないだろうと感じます。

一方で、秋吉がリーグトップの44試合、ルーキが43試合に登板しており、昨季同様主力投手のフル回転が目立ちます。秋吉・ルーキの2投手は今季ここまで連投、回またぎも躊躇なく行われており、ゲームでの起用だけを見るととても「負担分散」が行われているようには思えません。どちらかというと落合中日晩年に浅尾と高橋聡が使い潰されていったのと同様の印象さえ持ちます。近年ドラゴンズのリリーフ陣、例えば福谷や又吉の登板数が嵩んだことから年々成績が落ち込んでいるのをみると、ヤクルトリリーフ陣も同様の道を辿るのでしょうか?

ブルペン運用においてもっとも重要なことは、与えられたリリーフ投手の負担を分散しながら、好成績を上げることだと思います。特に勝ちパターンで投げるセットアップ、クローザーを任せられるような投手はどうしても登板数がかさみ負担が集中してしまいます。力のある投手を数多く揃えることができればそれに越したことはないですが、中々そうはいかないのがどこのチームも同じような状況。ドラゴンズのように連投は辞さずともブルペンフル稼働で回またぎだけは避けようと工夫するチームもあれば、西武のようにブルペンで準備させる投手は最低限に抑えながら牧田、十亀のように3~4イニング投げる「第二先発」的な役割の投手を用意するチームもあります。どのチームもそれぞれ独自に工夫をしながら「負担分散」と「目先の勝利」の最適点を目指したブルペン運用を試行錯誤しているように見えます。

今回取り上げたヤクルトは、ブルペンでの準備は最小限としながら、リードしている展開では勝ちパターンの投手を惜しみなくつぎ込み確実に勝ちを拾うというスタイルでした。ゲームにおける登板数がいくら増えても、その分ゲームに直接関与しないブルペンでの投球数はなるべく減らすというアプローチです。果たして今後秋吉・ルーキを始めとするヤクルトリリーフ陣は長いシーズンを結果を出し続けながら、かつ健康に乗り切ることができるでしょうか?ドラゴンズのブルペン運用と同様、今後もヤクルト投手陣のブルペン運用について注目していきたいと思います。

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