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人材の定着率が低い職場が求人広告を出しても応募者が少ない理由とその対策

1.定着率低下が応募者減少を招く理由


 近年、労働人口の減少により人手不足が深刻化しています。募集広告を出稿したり、SNSで採用活動をしたり、店頭に張り紙を出したりしても、応募がなかったり、応募があって採用したとしてもすぐに辞めてしまったりと、多くの事業者が頭を悩ませています。

 しかし、新規人材の「採用」ではなく、既存人材の「離職」に対処しないと人手不足は解決できないと断言できます。なぜなら人手不足を招いた原因は、人材の流出であり、バケツの穴を塞がなければどんなに水を溜めようとしても、溜まらないことと同じであるからです。

 そもそも、定着率の高い事業者が発信する求人内容には、具体的な業務内容、職場環境、福利厚生など、応募者が仕事内容や企業文化を理解するために必要な詳細情報だけでなく、ビジョンや経営者の顔写真などが掲載されているものです。

 これに対して、定着率の低い事業者が発信する求人内容は、業務内容がアバウトであったり、職場環境に特徴がなかったり、そもそもビジョンがなかったり、経営者の顔写真を掲載しなかったりなど不透明な部分が多く、応募者目線になっていないと言えます。

 よって、応募者の目線を持ち、よりよい職場環境を構築し、既存人材の定着率を高めることが、新規人材の応募を促し、入社した人材の定着率を高めると言えます。では、そもそもなぜ人材は離職してしまうのでしょうか?

2.離職の原因と対策

「辞めます。バイバイ」

 離職の原因は「不満足度が大きい」か「満足度が小さい」かのどちらかです。よって「不満足度を小さく」するか「満足度を大きく」する取組みが必要と言えます。これを考える際にアメリカの臨床心理学者フレデリック・ハーズバーグ氏が提唱した、モチベーション理論の「動機付け=衛生理論」が参考になります。

 これは、「不満足度を小さく」「満足度を大きく」すればモチベーションは高まり、「不満足度を大きく」「満足度を小さく」すればモチベーションは低くなるというものです。そしてこの理論では「不満足度」に影響する要因と「満足度」に影響する要因は別であるとしています。

 ハーズバーグ氏は、不満足度に影響する要因を「衛生要因」とし、満足度に影響する要因を「動機づけ要因」としました。「衛生要因」は、充足させれば不満足度は小さくなりますが、満足度は大きくならない要因です。また、「動機づけ要因」は、充足させれば満足度は大きくなりますが、不満足度は小さくならないとしています。

 以下で、これらの要因を詳しく解説し、定着率向上の方策を見ていきます。

3.不満足度に影響を及ぼす「衛生要因」

「衛生要因が満たされていないと不満足度が大きくなる」

 「衛生要因」とは「会社の方針」「上司の監督」「給与」「人間関係」「労働条件」などを指し、これらが充足されておらず、不満足度が大きい場合、人は職場に対してネガティブな感情を抱き、離職を考えるようになります。具体的には以下の状況を指します。

  • 会社の方針や理念がない

  • 上司の言動や管理体制に不満がある

  • 給与や福利厚生が不十分

  • 人間関係が悪い

  • 労働条件が悪い(長時間労働、休日が少ないなど)

 よって、これらを改善することで不満足度は小さくなりますが、それによって満足度は高まらないとされています。そこで、これに加えて「動機づけ要因」を充足させることが必要になってきます。私の経験上「衛生要因」の充足はほどほどにして「動機づけ要因」の充足に注力する方が、効果は高まります。

4.満足度に影響を及ぼす「動機づけ要因」

「動機づけ要因は満足度に影響を与える」

 「動機づけ要因」とは、「承認」「責任」「達成感」「仕事そのもの」「昇進」などを指し、これらが充足されている場合は、満足度が高まり、職場への愛着やモチベーションが向上し、離職しにくくなります。具体的には以下の状況を指します。

  • 上司から認められ、やりがいを感じられる

  • 権限や責任を与えられ、自律的に仕事が出来る

  • 目標を達成し、成功体験を積むことが出来る

  • 仕事内容自体が興味深く、スキルアップ出来る

  • キャリアパスが明確で、将来の成長が見込める

 このような状態であれば、満足感が高まりますが、これらの要因は満たされれば満たされるほど、満足感が制限なく高まっていくとされています。

5.両面アプローチで人材定着率を高める

 人材定着率を高めるためには、衛生要因と動機づけ要因の両面からアプローチする必要があります。具体的には以下の取組みが挙げられます。

(1)衛生要因の充足:不満足度縮小のために

  • 職場の方針・理念を決め、定期的に話題にするなど従業員に浸透させる。

  • 従業員が仕事に慣れないうちは、管理監督に努め、アドバイスをする。

  • 世間相場、最低賃金を踏まえた給与を設定する。

  • コミュニケーションを促進させ、人間関係を維持する。

  • 長時間労働、休日数に配慮する。

(2)動機づけ要因の充足:満足度拡大のために

  • リーダーは従業員に意識を向け、望ましい行動を承認する。

  • 従業員が仕事に慣れてきたら、権限や責任を与え、自律性を重視する。

  • 本人が納得できる目標を設定し、達成をサポートする。

  • 今の仕事ができるようになってきたら、新たな仕事を与え、成長を促す。

  • 従業員が持つ将来のビジョンを共有し、ビジョン達成を後押しする。

 人手不足を解決するには、既存人材の定着率を高めることに注力する必要があります。衛生要因と動機づけ要因の両面からアプローチすることで、従業員の満足度を高め、離職を防ぎ、組織全体の活性化につなげることができます。

 そのことを求人広告に盛り込むことによって、応募者の増加が期待できます。

 今回紹介した施策を参考に、自社の課題に合った取り組みを推進することで、人手不足を克服し、組織の成長を実現していきましょう。

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