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小指の思い出

たしかロウの塊だったと思う。
中学のとき美術で左手を彫った。

上方、前後、左右の見取り図のようなものを下書きとして描き込み、彫り進む。

彫ると下書きが消える。
このやり方
なんか間違ってんじゃないか?

それでも私は面白かった。
塊の中から、立体物を取り出すというこの作業が。

隣の席は竹中だ。

開襟シャツなのに
さらにボタンを二つ開けて
前髪ばっかり触って
ダルそうにしてる。

ケンカが学年一強い。

しかし私は怖くない。

竹中は放送部の小森さんが好きで
小森さんが放送を担当する日の
給食時間ずっと顔を真っ赤にしてる。純情なところもあるのだ。

しかもダルそうにしているだけで
私の彫刻の邪魔はしてこない。
無害だ。

美術の時間のたびに
私は夢中になって彫り続けた。
左手をグーにして、彫りだす形を何度も確認した。
爪の様子や、骨のでっぱり、手のひらのシワ。
未だかつてこんなに自分の手をじっくり見たことはない。

竹中はほとんどぼんやりして
時々仕方なしに彫っている。

美術の時間が終盤に差し掛かった。

完成した!


私は作品を提出するため
誇らしげに
席を立ち上がった。

見よ!
この黄金の左手を!!


竹中が何か言いたそうである。

私は手伝わんぞ!
と思った。

いくら上手いといえども
これは私が手をしっかり観察して
作った結果である。

奴と私では手が違いすぎる。
ムリだ。

悪いな竹中!
心の中で詫びを入れた私に


竹中は口を開いた。




「指一本多くね?」


は?
そんなことあるか?



そんなことありました。


私は泣く泣く椅子に座りなおして

小指を落とした。

小指側全面作り直しである。

あんなに観察したのに
今は空想上の左手を作ってる。

その間
竹中はダルそうに
彫り上げて
前髪をかきあげながら
私より先に作品を提出した。

無念!!






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