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無題PART10 或は理想と現実🐸

「夜子おめぇビオトープ管理士の資格取れ!」

ある日突然中ボスが言ってきた。

「マジですか。いつ勉強すんですか?」

「勉強なんかいつでもできるだろ。俺も受けるから。」

むちゃくちゃな量の仕事を振ってくる中ボスのおかげで夜子は毎日残業している。

しかし中ボスも夜子以上に残業しているのを知っている。

俺も受けるからって言われたら夜子は受けるしかない。できたばかりの資格でもともと少し興味は会った。

「わかりました。この会社は当然自腹ですよね。1回で受かりましょうね。」

夜子は受かった。
中ボスは忙しすぎて落ちた。

キレている中ボスに、休日に行われるビオトープ関係のボランティア活動に行くことを命じられた。

中ボスが勝手にライバル視している中ボスの大学の同期が出入りしているらしい。報告を求められる。

めんどくさいな。本当にもう!
また休みが減るよ。

ボランティア活動に行ってみると全く楽しかった。官産学民みんなで一緒に田んぼで泥遊び。鳥の声を聴き、虫を見つけて、草を刈って、ご飯を食べる。敵の敵は味方。中ボスのライバルとも当然仲良くなる。

「あいつどうしてるー?」

「あいかわらずっスよ。毎日めちゃキレてます。怖いっすよー。」

「ハハハ!あいつらしいわ。昔っからそんな感じだからな!気にすんな。」

「昔からあんな風なんですねー。あきらめますわ。ありがとうございます♪。」

自然の中では会話は人間らしくなるものだ。

誠に長閑であった。

家でゴロゴロするよりいい休日の過ごし方かもしれない。

ここで会った男の子が鳥の写真や、虫の豆知識をしょっちゅうメールで送りつけて来るのがちょっとおかしい。そこまで専門的な知識に興味あるわけじゃないので申し訳ない気持ちにもなる。

子育てを終えて趣味も兼ねて地域のために参加した女性が、今後の活動のみんなの意見取りまとめをしてくれて、本当に感じ良かった。

市役所の人はきっと私と同じで休日返上で手当なしで来てくれていた。

「あー。自然っていいな。」っていう集まりだった。


「こんにちは〜♪ちょっとご相談があるんだけどー。」

ある日隣の家から社長の奥さんが会社にやってきた。
社長は絶対来ないから、奥さんが時々やって来る。
さばききれないお中元の飲み物なんかも持ってきてくれることがある。

はて?今日の用事はなんだろう?

「あのね。池のカエルがうるさいの。」


??


鶴の一声で、その日会社にいたものどもが一斉に池に向かった。

なるほどウシガエルがたくさん泳いでいる。交尾中のものが多くじっとしている。道具を引っ掛けると二匹同時に釣れる(?)。みんなで黙々とウシガエルを捕まえる。袋に入れていく。

あれ?この後このウシガエル達どうすんだろ?

鯉をメスだと勘違いして、鯉に乗って水中を移動するオスのウシガエルを目で追いながら夜子は考えた。

ウシガエルは外来生物だ。
外来生物じゃなくても移動してはいけないのではないか?
でも殺すのはイヤだなぁ。

ウシガエルの声に気がつかないでほしかったけど、むちゃくちゃうるさいからまぁ気つかないのはムリだろう。

でもウシガエルも知らなくて、ウシガエルの声も気にならなかったらこんなことしなくていいんだけどなぁ!

だいたいこの会社はおかしいぞ。
夜子にビオトープ管理士の資格を取るように言っておきながら、ウシガエル釣りもやらせるんだ。

ウシガエルの袋づめに荷台を一杯にした軽トラックは、少し下流の敷地内の池まで走り、みんなはそこで袋を開けた。

夜子はウシガエルの声をきくと今でも考える。

あの時の法律は、生命を守るため小さな流れでつながった二つの池間のウシガエルの引っ越しを人間が手伝うことを許したのかどうかを。

そしていまだよくわからないでいる。

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