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LINE株式会社を退職しました(②Computer Vision Lab新規設立の喜びと苦労)

もくじ

  • 私がLINEを大好きになった理由と魅力

  • Computer Vision Lab新規設立の喜びと苦労(←本記事)

  • 退職理由(←本記事)

前回の記事では、あまりに筆が走りすぎて記事が長くなったので前後半に分けました。後半は、Computer Vision Labを立ち上げた話を綴ります。なお、本記事に企業の機密情報や悪口は含まれません(当然)。


Computer Vision Lab新規設立の喜びと苦労

新卒入社のオムロンを辞めてLINEに転職したきっかけは「一緒にComputer Vision Labの立ち上げ人をやってほしい!」という嬉しいお声がけでした。LINEは私の大好きな京都にオフィスを構えていて、エキサイトな研究に挑戦中なのも知っていたので、転職を即決しました。

楽しすぎた研究所の立ち上げ

Computer Vision Labの立ち上げにあたって、初期メンバで話し合いながら、どんな組織にしたいか、Visionは何か、直近の目標は何か、どんな研究テーマを担うか、そのためにどんな人材を採用するか、全て手作りで自分たちで決めていきました。

組織Visionの設定で私がこだわったのは、CVLを「憧れられる存在」にしたいという点です。これは私が人生でずっと掲げ続けている目標です。メンバ全員が楽しく活き活きと過ごし、価値創出やプレゼンス発揮をして、周囲から「私もここで働きたい!」と思ってもらえるチームに成長させたいという願いを込めました。

方針が決まったら次は研究テーマを立てます。社内のあらゆる部門の人たちに話を聞いて、どんな研究をすれば事業にインパクトを出せるか、また、どんな社内アセットを活かせば強い技術を作れるか、作戦会議の日々でした。

手作りの研究所で裁量を持って働けることが嬉しく、社内のどんな話を聞いても学びがあり、来る日も来る日も「もっと働きたい!早く仕事を進めたい!」という感覚でした。気がついたらすぐ夜になるので「1日が48時間ほしい!」とも言ってました。当時既に30代でしたが、今までで最もエネルギーが溢れていた時期でした。

夢に向かって正しい方向に進んでいると確信できた瞬間

(これが私の貢献によるものではなく、主にLINEというネームバリューに起因したものであることは重々承知していますが)、2022年のMIRU@姫路に企業ブース出展したとき、学生や社会人を問わず多くの人々が「話を聞きたい!」「楽しそう!」「採用情報を知りたい!」といってブースを訪れてくれて、組織説明や技術デモをするとさらに興味を持ってくれて、最後は皆様満足して帰られました。あまりの来訪者の多さに、途中から研究を聴講して回るのを諦めたくらいです。これは私にとって「憧れられる存在にする」という夢に向かって正しい方向に進んでいると確信できた瞬間でした。帰宅後に嬉しくて1人でこっそり泣いてました。


組織成長に伴う苦労

直近の事業貢献と将来への研究のバランス

よく研究組織で耳にする課題です。ただ、このあたりは人によって意見がキッパリ分かれます。

私の中では「自律と自立」がキーワードでした。これは前職オムロンで尊敬していた上司から頂いた言葉です。将来必要な技術を自ら見極めて自律的R&Dを遂行しつつ、稼ぐ力(≒事業貢献する力)も備えて自立した組織を目指すという考えです。CVLは企業の研究所なので、やはり事業貢献はMUSTだと私は考えていました。

念のため申し上げると、将来に向けた研究が重要なのは間違いないですし、このような研究に即時の売上を求めるのはナンセンスでしょう。しかし、仮に数年後に価値を生むとしても、少なくとも現時点では他部門の売上と投資のおかげで研究着手させてもらっている事実を真摯に受け止めねばなりません。その事実から目を逸らして「俺の研究の価値がわからないのか!?」などと言ってると、周囲から役に立たない組織だと見えかねません。

もう1つ、将来に向けた研究をする場合には、価値を出す瞬間までの道筋を示すよう求められます。都合よく「将来的に役立つから〜」という言葉を使って誤魔化してないか、自分自身に本気度を問いかけねばなりません。事業環境も技術も激しい変化が続いて不確実性が高い昨今ですが、それでもなお、将来の価値創出に向けたシナリオを超具体的に描く努力は研究者に課せられた責任であり、これを放任するなら無邪気な研究にしかなりません。

CVLでは両方をカバーできるよう、将来の研究をする人や直近の事業貢献にフォーカスする人など、メンバごとに異なる役割と目標が設定されました。


異なる役割や成果に対する理解とリスペクト

やはりメンバーが増えて組織が成長すると、悩みも増えます。

1つ目が、個人のキャラクターや自己実現目標と組織目標を重ねる点です。論文執筆が好きな人、トップカンファに出したい人、事業サイドと連携してハマる研究テーマを立てるのが好きな人、モデルチューニングして性能向上させるのが好きな人など、それぞれキャラクターがあります。個人がやりたいことと組織がやってほしいことを重ねる点に細心の注意を払いました。

2つ目の悩みは、メンバによって異なる役割があったため、仮に同じ量の努力をしても外部から見た場合に注目されやすい仕事とそうではない仕事があった点です。例えば、私はプロダクトに近かったりメディア露出も多かったので外部から評価を頂く機会が多く、モチベーションと自己肯定感の高まりやすい恵まれた環境でした。ただ、全員がそういった仕事を持っているわけではないのです。

これは一般論ですが、人間とは自分への評価に心配や不満があると、だんだんと目標を見失って自己顕示が目標にすり替わったり、ナワバリ意識が生まれて協力関係にヒビが入ったり、最悪の場合は足を引っ張るといった真逆の行動をとります。「あなたは全員でチーム目標を達成するより、自分が評価されることを優先して行動していませんか?」という問いに「NO」と言える状態をチームメンバ全員に保ってもらえるよう、これは非常に気を使いました。


最後に:退職理由

ハッキリと明言したいのは「嫌なことがあったから辞めるわけではない」という点です。LINEでのCVLの立ち上げは本当に楽しかったし、組織変更があった今でも愛着を持っています。私が担当したR&Dでは(本原稿執筆時点で)累計5億回以上も利用されたようなプロダクトを手がけて、転籍後にはNAVERの凄腕リサーチャーと一緒にDocument Understandingの研究に従事したりと、毎日がエキサイティングで学びに溢れていました。

こう書くと「なぜ辞めるの?」と聞こえてきそうですが、新しいキャリアを積むためです。この調子で腕を磨いてリサーチャーとして尖った人材を目指す選択肢もあったかもしれませんが、さながらMOTのように組織規模で技術を活かしながら経済価値を創出する経験を積みたく、新しい挑戦を選びました。いつも与えられるばかりで、少しは恩返しできたのかわかりませんし、そんな状態のまま退職する自身を少々身勝手にも感じております。

それでも、関わってくださった全ての方へ、チャンスをくださった全ての方へ、学びを与えてくださった全ての方へ、心からの感謝をお伝えさせてください。LINEヤフーへと合併したのでLINE株式会社は無くなりましたが、ここでの学びや体験したカルチャーは今後一生大切にします。

本当にありがとうございました。


前編:LINE株式会社を退職しました(①私がLINEを大好きになった理由と魅力)

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