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老舗工務店の生き残り策!地域密着型サービスをテーマにした経営革新計画の作成事例

1.はじめに:同社の現状と経営課題


 同社は、主に民間住宅の新築工事を手掛けて成長してきた工務店です。50年以上の業歴があり、過去に同社へ工事を発注したOB(オールド・バイヤー)客のリストは200名に上っていました。また、同社は大手メーカーの下請けではないため、安定的な受注ルートがなく、常に自社で営業活動を行って受注していく必要がありました。

 昨今はOB客の高齢化が進み、同社に建ててもらった自宅を手放して介護施設へ入居し、リフォーム需要が見込めなくなってしまうケースが発生するようになりました。

「新築工事は価格競争が激しいんだっきゃ」

 また、OB客が建てた住宅に子ども世帯が入居した場合、子ども世帯と同社の関係が築かれていないケースも多く見られ、リフォームの依頼が他社に流れることもありました。

 さらに、家電量販店やガス会社が安価な住宅を提供し、家電やガスの需要を取り込むような戦略をとってきており、価格競争が厳しくなっていました。

 結果として、同社の業績は厳しい状況になっており、この状況を打開するために、地元商工会へ相談に訪れたところ、職員から経営革新計画の策定をご提案されました。経営革新計画については、以下の記事をご覧ください。

2.同社が策定した経営革新計画の内容

 同社は、商工会が手配した専門家の支援を受けながら、経営革新計画を策定しました。その内容は、OB客やその子ども世帯が抱える生活全般の困りごとを解決することで関係性を強化し、他社に流れているリフォーム工事の需要を確実に取り込んでいくというものです。

 これまでは社員の手が空いた時期にアポなしでOB客宅を訪問し、ニュースレターやカレンダーを届け、住宅に関する困りごとがないか聞き、対応をしていました。

 しかし、OB客の高齢化とともに住宅だけでなく、生活全般の困りごとも増加しており、これに無償で対応することとしました。これによって、OB客やその子ども世帯との関係性をより強化し、リフォーム工事の発注をしやすくすることを目的としています。

「生活全般の困りごとに対応してくれるんだっきゃね」

 なお、具体的な困りごととしては以下を想定しました。

  • 室内の電球交換

  • 庭の草取り・果実取り・散水

  • エアコンのフィルター清掃

  • 買い物・チケット取得代行

  • ネットを用いた各種予約(ホテル、交通機関、飲食店、チケットなど)

  • 家具の移動

  • 食事の同席 など

 実は、同社がこのような取組みを考えた背景には、以下の参考事例がありました。

3.参考事例:でんかのヤマグチの取組み

 創業57年を超える老舗家電販売店「でんかのヤマグチ」は、東京都町田市と神奈川県相模原市を商圏に、顧客との深い信頼関係を築きながら成長を続けています。その秘訣は、顧客一人ひとりに寄り添ったきめ細かなサービスと、地域密着型の経営戦略にあります。

 かつて、同社は3万件の顧客カルテに基づき、月1回のペースで顧客宅を訪問し、家電製品に関する困りごとを聞いていました。しかし、価格競争の激化により業績が低迷していた時期に、顧客カルテを分析したところ、2万件の顧客は過去5年間全く購入履歴がないことが判明します。

 そこで、でんかのヤマグチは5年以内に購買履歴のある1万件の顧客をターゲットに絞り込み、訪問頻度を月1回から月3回へと増加させました。これは、「ザイオンス効果(単純接触効果)」と呼ばれる、接触回数が多いほど相手に対して親しみを感じる心理効果を活かした戦略です。

 さらに、家電製品の販売価格は、周辺の家電量販店よりも高めの設定に変更します。その代わりに、家電販売だけでなく、庭の水やりや家具の移動など、生活全般をサポートする無料の「裏サービス」を開始しました。

 この顧客目線のきめ細かなサービスと、地域密着型の経営戦略により、でんかのヤマグチは顧客との信頼関係を築き、業績を向上させていきます。その結果、商圏内に出店していた家電量販店6社のうち2社が撤退するまでに至りました。

「他社の取組みを参考にした取組みであっても、商圏内で競合が実施していない経営革新計画であれば、承認される可能性が高い」

4.まとめ

 今回紹介した老舗工務店は、OB客の高齢化や価格競争という課題に直面しながらも、経営革新計画を通じて新たなサービスを導入し、顧客の生活全般をサポートすることで、リフォーム需要を喚起することに成功しました。

 この取り組みは、創業57年以上の歴史を持つ家電販売店「でんかのヤマグチ」の成功事例を参考にしており、顧客目線のきめ細かな対応と地域密着型の経営戦略が、競争の激しい市場での差別化を可能にしました。

 経営革新計画を策定することで、経営者が頭の中で描いた戦略が具体化され、実行しやすくなります。さらに、企業は補助金や融資の優遇といった支援を受けられます。

 これにより、従来の事業に加えて新しい価値を提供することができ、地域社会に貢献しながら持続的な成長を遂げることができます。これからも地域に根ざしたサービスを提供し、顧客との関係を深めることが、企業の発展に繋がる重要な要素であると言えるでしょう。

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