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みちのく津軽ジャーニーラン266km完走記 その17 祝勝会事件簿

ポルナレフ的事件その1


な、何を言ってるか分からねぇと思うが、い、今起きたことをありのまま話すぜ。

 
まず、祝勝会がまともだったのは最初の5分だけだった。注文を済ませ、飲み物が到着し、提督である俺がスピーチして乾杯。3人の完走を祝い、1人のリベンジを誓う。さぁ、266kmと51時間を振り返っての思い出話だ!・・・と思った瞬間、

「大体マッキーの敗因はですねぇ、あれだけ言ったのに前泊してギリギリまで寝ないからああやって体調が安定しなくて眠くなって結局リタイヤになったんですよ。来年は必ず前泊してください、いいですかぁ?」と、エンディが真顔でマッキーへの説教を始めた。まだ肉も来ていない、乾杯直後のことである。

誰もがそうと気づいていながら、さすがに俺たちの完走した姿に忸怩たる気持ちもあるであろうマッキーに配慮して言わなかったのに、かまわず痛恨の一撃を放つエンディ。さすがのマッキーもうなだれていた。エンディの、こういう「言うべきことを言うチカラ」は本当にすごい。しかし、あまりにもタイミングが。。。普通、宴も高輪プリンスホテルになったぐらいで「あの、ちょっといいですか?」と申し訳なさそうに切り出すものじゃないのだろうか。もう一度読者の皆さんに言いたい、こういう弁護士を雇え。そして絶対に敵に回すな。

まぁ、この程度のことは次に起こる事件の前座にもなりえない些事であった。俺たちはこのあと、信じられない光景を目の当たりにすることになる。



ポルナレフ的事件その2


な、何を言ってるか分からねぇと思うが、い、今起きたことをありのまま話すぜ。2回目だがもっととんでもないことが起きやがったんだ。

 
肉を数人前たいらげた頃、レース気分が抜けてないのか、ヒロポンが急に「提督、仮眠していいですか?」と聞いてきた。俺は答えた。「関門があるから15分な。」何度となく交わしてきたやり取りだ。レースが終わってもスムーズだ。出し切ったカラダにビール1杯が相当聞いたのか、ヒロポンはその場でうつ伏せになって寝てしまった。焼肉屋で寝てるヤツは初めて見たぜ。エンディは無表情の土偶から微笑を浮かべる埴輪になっていた。

説教が終わったエンディは埴輪ンディになっている


今度は俺の手が急に変になってきた。トングを持っていたらトングを持つ形に手が攣ってしまい、コップを持ったらその形に攣る。治そうと逆側にひねるとその方向に攣る。治しても治しても、トングを持つたびに手の形がおかしくなる。これなんだあれか、カリウム不足だかナトリウム不足だかってやつか。とにもかくにもずっと攣るのが止まらない。これ、喉とか攣ったら死ぬんじゃないだろうか。怖い。


 
ヒロポンがむくっと起き、トイレに立った。俺の手は相変わらず攣っている。なんとか手を戻して落ち着きを取り戻すと、土偶から埴輪に進化したエンディがとたんに「ブホっ」と悶えだした。なんだ、どうしたエンディ。「あ、あれ・・・」エンディが指さした方向に従い、後ろを振り向くと、見たことのない光景が広がっていた。ヒロポンが通路の真ん中に背中を丸めて座り込んでいる。え?え?なにこれ?こんな人焼肉屋で見たことない!!!

ふざけているわけでもなんでもなく、ただただ座り込んでしまったヒロポン


 
トイレに行きたかったのであろうヒロポン、しかし力尽きてトイレとは反対方向でうずくまってしまった。ヒロポンに近づき、「トイレいく?」と聞くと、「うん、いく」とかわいく答えてきた。「トイレはこっちだよ」とヒロポンを導き、あと3mもないのでそのまま向かうだろうと思って席に戻ると、ガチンコファイトクラブじゃないがそこには信じられない光景が!!!
 
見ると、ヒロポンがトイレの前3mで再度力尽き、床に堕ちてしまっていた。しかも、今度は顔面を下にして綺麗に床に寝ている。なんなら頬ずりして、寝心地を確かめている。ダメだ。完全に家だと思っている。

繰り返すが、ギャグとかネタ要素ゼロ。完全に家だと思っているヒロポン。


大慌てで近づき、「どうする?吐く?」と聞くと、「うん、吐く」とまたまた可愛く返ってきた。いや、もう可愛さなんか返上していいからトイレいけ。かろうじてヒロポンをトイレに連れて行き、なんとか事なきを得た。

人生の勝者で歯医者なイケメンが266km走るとこうなる、というジャーニーランの恐ろしさを垣間見た瞬間だった。分かりやすいように使用前使用後を再度並べておく。

これが↓

いつも精悍な顔つきのヒロポン
100万ペソの笑顔は常に仲間を照らしてくれている
いつ写真を撮っても絵になるヒロポン
イタリア人ロードレーサーに瓜四つなヒロポン


266km走るとこうなる↓

眠るヒロポン
うずくまるヒロポン
自宅で安心するヒロポン


266kmジャーニーラン、あなおそろしや。


最後に

3日間、51時間、266km。どんなに過酷だったかは、ここまで読んでいただいた貴方には1/10ぐらいは伝わったかもしれない。何を学んだのか?は人それぞれだから、それは敢えて言うまい。俺は俺なりにいろんなことを学んだし、エンディもヒロポンも様々なことを学んだことだろう。唯一何も学んでない可能性が高いのはマッキーだが、全盛期のフォレスト・ガンプをしのぐ純真さでいつも新鮮な驚きをくれるのはコイツである。「海だ!」、「坂だ!」、「犬だ!」と、見たまんまを叫びながら走るヤツを俺は寡聞にして知らない。

ひとつ言えるのは、最高だったということだ。大人になってから、ここまで真剣に1つのことをやり続けるって、あんまりない。子供の頃は何に対しても必死だったのに、大人になるとどこか余裕を持たせることこそが大人、みたいな変な考え方になる人もいる。だからこの3日間は、俺たちにとって子供時代の必死さを貫いた時間だった。40過ぎたおっさんが弱音を吐きながらバタバタと必死になることって、ダサいことだろうか?カッコ悪いことだろうか?

大きな挑戦を終えて、俺が言えることは、「そんなダサくてカッコ悪い俺たちこそ最高」てことだ。応援してくれたすべての人たち、関わってくれた人たち、何よりこのクソ最高な3人の仲間に、改めて御礼を言いたい。ありがとう。これにて一旦筆を置くことにする。ばいちゃ。そして気づいたら、今日は2023年7月15日。すなわち、みちのく津軽ジャーニーラン2023の出走日だ。なんと、完走記に1年かかってしまった。

ま、それだけ大変なレースだったってことよ。てことでいってきます!生きとしいけるすべてのものたちよ!オラにちっとだけチカラを分けてくれてありがとな!

***
退かぬ、媚びぬ、省みぬ!
我が生涯に一片の悔いなし!

羅王

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