見出し画像

一体、囲碁の民は「囲碁アート問題」の何に怒っているのか?に関する一考察

囲碁界の皆様、碁無沙汰しております、碁バンジェリスト(100年以内には商標登録しますので取らないで!)の羅王です。しばらく266kmマラソンネタばかりで囲碁ネタからは離れておりましたが、久々に業界で燃え広がってる大火事が発生しましたので、考察してみたいと思います。ファクトの追跡および矛盾点の指摘においては歴代最強の大将軍クラスの、山本いちろう隊長/ヨッピー両氏の超劣化版のような文体になるかもしれませんが、そこはご愛敬。ちなみに羅王3大趣味のひとつ、超ウルトラマラソンで最長不倒を達成したエントリはこちら。

少し前に囲碁界に対して問題提起したこともあります。


本エントリのDisclaimer

長いです。カップラーメンを作ってる途中の方、地球で活動中のウルトラ戦士、特質系の念発動中など、時間制限のある方はページを閉じてまたの機会にお越しください。

②羅王は法律業務従事者ではないので多分に推測や個人的意見を含みます。間違い等はご指摘・・・いただくまでもなく、厳密な法律的観点からは間違いだらけである点、ご容赦ください。また、それらに関する指摘も特に受け付けてはおりません。どうせ厳密には間違ってるし。

③本件に関し、2023年8月8日現在、いかなる当事者の意見も直接は聞いておりません。表に出ている情報だけで本エントリを書いております。つまりほとんど独断と偏見です。

④何方かを貶める意図は毛頭ありませんし私の一部毛根は死んでおりますが、一般常識的に考えて明らかに思慮や想像力が足りないと感じる点、およびそれに伴うであろう着手の稚拙さ、軽率さ、「やってんなコレ」という矛盾に関しては、個人的な意見に限定して表明させていただきます。囲碁やってんなら大局観持てよ!と言いたい。

⑤本件に関し様々なツイートを読み込みましたが、体感的には何割かの方が怒るべきポイントを読み間違えているような気がします。これからも継続して怒り続ける諸氏におかれましては、本件のどこに怒るべきか?どの点についてなら怒ってOKなのか?について参考にしていただければと思います。怒るポイントを間違え続けているのは、混雑時に駅員さんにキレる中年のおっさんと同じで超カッコ悪いので。

事の発端と時系列

事の発端は、こちらのツイートでした。大まかな流れはこのツイートを辿っていただければ、細かい法律用語・専門用語を別とすれば把握できると思います。が、特許庁のHPに掲載されてる文章は長文で読むのがめんどくさいよ、という方向けに、不肖わたくしめが、更なる長文で読むのがめんどくさい別の文体にて概要を記したいと思います。私は頭が悪いので、難解な法律用語・専門用語ではなく、自分で理解できる平易な文体で書いていきます。

***

本エントリの登場人物


登場人物(組織)は大きく2人(1人と1つ)です。

①関翔一さん
「5の5」なる独創的な棋風を操る囲碁インストラクター、強豪アマチュアにして、「囲碁アート」の生みの親(囲碁アート実績は視認できる限り最低5年以上、ここ大事)。頭の中に光年単位に及ぶ囲碁バースが広がっているようで、常人では100年考えても考え付かないことを具現化出来てしまう、良い意味でとてもキモチワルイ人。直接お会いしたことは1回しかありませんので表現としては失礼かと思いますが、この「キモチワルイ」以外の表現が見当たりません。なぜキモチワルイかは以下。碁石で絵を描いてるだけならまだしも、ちゃんと囲碁のルールに則って「引き分け(=黒と白の陣地が同数)」になるんですってよ、奥さん。こんな作品が、他に100も200もあります。大迫よりも半端ないし、やっぱりキモチワルイ。


調べたら上述の「大迫半端ないって!」の囲碁アートすら出てきてしまいました。変態。


大好きなゲームの最終盤も囲碁アートになっています。HPの低いリディアと打たれ弱いエッジが戦闘不能になっているあたり、リアリティが抜群です。


ちなみにひょんなことから「5の5」を打ち始めた私は、関さんからいただいた棋譜を50譜ほど所持しており、いつも並べさせていただいております。「5の5」は基本的に地に甘く、相当な戦闘力がないと使いこなせないため、現役では至高の戦闘力を誇る山下敬吾九段がたまに用いる程度です。囲碁界での最も有名な事例としては、「ヒカルの碁」における「ヒカル対社戦」が挙げられます。と言ってもこの対局の元ネタも山下敬吾九段です。なんで実在するトッププロの対局と同じレベルの棋譜を、プロになりたての新初段が生み出せるんだ?というツッコミが絶えないのが「ヒカルの碁」ですが、漫画として面白いのでご愛敬。

Source:「ヒカルの碁」20巻

②日本棋院
言わずと知れた日本囲碁界の大本営。全然関係ない話ですが、囲碁を始めて数カ月、まだ10級ぐらいの時に、当時の師匠に騙されて日本棋院に連れていかれ、今思えばとんでもない面子(理事の方他、プロ棋士数名)にアマチュア囲碁論をぶち上げさせていただいた経験がございます。良い思い出。

***

商標登録に関する時系列

「囲碁アート」なる名で様々な碁の盤面をアートとして世に送り出し続けてきていた関翔一さんという存在がある一方で、日本棋院がその「囲碁アート」というワードに関して先んじて商標登録を特許庁に出願した、というのが冒頭の関さんのツイートの趣旨です。本件に関する判明している限りの時系列は以下です。なお、根拠は全て特許庁のHPに準じます。また、解説は喋ったことのない関西弁にてお送りします。大きく8つのイベントがありました。日付は全て書類の発布日ではなく、HPに掲載された日とします。

①2022年8月18日 商標登録願
合同会社ウィズ工房さん(代表は女流のプロ棋士先生)より、「囲碁アート」の商標登録願が特許庁に提出される。「『囲碁アート』なるワードをウチのオリジナルとして登録させてーな」という動きです。

②2023年1月25日 拒絶理由通知書
上記商標登録願に対して、拒絶理由通知書が発布される。「すまんがこの申請は受理するわけにいかんのや。お宅の商標としては登録できへん。なんでか?それはな、理由が4つあってな・・・。んで、文句あるなら40日以内に言ってな?」と、「囲碁アート」の商標登録が一旦は拒絶されます。

③2023年2月20日 出願名義人変更届
合同会社ウィズ工房さんより、出願名義人変更届が提出される。「今後の手続きは、日本棋院にお任せしますよって、よろしゅう」ということです。この時点で本件はウィズ工房さんの手から離れ、大本営である日本棋院に委ねられます。代理人の弁理士先生は引き続き同じ人ですが、これは過去の文脈を共有できてる人の方が良いからでしょう。いち棋士が代表を務める法人が商標を取得するより、大本営がその役割を担うべき、という点に関しては、極めて自然に思えます。

④2023年3月4日 意見書
1月25日の拒絶理由通知書に対する意見書が、日本棋院から提出されます。これが今回物議を醸している、至高と究極両方の香ばしさをにじませた文書となっています。海原雄山もびっくりです。後ほど解説します。「なんで拒絶すんねん?囲碁のことなんやから日本棋院が登録するのは当たり前でっしゃろ?その根拠については・・・」という反論がなされています。

⑤2023年6月27日 拒絶理由通知書
本件2回目の拒絶理由通知書です。が、意見書による反論に対する更なるダメ出しというよりは、合同会社ウィズ工房さんが「囲碁アート」とともに2022年8月18日に出願した「igo art」なるワードが、こちらは日本棋院に委任されずにウィズ工房さん名義のまま残ってたのを見つけたから、ということのようでした。「『囲碁アート』と、『igo art』って実質同じやん。でも名義が片方がウィズ工房さんで片方は日本棋院さんやん。どっちかにしてや」ということです。後日、「igo art」に関しては出願が撤回されていますので、窓口は日本棋院にまとまったと言えます。また、「前回の意見書でもらった件やけど、別にあれで問題が解決したとはまだ言えへんよ」と、審査官の方の添え書きがされているあたりが最初の拒絶理由の強さを感じます。

⑥2023年7月30日 関翔一さんのツイート
水面下で色々なやり取りや葛藤、交渉があったこととは思いますが、それが表面に出てきて我々一般ピーポーの目に初めて触れたのがこちらのツイートでした。超絶控え目に書かれていますが、相当怒ってらっしゃることが伺えます。ここに全ての流れが書かれていますが、読み間違えると変な所に怒ることになるので、注意しましょう。


⑦2023年日時不明 「囲碁アート」商標に関する申入書
関翔一さんより、日本棋院に対して「『囲碁アート』の商標登録出願の取下げ」が申し入れられます。「囲碁アート」の生みの親は関さんですから、これも自然な話。この申し入れに対して日本棋院からの返答は、「出願を継続します」とのこと。しばらく平行線で戦いが続くことが予想されます。

⑧2023年8月2日 合同会社ウィズ工房さんから本件に関するコメント
そもそものことととして、「囲碁アート」の商標登録をなぜしようと思ったのか、その背景や思いについてコメントがありました。2023年9月10日~13日にウィズ工房さん主催、日本棋院後援にて開催される「囲碁アート・棋士アート展」が予定されていたため、それに先立ち商標登録をしようと考えたようです。(2023年8月8日現在、当コメントが消去されていました。イベントも延期のようです。)

以上が大体の時系列と流れです。少し細かく見ていきましょう。


時系列ごとの詳細

誤解を避けるため、事実と考察に分けて書いていきます。

①2022年8月18日 商標登録願 に関する事実
商標は商品やサービスを適切に特定し、特許庁の規定する区分に基づいて正確に記載する必要があります。また抜け漏れがあると二度手間三度手間になるため、とりあえず多めに範囲指定をしておこう、というふうになりがちですしそれが普通です。今回、合同会社ウィズ工房さんからは3つの「類」について「囲碁アート」を登録したいと申請がなされており、参考までに一番文字数が多かったものを記載しておきます。

【第9類】 【指定商品(指定役務)】 仮想商品、すなわち、オンライン上の仮想世界及びオンライン上で使用する美術品・絵画・囲碁用具・おもちゃ・身飾品・被服・帽子・眼鏡・バッグ・運動用具及びこれらの付属品を内容とするダウンロード可能なコンピュータプログラム,コンピュータプログラム(記憶されたもの),ブロックチェーン技術を利用して改ざんを防ぐ画像・動画・音声ファイル,電子及び双方向マルチメディアゲーム用の仮想現実・拡張現実・複合現実ヘッドセット及びヘルメット・ハードウェア・周辺機器,仮想現実体験を可能にするためにコンピュータ・テレビゲーム機・手持ち式テレビゲーム機・タブレット型コンピュータ・モバイル機器・携帯電話機と接続するためのビデオゲーム用の仮想現実ヘッドセット,コンピュー タ・テレビゲーム機・手持ち式テレビゲーム機・タブレット型コンピュータ・モバイル機器・携帯電話機専用のビデオゲーム用の身体に装着可能な周辺機器,コンピュータゲーム用コントローラー,ビデオゲームプレイ用オ ーディオビジュアルヘッドセット,ビデオゲーム操作用のゲーム用ヘッドセット,ブロックチェーンネットワークにおける取引の承認又は確認のための演算を行う目的に最適化されたデータ処理装置,ブロックチェーン技術を利用するための電子計算機用プログラム,暗号資産を受信し及び使用するためのダウンロード可能な暗号鍵,携帯電話用ストラップ,携帯電話用ネックピース,携帯電話機用ケース,コンピュータ及びタブレット端末の保護カバー,携帯電話及びスマートフォンの保護ケース,携帯電話の画面保護用フィルム,コンピュータ画面保護用のフィルム,ダウンロード可能な携帯用液晶画面ゲームおもちゃのプログラム,電子応用機械器具およびその部品

Source:特許情報プラットフォーム

おかしいな、日本語のはずなのに読めません。へ、ヘルメット?アメリカ生活が長すぎたのかな(人生でハワイに数回程度)。他に第35類、第41類と計3つの類について申請されています。一言で言うと、「『囲碁アート』の商標登録の対象は、『囲碁』×『アート』に関するもの全てでおなしゃす!」ということです。

①2022年8月18日 商標登録願 に関する考察
ひとつはっきりさせておかなければならないのは、商標登録はしたいと思った人がすればいいし、それを認める認めないは特許庁がするものだということです。商標登録によって一定の権利が担保される以上、特許庁もかなりの時間をかけて申請を精査しますし、何の実績も計画もない人が権利の獲得だけをして後に利益のフリーライドを満喫できるような仕組みにはなっていません。たしかに「囲碁アート」の実績自体は年数、件数ともに関翔一さんが圧倒していますが、2023年9月に予定されている「囲碁アート・棋士アート展」の開催もあることだし、アマチュアや棋士の活躍の場を増やしていきたいし、今後のために商標を取っておこうというのは、別に間違った動きではありません。

ただ個人的には、「囲碁ウルトラハイパーパリピファンタスティックアート」とかいったどう見てもオリジナルな名前での作品実績が沢山あるならまだしも、「囲碁」と「アート」というどう見ても普通のワード同士を、どう見ても普通につなげただけの「囲碁アート」なる言葉が商標登録され、それが何らかの権利の根拠となり得る蓋然性はそんなに高くないと思っています。だって普通じゃん。

***

②2023年1月25日 拒絶理由通知書 に関する事実
かなり広範になされた区分申請に対し、特許庁からの返答は「NG」でした。理由は4つ提示されていますが、素人的見解では大きくは3つに思えました。以下。文章が難しすぎるので引用は喋ったことのない関西弁意訳でゴメソ。

理由1 使用についての疑義

商標登録を受けることができる商標は、現在使用をしているものもしくは近い将来使用するものが原則やねん。でも申請してもらった商標の申請範囲は、ウィズ工房さんが実際にやってる事業と比較して広すぎて、今やってもいないだろうし将来的にもどうもやるとは思えへんのですわ。特にブロックチェーン関係とか美術関係とか絵画とかおもちゃとか、やってへんやろ?今後そのつもりもあるかどうかも、果たしてどうやろな?ただし、このあたり実績なくても事業計画があればOKやで。

Source:特許情報プラットフォームの記載を意訳


先に理由3,4について触れます。
理由3、4 指定商品又は指定役務の表示が不明確、区分相違

指定商品及び指定役務は商標登録に伴う権利範囲を定めるものやから、範囲指定をしっかりすることが必要やねん。範囲が広すぎるところも日本語が変なところもあるから直してや!でも直したらええよ。直し方も教えたるわ。

Source:特許情報プラットフォームの記載を意訳

さあ、いよいよ問題の箇所です。拒絶の理由としては最も大きなポーションを占めています。

理由2 商品又は役務の出所の混同

「囲碁アート」て、関翔一さんて人がぎょうさん使っとる実績持ってるやんな。ちょっと調べてみたら、沢山出てきたで。実績として囲碁アート制作の他、囲碁教室への囲碁アートの活用、囲碁アート個展の開催、囲碁アート関連の商品の販売、囲碁アートに関する書籍の出版、囲碁アートを紹介するテレビ番組への出演があり、新聞にも出とる。エビデンスは関翔一さんのウェブサイト、2019年3月8日の日経朝刊40頁での特集、イベントスペースのHP、「日本放送協会NHK」や「熱情機関」のウェブサイトやで。こんなに実績がある人と同じ「囲碁アート」をあんさんのものとして登録してしもたら、世間が勘違いするやん。そらちょっと認められへんわ。

Source:特許情報プラットフォームの記載を意訳

関翔一さんの「囲碁アート」に関するこの時点までの実績が沢山挙げられています。ちなみにちょっと個人的に興味深かったのが、日経新聞での特集。「囲碁アート」をやってみようと思ったきっかけが述べられています。アルファ碁がきっかけだったんですね。世間がアルファ碁の衝撃に打ちひしがれているなか、アルファ碁をいきなり凌駕しにいった関さん、やっぱり半端ない!

「囲碁アート、互角の妙手――打ち進めると絵が動く、対局できる図柄400点 考案、関翔一(文化)」の見出しの下、「碁盤から様々な絵柄が浮き上がってく る。シュワシュワと泡がこぼれそうなビール、消火器の上の猫……。いずれも私 が白黒の碁石を使って作る「囲碁アート」だ。元の図柄をデフォルメする手法は 3年前に考案。これまでに400点以上を生み出してきた。・・・並べてみたら 猫の顔・・・特技の囲碁を生かし、何か芸術的なことをしたいと思った。グーグ ルのAI(人工知能)「アルファ碁」が世界トップの棋士に勝った1カ月後の2 016年4月、自宅で「猫の顔を作れないかな」と思いながら何となく碁石を並べていた。目や耳、ひげがみるみる形になり、白を置いたら輪郭が出来上がった 。AIは人間との勝負に勝つことはできても、碁石をアートとして並べることなんか思いつかないだろう。記念すべき第1号作品が誕生した。・・・センスと棋力総動員 単純に絵柄になるように石を配置するわけではない。最善手を打って いけば、白黒の形勢が互角になるのがミソだ。美術のセンスだけではなく、棋力を要する。見ても対局しても、楽しめるアートにしたかった。碁盤は縦横に各1 9個の石が置ける19路盤が正規だ。最初の猫の絵は少し小さな13路盤がうまくまとまった。小サイズでしかできない作品がある一方で、人の顔などは50路 盤以上でないと表現できない。大きいサイズの作品には、1カ月くらい時間がかかる。実は19路盤より大きい作品ができるようになったのは最近だ。昨年から 、棋譜並べや囲碁の練習問題「詰め碁」の作成用パソコンソフトをアート向けに転用した。知り合いにコンピューターのドット(点)で描く「ドット絵」を碁石 に変換するソフトを開発してもらい、一気に幅が広がった。・・・教室で生徒さんを教える際にも、囲碁アートが活用できる。初心者向けの作品も多いので、囲碁入門にはぴったりだ。最近は将棋やボードゲームのイベントで紹介してもらったり、カフェで個展を開いたりと活動の場が広がってきた。作品をきっかけに、 囲碁に興味を持ってくれる人もいてうれしい。対局できる囲碁アートを手掛けるのは今のところ私一人だが、どこまでも突き詰められる奥の深さがある。さらに クオリティーを高め、芸術として広く認知してもらえるようにしたい。(せき・ しょういち=囲碁インストラクター)」

2019年3月8日付日本経済新聞朝刊40頁

②2023年1月25日 拒絶理由通知書 に関する考察
この審査官の方は非常によく調べてるな
、と好感を持てる拒絶理由書でした。某国の商標登録機関のような、先行する実績豊富な企業が他国にいるにも関わらず自国の無実績のペーパーカンパニーにカンタンに商標を与え、権利侵害の損害賠償詐欺の片棒を担ぐようなユルユル機関とは全く違うようです。ちゃんとしてますね。出願元の代表社員がプロ棋士でもおかまいなし。理由1,3,4に関してはぺしゃんこにするだけではなく、「こうしたら再検討するで?」と提案型になっている点も評価高いです。正しい範囲で正しく申請されたものは通す、ただし不用意に権利の発布は行わない、という姿勢が明確に見て取れます。

***

③2023年2月20日 出願名義人変更届 に関する事実と考察
合同会社ウィズ工房さんから日本棋院に出願名義人が移ります。ここは端折りますが、一点補足。「なんで『囲碁アート』の実績がないウィズ工房さん/日本棋院が出願してんねん!」という文句をTwitter上でちらほら見かけますが、前述の通り商標登録出願は誰がしてもいいんです。実績最優先主義ではないので、とんでもない「囲碁アート」ビジネスを考え中でそれが極めて現実的であればOKな場合もあり得るのです。私が「囲碁アート」の商標登録出願を行ったところで誰に何を言われる筋合いもありません。ま、あっさりハネられるでしょうけども。

囲碁に関して「日本棋院」というワードが出ると、反射的に「坊主憎けりゃ袈裟まで状態」で全否定する人が一定数いるのですが、私は本件に関し、日本棋院が「囲碁アート」の商標を取ることが一番良いと思っています。これに関してはまた後で触れます。

***

④2023年3月4日 意見書 に関する事実
拒絶理由通知書で記載されていた4つの拒絶理由に対する日本棋院からの反論文書です。もう完全に合同会社ウィズ工房さんの手を離れ、日本棋院としての意見表明になっています。「業務やってない、範囲が広い、区分が不明確」と言われていた点に関しては同時に提出されている手続補正書にて補正をかけているため、それを以て4つのうち3つに関して拒絶理由の削除を求めています。

また、前置きとして、合同会社ウィズ工房さんから日本棋院に商標出願の権利が移転された根拠について触れています。

もともと出願したんは合同会社ウィズ工房でしたが、このたび日本棋院に権利移転をした根拠を述べるで。日本棋院は大正13年に設立された100年の歴史を持つ伝統ある法人やねん。所属棋士300名に加え、多くの事務員や記者を抱え、日本はもとより北米、南米にも拠点を持つ囲碁の世界の中心組織やねん。囲碁に関するメタバース空間の仮想商品を管理する者として、世界の中心で囲碁を叫んでる日本棋院が最適やろ!てことでウィズ工房との間で合意して権利移転したんやで。

Source:特許情報プラットフォームの記載を意訳

懸案となっていた「広義の混同のおそれ(関翔一さんの『囲碁アート』と被るやんという点)」については、次のように反論しています。「レールデュタン基準」という耳慣れない用語が出てきますので、そちらを先に。

「レールデュタン基準とは」?

商標登録の世界には「レールデュタン基準」というものがあってな。もともとフランスの香水ブランドとして有名だった「L’AIR DU TEMPS」があった一方で、日本の会社から「レールデュタン」なる商標が新たに登録されて、その取り消しを求めて揉めに揉めた事件とその結末から導き出された基準や。一旦は原告の商標取消願が否決されて、上告でも否決されて、でも最後の最後には最高裁でそれがひっくり返って、という色々あった事件なんやけど、まぁその時に「広義の混同のおそれ」については一定の基準を設けようやという話になったんや。全部が全部「混同されるからアウト」でもないし、全部が全部通してOKてわけでもないってこと。

とある2つの商標の間に「広義の混同のおそれ」があると認められた際には、(1)当該商標と他人の表示との類似性の程度(2)他人の表示の周知著名性及び独創性の程度 (3)当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質、用途又は 目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引 の実情など照らし (4)当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断されるものとされたんや。

newpon特許商標事務所HPより意訳


この「レールデュタン基準」を引き合いに出し、日本棋院(の代理人)は次のように述べています。着火剤が沢山入った文章です。

審査官殿は関翔一氏の実績について、同氏のウェブサイト、4年前の新聞でたった1社がたった1回記事を掲載した事実、イベントサイトのHP、2年半前のNHKのたった1番組のたった1コーナーで取り上げられた事実を以て「混同のおそれ」と言ってますが、「レールデュタン基準」も検討せず言ってるだけで日本棋院が商標登録する「囲碁アート」と混同されるとは考えづらいと思いますが審査官殿はいかがお考えかな?いずれの情報も時期・地域・メディアが限定的で、幅広く取り上げられているとは言い難いんやが?

Source:特許情報プラットフォームの記載を意訳

さらにこのように続けています。

著名性に関しても言わせてもらうわ。現代で著名性を測るひとつの指標としてTwitterのフォロワー数があるやん。ラーメン業界で有名な「一蘭(フォロワー数2.1万人)」、「日高屋(フォロワー数1.2万人)」、電気通信業界で有名な「Apple(フォロワー数905.3万人)」、「Panasonic(フォロワー数55.7万人)」は、十分に著名でフォロワー数が多いと言えるわな。この4社は自分からフォローしてるのは0か7000以下、つまりほとんど自社からのフォローを行っておらず、フォロワー数との間にはかなりの乖離があるんや。これが「著名」ってことや。

一方の関さんや。フォロワー数1564人(R5.2.23時点)と全く桁が違う。これは「著名」とは言えない基準や。逆にフォローしてる数は1658人。フォロー数がフォロワー数を上回り、大半がフォローバック(先に関さんがフォローすることでフォロー返しを促す状態)ではないかという疑義もあんねん。あとな、囲碁業界に精通してる本願原出願人の合同会社ウィズ工房の代表(女性プロ棋士)も、現在の出願人の日本棋院代表も、あとワイ(本願代理人の弁理士先生)も、関翔一さんなんて知らんのや。著名って言えへんやろ。

Source:特許情報プラットフォームの記載を意訳

続けてこのように記載しています。

レールデュタン基準に関する最高裁の判示によると、本号規定は商標へのフリーライド(権利へのタダ乗り)とダイリューション(せっかくとった商標を実質無意味化するべく乱発して希薄化させること)を防止することが目的、となっとるやんな。その意味で、大して著名でもない関さんが作った大して著名でもない「囲碁アート」を使って、囲碁の世界の中心に位置する日本棋院がフリーライドとダイリューションを行う?そんなん考えづらいわ!

レールデュタンレールデュタン言いまくっとるけどまだ言わせてな。確かに関さんと被る部分もあるけど、著名じゃないから問題ないやん?関さんがやってない分野はもっと問題ないやん?レールデュタン基準では際限のない「広義の混同のおそれ」について一定の線を引いてるんやけど、たかが4年前と2年半前に一部のメディアで取り上げられた事実だけを以て「広義の混同」が起こるとするんは、最高裁の判例とズレてるんじゃないやろか?

Source:特許情報プラットフォームの記載を意訳

最後に以下のようにまとめてます。

「囲碁アート」はまだまだ著名な商標ではなく、我々が今後何に使おうとしたとて、それが関翔一さんの「囲碁アート」と結び付けられて世間に考えられるとは考えづらいわな。何度もゆうけど囲碁の世界の中心に位置する我らが日本棋院が占有し、権利の活用・管理をしてくことが望ましいんと違いまっか。

Source:特許情報プラットフォームの記載を意訳

④2023年3月4日 意見書 に関する考察
事実(とそれに伴う意訳)ばっかり書いてきたので手が疲れましたが、ここからはわたくしめの個人的意見をちょいちょい挟んでいきます。

まず、「どんだけ世界の中心で囲碁を叫んでんねん!」というツッコミが世界各地から届くほど、「囲碁の世界の中心である日本棋院」という記述が目立ちます。「どれだけ傲慢なんだ!」とか、「囲碁の世界の中心は日本棋院じゃなくて囲碁を愛する人みんなだ!」とかいった意見も散見されますが、羅王個人の意見としては、「囲碁の世界の中心は日本棋院であるべきだからそのとーり!」と思っています。中国から伝来した囲碁を今日のレベルまで(AIレベル手前まで)引き上げたのは間違いなく日本ですし、明治維新以降の動乱の中で「囲碁界」のリーダーシップを握ってきたのは我らが大本営の日本棋院です。現在つよつよな中韓は、キャッチアップはしてきましたが、リーダーシップは発揮してきてません。その意味で、言ってることは全く間違ってない。フリーライド狙いの変な企業・個人に商標を持ってかれるぐらいだったら、日本棋院が囲碁に関する全てのワードの権利を保持・管理すべきだと思います。合同会社ウィズ工房さんが日本棋院に出願権の移管を行ったのは、正しい。

ただ、この「囲碁の世界の中心」という言葉ににじむ、2つの種類のイヤらしさみたいなものについては、敢えて私見を述べさせていただきます。まず、「世界の囲碁の中心に位置する日本棋院」とは、どこにも書いてない点です。「囲碁の世界の中心に位置する日本棋院」と書いてあります。似ているようでちょっと違う2つの用語、代理人である弁理士先生はうまく書いたなと思います。「世界の囲碁の中心に位置する」だと、世界中に支店があるわけでもない棋院の体制の反論が来たら困りますし、対世界で勝ててないやんというツッコミも来たでしょう。が、「囲碁の世界の中心」としたことで、私が解釈したような日本棋院が培ってきた文化や系譜、「世界観」という意味では「ヒカルの碁」の存在なども考慮に入った響きがしてくるのです。あら不思議。言いたいことを言いつつ、反論を未然に防ぐこの書き方、良い方の意味でのイヤらしさを感じます。マリーシアみたいなやつですね。

2つめは、忌避・唾棄すべきニュアンスをこの文章が含んでいるという意味でのイヤらしさです。すなわち、「関翔一さんなんていう、マイナーで大した知名度もないハンパ者、いちアマチュアで所詮は囲碁界の外様」と見なしているカウンターパートに対しての「囲碁の世界の中心に位置する日本棋院」という位置づけです。多分こっちの意味の方が強いでしょう、関さんの実績をひたすらこきおろすのと連動して日本棋院のワールドセントラル感を何度も出しているあたりが、その証左と言えます。

レールデュタン基準を用いて、「広義の混同のおそれは今回の場合はない(から日本棋院の商標として『囲碁アート』を登録させろ)」と押し切りたいがためか、ことさらに関翔一さんの「著名性」を引きずり下ろしにかかっている点が、今回関さん本人および囲碁界の、特にアマチュアの怒りを買った点と思われます。「Twitterのフォロワー数から見て、どう見ても著名ではないし、何なら1600ちょっとのフォロワーだってフォローバックのたまものじゃないですか、ほぼ知名度ないですやん」という主張、そして「てことはどう考えても日本棋院の登録する『囲碁アート』は関翔一さんのものと混同されませんよね」という結論。この言い分は、決して間違ったことは言ってないのかもしれませんが、気分の良いものではありません。

関翔一さんの著名性を貶めるためのトドメの一文がこちら。原文ママで載せます。

なお、囲碁業界に精通している本願原出願人のウィズ社の代表、現在の出願人の 日本棋院代表、及び本願代理人いずれも関翔一氏を存じ上げず、著名とは言い難い状況と考えられます。

Source:特許情報プラットフォームより原文ママ

はっきり言っていいですか?私、いまこういう気分です。
「コココココ、嘘をおっしゃい。ダウトですよぉ?」

Source:みんな大好き、映画「キングダム」の王騎将軍 腕太すぎ

ま、いきなり他人を嘘つき呼ばわりするのもよくないので、正確には90%がダウトで10%がポンコツチョンボ(本当に本当に本当に本当に知らなかった)といった按配の可能性分布だと邪推しております。囲碁業界は、皆さんご存じの通り狭い業界です。最盛期に1200万人もいたと言われる競技人口(日本人の10人に1人が囲碁やってたってホンマかいな!)も、今は150万人程度と言われています。そのうちのかなりの部分が高齢者だと思われますので、現役世代でアクティブな人というと、そこまで多くはありません。

「囲碁界に精通」しているのであれば、斜陽の囲碁界で業界を盛り上げようとガチャガチャ動いている新聞やテレビにまで特集されているアマチュアのこと、少しは知ってそうなもんですがいかがでしょうか?「囲碁界に精通」しているのであれば、日本棋院が監修しているはずのNHK番組「囲碁フォーカス」にも出演(2018年8月頃)している「関翔一」もしくは「囲碁アート」という単語について、耳にしたことがあると思うのですがいかに?合同会社ウィズ工房さん、日本棋院さん、果てはプロである弁理士先生いずれもが、これから商標登録をしようとしている「囲碁アート」について、5秒だけ使ってググることすらしない、ということは、論理的にはあり得ても、現実的にあり得るのでしょうか?弁理士先生は、「『囲碁アート』って調べたらめっちゃ出てきましたけど、ウィズ工房さん/日本棋院さん、知らないんすか?、これ戦って大丈夫っすか?」程度の話、しなかったの?「関翔一」という単語は知らなかったとしても、「囲碁アート」ぐらい、耳にしたことないんでしょうか?

今回、弁理士さんはプロとして自分の仕事をしたと思います。権利の主張と主張がぶつかれば、ああいう文体にならざるを得ないのは間違いない。バチバチにやりあっている戦場が既にそこにあるのであれば、仕方ないことです。その意味で、弁理士さんにどうこう言うのは間違ってると思います。が、3人とも一切知らなかったって書いちゃったのはどうなんですかね?私としては今話題の中古車販売の会社の社長の「全く知らなかった」より、ダウト感は強いと思ってますが。だってワンクリックで調べられる話だし。ちょっと調べれば弁理士先生はともかく、「囲碁界に精通」している残り2者は、「ああ、あれね!」ぐらいのリアクションにはなってたはずですけども。。 

このままでは純粋で穏やかだが怒りで目覚める超サイヤ人になってしまいそうなので、一旦話題を変えます。

***

⑤2023年6月27日 拒絶理由通知書 に関する事実と考察
については端折ります。「囲碁アート」と「igo art」が同時出願されてたから何とかしてや、という、少し違う視点での拒絶理由が特許庁より提示されただけです。

***

⑥2023年7月30日 関翔一さんのツイート に関する事実と考察
についても何度か触れてきてるので端折ります。一点。弁理士先生がプロとしてやった仕事の成果物として特許庁への文書が上がってきてる以上、上述した何とも言えないあの文体、主張が、「日本棋院の公式見解」だということに、関さんは一番憤りを感じているのではないでしょうか。他人との比較は出来ないまでも、命のそれなり以上の部分を費やして愛してきた囲碁および囲碁アート。その実績や経験、そこに込められた想いすらもが、ああも無残に公式見解として粉砕骨折させられたのは、我々外野には想像できないほどの屈辱だったことでしょう。

***

⑦2023年日時不明 「囲碁アート」商標に関する申入書 に関する事実、考察
はっきりしているのは、日本棋院は引き続き「囲碁アート」の商標登録出願、獲得を求める姿勢を堅持するということです。ここで、なぜ関翔一さんは今まで「囲碁アート」に関して商標登録を出願してこなかったんだ?瑕疵と言えばそれが瑕疵じゃないか?という疑問が出てくる人にいるかと思います。私の解釈はこうです。「囲碁」×「アート」という特徴のない単語を2つ組み合わせて商標を取ることの意味があまりないと考えていた(権利権利したくない)+一定の敬意さえあれば、だれが使っても良いように、囲碁界全体の発展のために敢えて独占を忌避して取らないでおいた、あたりが関さんの考えなのではないかと。まだ本人と話してないので分かりませんが。

***

⑧2023年8月2日 合同会社ウィズ工房さんから本件に関するコメント に関する事実と考察
2023年8月8日現在、上記コメントが消去されておりました。どんなコメントが書いてあったかの事実については、界隈に複数生息しているであろう魚拓マンに任せるとします。全体として、今回の件の発端となった商標登録をしようとした背景について書かれており、事態の軟着陸を企図したものに思えました。が、文中にこのような記載がありました。原文ママです。

「昔の話ですが、囲碁検定をやってほしいと、私と仲間の棋士で棋院へお願いしました。その時に『囲碁検定』が知らない会社から出願されていて、日本棋院は『囲碁検定』を使えないのかとビックリしました。その後、登録継続金が払われていないとかで、囲碁検定を使う事ができたと聞いています。なぜ『囲碁アート』の商標登録を?とお考えの方もいらっしゃると思いますが、囲碁と関わりない企業に営利目的で登録されることを避けたいからです。また、皆が安心して活動できるように、囲碁アートが広まる一助にしたいという思いでおります。」

合同会社ウィズ工房HPより抜粋

やはり私の中から王騎将軍が出てきてしまいます。
「コココココ、『囲碁検定』の時にイヤな思いをしたのに、今回『囲碁アート』を調べることすらしなかったのはなーぜなーぜ?自分が主催の『囲碁アート・棋士アート』のイベントが控えていたのになーぜなーぜ?」

みんな大好き「キングダム」王騎将軍


まとめ

囲碁の民はどこに怒るのが適当か?


長々と書いてきましたが、ようやく終盤戦です。ヨセに入ります。

今回、囲碁の民が怒って良いポイントは以下の3点です。
1,関翔一さんの実績が、事実ベースとはいえ不当に貶められるかのごとき表現をされていたこと
2,状況証拠的にどう考えても「囲碁アート」を知らなかったとは考えづらいが、本当に知らなかったと原出願人、現出願人、代理人が言い張っていること
3,仮に本当に知らなかったとしたら仕方ないけど、色々どうなってんねん!(出願前に調べないとか、自分とこの番組出てるのに知らないとか)

それ以外の
・合同会社ウィズ工房さんが商標出願をしたこと
・それを日本棋院に権利移転したこと
・日本棋院が出願姿勢を引き続き堅持していること
などは、怒りポイントには当たりません。ビジネスに関わる者であれば、特に不自然な動きではないからです。私としては引き続き、実績上は関翔一さんがぶち抜いていると思いつつも、権利そのものは日本棋院が囲碁ワード関連すべて押さえるべきだと今も思っています。なぜなら「囲碁の世界の中心に位置する日本棋院」なのだから、その大本営としての責務を全うして大いに「囲碁アート」含めた囲碁そのものを盛り上げていただきたい。


囲碁の民は本当は何に怒っているのか?

私含めた囲碁の民が怒ってしかるべき点、またそうでない点に関しては上述しました。局所的にはその通りなのですが、このエントリが日本棋院に届くことを願って、敢えて我々囲碁民が本当は何に怒っているのかについて、敢えて敢えて敢えて申し上げたいと思います。天(日本棋院)まで届け、我が提言!

伝えたいことの前に小話をば。囲碁というのは大局観のゲームです。私はよく囲碁と将棋の違いを初心者の人に説明するときに、「囲碁は戦略のゲーム、将棋は戦術のゲーム」と説明しています。曰く、こういうことです。※当然囲碁に興味を持ってもらうためのポジショントークなので、囲碁の方がオモロイよ的視点で語っています。

将棋は王将を中心に、駒同士が既に向かいあっている盤面から勝負が始まる。つまり戦場で軍と軍が向かい合っているところからの戦争なので、畢竟、戦術(戦い方)がメインになる。戦わないことは選択肢にすら入らない。どう戦って勝つか?それが全て。

囲碁は盤面に何もないところから始まる。いずれかなり高い確率で戦いが起きるので戦術の巧拙が問われることも当然なことながら、どこにどういう軍を配備して互角以上の戦場を複数作り出すか?あるいは戦わずしてどう勝つか?から競う戦略(戦いを略す)のゲーム。「戦わないこと」すらひとつの作戦になり得る、という意味では、大局観が必要な経営者たるもの/高位を目指すビジネスパーソンたるもの、囲碁をやるべきでしょう。

また、将棋は100ー0のゲーム。王を取れば勝ち。これは大将を討ち取れば勝ちになった昔の戦争に似ている。対する囲碁は、囲碁は51ー49でちょっとでも相手を上回れば勝ち。51を取りにいく道すがら、49を相手に譲っても良いという寛容さが重要。これを100-0でボコりに行こうとすると大体負ける。トヨタはGMを潰さないし、アップルはサムスンを潰さない。アメリカも中国を潰すことはしないけど、覇権国の地位は絶対に渡さない。一定割合を譲りつつも、3者とも全体としては勝ちにいく。現代版の戦争って、こういうものだし、囲碁の勝ち方に極めて近い。

だから囲碁やろうよ。

民羅書房より抜粋

今回のケースでは、
ー事前にちょっと調べて「囲碁アート」、「関翔一」の情報にたどり着き、
ー無断で出願したらオリジナルの人の気分を害しそうだから一報を入れ、
ー相対的に分が悪そうなので大本営の力で何らかの権利を付与、保証し、
ー省庁のHPにアマチュアをこき下ろす文章を載せたらどうなるかのヨミを入れ・・・

さえすれば、こんなことにならなかったやん!なんでその程度の手筋使わんの!なんでその程度の配慮すらないの!なんでこんなに大局観ないの!

という点に対して、囲碁の民は怒っているのです。某中古車ディーラーはやってはならないことをやりすぎて世間から怒られていますが、日本棋院はやらねばならないことをやらなすぎるから囲碁の民に怒られているのです。物事を円滑に進めるための、一目二目の手を軽視しすぎなのです。別にウルトラC、大逆転の手筋なんて求めてない。当たり前のことをまずはやってほしいのに、「こんな程度」のことが事件になるから怒っているのです。

我々囲碁の民は、囲碁が好きなのです。400年前の人々が愛したゲームを、今も愛している人が万単位でいるって、本当に凄いことです。しかし最近の囲碁界を見てると、止まらない高齢化と碁会所の閉鎖、七大棋戦からのスポンサーの撤退、対中韓の苦戦など、良いニュースに巡り合える機会がどんどん減ってきています。これを立て直せる資格と経験とチカラを持っているのは、大本営である日本棋院以外ありません。日本棋院が1.0から2.0に、あるいはその先の3.0になるしかありません。そのはずなのに、そのはずなのに・・・

これかい!

という「絶望」。これが今回の表層的な怒りとは別の、根源的な激おこポイントです。さとう珠緒もびっくりなぐらい皆怒ってます。僕たちは、囲碁界の未来という名の希望がほしいんだ。

さて、最後にわたくしから一つご提案を。まず、関さんに謝りましょう。「ありがとう」と「ごめんなさい」が言えることが大人の所作です。そして大体的に関翔一さんの囲碁アートを中心に取り上げた展覧会を、日本棋院本院でやりましょう。「囲碁アート」の商標も関翔一さんと何らかの書面を交わし、双方の合意でもってしかその内容を変更できないようにしましょう。それで今回の話は終わりです。

***

プロ棋士の皆様へ

最後と言いましたが、さらに最後にひとつ。プロ棋士の皆様へ。心の底から尊敬している皆様へ、しかしお伝えしておくべきタイミングかと思いますので、私見を述べます。

「日本棋院」とは、「理事会」や「常務理事会」、あるいは代表者である「理事長」のことではありません。「日本棋院」とは、皆様ひとりひとりのことです。※(関西棋院は除くなどは今回の場合話がズレるので無視します)

今、日本の囲碁界、その大本営・総本山である日本棋院は、ありとあらゆる意味で改革・変革の必要性に迫られています。小さなところから大きなところまで、全員で変えていかないと未来はバッドエンド確実です。その主役は、棋士の皆様ひとりひとりです。もう一度言います。ひとりひとりです。文脈は少し違いますが、皆大好き「キングダム」の作中最強のキャラのひとり、桓騎将軍の名言に以下のようなものがあります。意訳すると、

真ん中にいる各人が無関係を決め込んで何もしないから、現実は変わらない

Source:桓騎名言集より意訳
日本国民三大座右の書のひとつ「キングダム」67巻
日本国民三大座右の書のひとつ「キングダム」67巻

理事や常務理事、理事長だけに任せないでください。棋士総会に出てください。棋士総会で意見を表明してください。意見を戦わせてください。理事会が内閣なら、棋士総会は国会です。最高権力機関を機能させてください。盤面だけでなく盤外のことについても議論してください。Twitterでもブログでもどんどん意見を出してください。若手は怖がらずにパイセンたちに意見をぶつけてください。アマチュアの声に耳を傾けてください。甘言だけでなく諫言にも耳を傾けてください。何もしてないなんて失礼なことは言いません。でも、出来ることはまだまだあるはずです。今研、またアマチュアに公開しませんか?あれ最高でしたよ?アマチュアとBBQやりませんか?うっかり棋士総会や理事会にアマチュアを混ぜてみたらどうですか?中身の決定に口を出すかはともかく、進行について意見を出せば会議の質は上がりますよ?

囲碁を愛する、立場の違うものとして、僭越ながら書かせていただきました。失礼にあたる点は多々あるかと思いますが、伏してお詫びいたします。

本件、本ブログに関するコメントもRTも非常にしづらいのが棋士という立場の皆様だと思います。感想、同意、反論いずれも、Twitter経由でもLINE経由でもDMお待ちしております。他言はいたしませんが、皆様がどんな感想をお持ちになったか、知りたいところではあります。「関心がない」というのが最も知りたくない感想です笑。

***

気付けば2万字近い大作となってしまいました。フリーザ編で終わらせとけばよかった「ドラゴンボール」を、魔人ブウ編まで長引かせてしまったような感覚です。富樫先生のように休載も考えましたが、なんとか描き切りました。

今回の件、起きたことは大したことではないのに心証芳しくなかったですが、これをきっかけに色々なことが良い方向に動いてくれることを切に望みます。

現場からは以上です。長々お付き合いいただき、ありがとうございました。

羅王

※全ての情報は2023年8月8日時点のものです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?