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みちのく津軽ジャーニーラン266km完走記 その1 D級妖怪の俺が参考にできるブログがない!

「みちのく津軽ジャーニーラン」なる、一見ほのぼのとした名前に似つかわしくない最狂レースに挑戦すること4回目。ついに、自己最長不倒を記録する266km部門において、死にかけながらもゴールテープを切ることができた。

158人中76位なのではなく、完走した85人中76位。半分はリタイヤ


ゴール直後の写真。出し切ったせいで口から魂が出ている。

レース名:みちのく津軽ジャーニーラン266km
開催:2022年7月16日~18日
制限時間:51時間(7月16日17時~18日20時)
出走者数:158人 
完走率:53.8%
ゴール時間:50時間41分51秒
出場チーム名:サムライ魂

稚拙な言葉で申し訳ないが、すごくいろんなことがあった。筆舌に尽くしがたい痛みと眠気、永遠に続くかと思われた夜の闇と孤独、灼熱の太陽に焼き尽くされて干からびたチームメイト、そしてゴール後のささやかな喜び。本当にいろんなことがあった。。。

せっかく人生の最長不倒距離を更新した(過去最高はみちのく津軽ジャーニーラン2019の177km)わけだし、ひと夏の思い出にしてはあまりにも強烈な体験をしたわけだし、もしかしたら参考にしてくれる人もいるかもしれないので、ここに久々に筆を執ることにした。


今回、俺がみちのく津軽ジャーニーラン266kmの完走記を書こうと思った理由は、主に3つある。

1,人間は考える葦であるが、頭の中に消しゴムがある。

現在、266kmの出走から2週間弱経っている。ゴールからは10日である。51時間弱もの間、あれだけツライ思いをしたはずなのに、二度とやるもんかと今生の決意をしたはずなのに、超ウルトラは卒業して1日で終わるトライアスロンの方で達成感と幸せを見出そうと心の中でジャーニーにじゃーねーと告げたはずなのに・・・

おかしいな、なんだか楽しかった思ひ出しかない。。。

いまだに足の爪は10枚中5枚ほどご臨終しており、痛めた膝の筋はいまだに痛み、疲労のせいかずっと眠い日々が続いている。先日実施した祝勝会では、あそこがツラかった、いや、ここもツラかった、俺はこうこうこういう理由でツラかった、いやそれを言うなら俺もかくかくしかじかでツラかった、と愚痴ばかりが出てくる。それなのに・・・

おかしいな、なんだか楽しかった思ひ出しかない。。。

どうやら人間というものは、普段から要らんことを考えて悩んだり病んだりする葦である以上に、頭の中の消しゴムの存在によって過去の負の遺産や記憶と決別し、日々能天気に生きることを許されている生き物なようである。たしかに、女性は1人目の出産で死にそうな目に遭いながら(実際健康な身で最も死に近い臨界点まで体力を使うのだから全人類の母には頭が下がる)2人目を産むし、キャバクラや合コンで日々痛い目に遭っている税理士のT先生は、それでも全く懲りずに次の冒険に繰り出してまた教会送りになっている。(経験値だけ溜まってお金を失う状態の比喩

俺もそう。その証拠に、なんだか訳が分からないままアホなチームメイトにノセられて、どうやら来年もこのレースに参加せねばならなそうな状況まで追い込まれている。あれだけツラかったのにも関わらずだ。これは、俺の意思が弱いとか決断力がないとかそういう話ではない。至極単純に、「あれだけツラかったことをすっかり忘れている」のである。バカなの?


ということでちゃんと記録しておかないと、もはや記憶は頼りにならないことは明白である。下手すると、「龍飛崎はなかなかチャレンジングな坂が沢山あって楽しかった」とか、「寝れない自分と対峙するのがカタルシス」とか、変な記憶の上書きがされそうである。記憶が鮮明な今だから言っておきたい。「龍飛崎は狂気の坂。晴れた日は水1.5Lを持っていないと死ぬ」、「寝れないのはツライ。ただただツライ。どれぐらいツライかというと、松崎しげるが美白を強制されたり、広瀬香美が夏の歌を歌わされるぐらい、自分が自分じゃいられなくなる」。これが正しい記憶である。

記憶の記録を正確にしておかないと、色々とヤバい。チーム内で全員が提出した完走の感想文を書けば、俺のはワードにして60枚越え、約4万字からなる大作となった。それほどの濃厚で紆余万折あった思ひ出なのに、このまま1年も経てば、「みんなで頑張ったら大変だったけど266km走れた」という一行に収まってしまいそうである。スラムダンクファンの皆さんなら、連載終了後30年近く経っても感動が色褪せないあの名作が、「恋愛体質の赤い髪の不良がなんだかんだとリバウンドしてダンクする物語」とか一行で語られたら怒るでしょ?それと同じですわ。

「記憶の記録」はかくも大事なものなのである。俺は、こうしてる今もどんどんどんどん忘れている。

2,来年以降の完走確率を上げるため

完走1週間後に開かれた祝勝会で、チームメイトの弁護士の巧みな弁論により、訳も分からないうちに来年も出走することになってしまった。疲れたしもう来年はいいやという俺に対して、普段は論理の道筋を外さずに話すこの弁護士は、「今年確認できた自分たちの強さをもう一度証明するのが真の漢なんじゃないですかぁ~?」とかなんとか、論理もへったくれもないようなことをねっとりと言いながら俺たちを丸めこんだ。この勢いだと、「毎年1回ぐらいは津軽でジャーニーしましょう」みたいな流れにもなりかねない。

が、冷静に分析すると、後に続く文章を読んでいただければ分かる通り、今回の完走は実力がもたらしたものではなかったというのが正直なところ。もちろん、走力や精神力、夜間走行の経験値など、完走に向けてある程度は調練で鍛え上げた部分もある。でも、これは完走したチームメイト全員で一致した見解なのだけれど、「奇跡のフュージョン」によって今回の完走はなされた部分が大きい。具体的に言えば「天候」である。これに完全に恵まれた。細分化すると「気温」、「雨」、「日差し」のこの3つ。これらの3条件が完全に我々弱小ランナーに味方してくれた。うち一つでも今回と異なる条件であったならば、完走は絶対に無理だったと言い切れる。

言い換えれば、まだまだ我々サムライ魂は、その名前ほどには強くないということだ。まぁもしかしたら今回の完走を経て、魂ぐらいはサムライレベルになったのかもしれないけれど、肉体は後述する「D級妖怪レベル」だ。A級S級妖怪が集まるみちのく津軽ジャーニーランを単独で、かつ様々な気候条件下で完走する力はまだない。 今回はいかなる時もチームメンバーと一緒に励ましあいながら、超恵まれた天候下でのみ、たまたま完走できたに過ぎない。

来年も出走し、真の実力を証明するためには、どこをどう意識して走ったのか、何がうまくいったのか、どのへんが想定外だったのかを、事細かに記しておく必要がある。

※D級妖怪:名著・幽遊白書において人間よりはちょっと強いレベルの妖怪
※A級妖怪:妖怪界の最高峰
※S級妖怪:A級妖怪すら畏れを成す、伝説や神話に出てくるレベルの妖怪


3,「D級妖怪」の俺が参考にできるブログがこの世に存在しない

誤解を生みそうな表現なので、少し詳しく話そう。

まず、このみちのく津軽ジャーニーランは小規模でアットホームな大会のため、参加者が数百名程度と多くはない。東京マラソンだと3万人、野辺山ウルトラマラソンで2000人ほど。よって、本レースに関して書かれたブログ自体が、他の有名レースに比べて圧倒的に少ない。少しでも知識を得るためざっと探してみたが、過去5回開催されているこのレースに関して書かれたブログは、著者ベースで20件程度しかない。そしてその中に、俺が「参考になる」と思えたものはゼロだった。

「参考になる」の基準は、主に2つある。1つは、完走に必要な知識が網羅されていることである。〇km地点に〇がある。ここが次のチェックポイントに至るまでの最後のコンビニである。必要な装備は〇〇である。こういった知識を載せてくれているブログはいくつかあり、それらは大変に参考になった。特に、前半で補給が全くできない区間があり、これらのブログの注意喚起がなければ、前半のうちに補給不足であっさりリタイヤ、なんてことにもなりかねない。1つ目の基準を満たしてくれるブログはいくつもあったが、肝心な2つ目の基準に関して、なかなかどれもフィットしなかったというのが実際のところである。

2つ目の基準とは何か?それは、完走に必要な経験値が網羅されていることである。

以前、元陸上選手で陸上競技界のご意見番として有名な為末大さんが、面白いことを言っているのをウェブで見たことがある。曰く、「男子選手の400mHと女子選手の400mHは全く別の競技である。だからトレーニング内容も変える必要がある」といったような内容。はて?同じ400mHやないか、速いか遅いかだけの違いじゃないかとは思ったものの、後に続く記述を見てなるほどなと思わされた。意訳すると、こういうことだった。

男子選手の400mHは、為末さんレベルだと47秒程度で終わる。対して、女子選手の日本代表レベルの400mHは56秒ほど。つまり、女性選手はスタートから47秒を経過した時点で、あと10秒近く全力で移動し続けなければならない。とするならば、男子選手が47秒で力を使い果たすのと同じように、女性選手が47秒時点で力を使い果たしてしまっていては、残り10秒を走り切ることができない。最初から、60秒弱かけてエネルギーを使い切る走りをデザインする必要があり、それは男子選手が必要とするものとは違い、むしろ短距離ではなく中距離的な走りが求められる。

なるほど。超なるほど。だからウサイン・ボルトと中学生は同じ100mの走り方をしてはいけないし、長距離の方の半端ない大迫選手と俺とでは、マラソンの走り方が全く異なる。(大迫選手がゴールした頃、俺は20km地点にまだ届いていない)

経験値は、同じレベルの人間同士で交換する場合以外は、意味を成さない。これは考えてみれば至極簡単な話である。例えば、超サイヤ人孫悟空が「限界の超え方」というありがたい巻物を記したとしよう。おそらくそこには、「限界を超えるってすっげぇカンタンなことなんだ。オラ今まで、めちゃくちゃ怒ったり、ダメージ食らって仙豆食ったりしただけで、限界を超えてきてっぞ。おめぇも試してみてな!」とか能天気に書いてあることだろう。クリリンとヤムチャには何の参考にもならない。彼らは怒ったり豆を食ったりしても強くなることはない。地球人の中では結構頑張っている方の彼らではあるが、所詮人間であり、チートが多分に入ったサイヤ人と異なり、まっとうな修行でしか強くなることはない。大事なのは妖狐蔵馬が言っていた「十分な栄養と適度な運動」これである。唯一の例外は、なぜか人の潜在能力にアクセスできる死にかけの緑色の太ったジジイを捕まえて、夢を語ることである。そうすることで、クリリンはなぜか大幅にパワーアップさせてもらえた過去がある。こういうノウハウは大事だ。ヤムチャはそのノウハウを知らなかったので、最後まで残念なキャラのまま終わった。


俺は、過去にウルトラマラソン(100km)を5回完走している。全部2分前~6分前のギリギリゴールである。超ウルトラ(100km超)に関しては4回完走している。全部15分前~30分前のギリギリゴールである。アイアンマン(スイム3.8km、バイク180.2km、ラン42.2km)も完走しているのだが、一番ひどいときは1分前ゴールだった。普通の人間が挑む以上のものにはチャレンジしてきた自負があるので、自分をD級妖怪レベルと称しても良いのかもしれないが、上記のレースをちゃんと余裕を持ってゴールする猛者たちに比べると、レベルの差は明らかにある。

で、肝心のみちのく津軽ジャーニーランについて、ブログ(とYoutube)を漁ったところ、A級妖怪とS級妖怪の著者しかいないんだこれが。 こういう妖怪たちは、俺がキロあたり7分半で走る道を5分台で走り、キロあたり11分かかる登り道を6分台で登り、俺が1時間寝ないと死ぬところを5分の睡眠で切り上げ、俺が51時間めいっぱい使ってゴールを目指すレースを35時間とかで終えてたりする。実績を見ても毎月100kmマラソンに出ていたり、むしろ100km程度のレースは短すぎて出ていなかったり、フルマラソンは3時間を切っていたり、経験値のけの字も共有できない。

俺は、どんなレースでもギリギリなランナーである。よって、完走ができるかどうかが非常に微妙な今回のような激甚級のレースに関しては、ギリギリなランナーによるブログでなければ消化できない。んがしかしそんなものはこの世に存在しない。ならば来年以降のために、また後に続くギリギリランナーのために、俺自身が脳内を掘り起こして書くしかない。そんなわけで今日ここに至る。

ちなみにここまでお気づきの通り、本エントリをちゃんと読み込むには、ドラゴンボールとスラムダンクと幽遊白書と北斗の拳に関する知識と教養が不可欠である。最近の少年ジャンプはてんでダメだが、黄金期のジャンプは本当の名作が集積しているので、良い子の皆さんにはぜひきちんと学んでほしい。センター試験に出ます。そんなこんなでみちのく津軽ジャーニーラン266km完走記。はじまるよ。

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退かぬ、媚びぬ、省みぬ!我が生涯に一片の悔いなし!

羅王




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