見出し画像

真剣に遊ぶ

 縁あって月に一度ほどのペースで「お茶畑」に通ったことがある。

「これは真剣な遊びだ。遊びだから好きなときにこればいいんだ。ゆらゆらさんも一度来てみないか?」

仕事先に来てくれているボランティアのリーダーが、私をまた別の活動に誘ってくれた。

リーダーは定年退職してボランティアをはじめたおじいさんである。

仕事しながらみてたリーダーは面白かった。

ボランティアの名をかりてボランティア活動をやりたい放題やる。

自分達で提案し、どんどん活動内容を増やし、資材を要求し、仲間を連れてくる。

意見の合わないボランティア同士の話し合いも根気強くする。

こちらがボランティアさんの助けを必要とすることもあるのだが、それも快くやってくれる。

自分で決めて、活動の様子の写真を入れたボランティア便りを月に一回必ず作ってよこす。

これを印刷して配布したり、ホームページにのっけたりするのが私の仕事の一部だった。


どうみてもそっちのほうが面白そうだな。私は常々そう思ってた。
そこでおそるおそる旦那を連れて行ってみることにした。

到着したお茶畑は、農家の高齢化にともない山へかえっていく最中にあった。
急斜面にあるため機械が入らないのだ。

耕作放棄寸前にある茶畑を、人力で茶畑に戻し維持する。
それが活動内容だった。

この茶畑の持ち主の農家さんは、無償でこのフィールドをかしてくれて、とれたお茶も加工してくれる。

茶畑を大人の秘密基地ととらえるとこいつは素晴らしい。

つまりウィンウィンな関係である。

しかし盛況そうに聞いていたメンバーは意外と少ない。
おじいさん数人だ。

大丈夫か?これは抜けにくい。

若手への期待が肩にのしかかる。

仕方ない。
やるか。

我々は日々秘密基地の開拓にいそしんだ。

両側の耕作放棄済みの茶畑からは竹藪が迫り来る。ノコギリ登場。

数年手を入れてないお茶の木を切り戻す。剪定バサミ。

通路に生えた背丈ほどのシダを刈って行く。カマがいる。

やることは山ほどあった。いるものも。

「なんで休みの日に汗だくでこんなことやってんだろ?」
時々不思議に思いながらも夫婦で通い続けた。

面白いんである。
全部。
しんどいのも含めて。

茶畑の前の道路は急な坂で舗装もされておらず狭い。
車を止めるのに苦心して、同じお爺さんが一年に何回も同じ場所でJAFを呼ぶ。

たいしてうまくもないのに敷地に生える桑の実がなると、みんな嬉しげに食べだす。
食べられるものを知っているっていうのがいいんだよね。

筍を見つけてみんなで喜んで掘って持って帰る。
後でお茶畑オーナーに聞いたけどギリギリ敷地外だったらしい。
ボランティアのつもりがタケノコ泥棒になってしまった。

お茶畑オーナーが笑って許してくれた。
きっと近所に謝ってくれたんだろう。
悪いことをした。
「タケノコとるときはちゃんと場所を確認しよう!」
そんなルールが出来上がる。

ヘビをみつけると普段温厚なじいさん達は豹変する。
やめとけよって思うけど、数人がかりで大騒ぎして徹底的にやっつける。
まぁいいか。
こっちの武器もスコップと枝だ。真剣勝負だ。

全く子供かよ。
自然に笑えてくる。

収穫したお茶はめちゃくちゃ美味い。
手摘みなんだ。
加工してもらったお茶を手にし、試飲する。
「今年のお茶は最高である。」
と毎年褒め称える。毎年だ。
自画自賛。

我々は、こうして得た貴重なお茶を
持ち帰り、得意気にいろんな人に飲ませては、聞いた感想をお互い報告しあう。

「飲んでもらったけど、やっぱ全然違うって!美味しいって!」

いったい苦労話を聞かせてお茶を飲ませて、マズいという人間が世の中にいるだろうか?

いるはずがないのだが、我々はその感想に大変満足した。

引っ越しを機に行けなくなってしまったが、あの活動は全く楽しかった。

意味なんてあんまりなかった。

まだ子どももいないような若い頃の経験だけど、行って良かったと思う。

いつでも童心に返れるような場所を持ちたいと思うようになったきっかけである。

「真剣に遊ぶ」それがキーワードだ。

★蛇足★
お茶畑の活動を
我々はペットボトルのお茶を
飲みながらやっていた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?