見出し画像

立野ダムのサーチャージ水位到達を見に行ってきた時のこと

熊本県で建設が進められている立野ダムが試験湛水を迎えて、いよいよサーチャージ水位に到達するという情報が回ってきた。
ダムのサーチャージ水位到達というのはダム関係者にとっては超特別な出来事で、「一生に一度しか見ることができない光景」と言われると普通の人でも、それなら見に行ってみようかと心が動かされるだろう。私も以前、夕張シューパロダム(北海道夕張市)のサーチャージ水位到達を見たことがあるが、関係者から伝わってくる誇らしげな雰囲気と、「今しか見ることができない」という特別感があって、良いものだった。
とは言え、場所は熊本県の阿蘇だ。さすがに即断というわけにもいかない。ダム好きやダムマニアは万難排しての心境で行くのだろう(実際、地元観光協会や南阿蘇鉄道がツアーの募集を始めた1週間前からtwitter(現X)がざわつきはじめていた)が、私が踏ん切りをつけて行くことにしたのはサーチャージ水位到達予定日の3日前のことだった。事情があって最寄りの熊本空港からではなくて鹿児島空港からレンタカーで行くことにはなったが。

新しくダムを造る時、建設工事が終わると一度水を溜めて試験を行なう。これを試験湛水という。ダム本体はきちんと設計・施工管理されているのでまず心配はいらないが、ダム湖の周辺では水を溜めることで地滑りが起きて追加対策が必要になったりすることもある。試験湛水でサーチャージ水位(最高水位)を24時間以上保って問題がないか確かめた上で、ダムはようやく完成とみなされる。
この、試験湛水でサーチャージ水位に到達するというのが、ダム好きやダムマニアにとっては「見逃したら一生後悔する」イベントになっている。ダムの設計上、貯水位がサーチャージ水位に到達するのは100年や200年に1度の確率で起こるような世紀の大洪水時という想定であり、そんな災害が発生しているような状況でダムを見に行けるわけがない。ダムのサーチャージ水位到達は、文字通り一生に一度の光景なのである。

前日(2月3日)、鹿児島空港入りした私はレンタカーで九州自動車道を北上して、ホテルが取ってある熊本県大津町に向かった。
ホテルに着いて、チェックインしようとフロントのある2階でエレベーターを降りたら、目の前に知り合いがいて驚いた。その知り合いとは事前に連絡は取り合っていて、偶然にも宿泊するホテルが一緒なこと、せっかくだから会えたらいいねと言うぐらいのやりとりはしていたのだが、いきなり出くわすとは思ってもみなかった。まるで待ち伏せていたかのようなタイミングの良さだ。聞いたところ、相手も直前にチェックインを済ませたばかりだったと言う。
知り合いも、もちろん立野ダムのサーチャージ水位到達が目的だ。作戦会議もかねて夕食はホテル内のレストランで一緒にとることにした。
早速今日の21時ごろにはサーチャージ水位に到達して越流が始まるというネットの情報があるということで、それを見に行くために夕食後、20時に集合することになった。私はビールを飲んでしまったので、知り合いの車に同乗させてもらって向かう。
ダムサイトに着いたら既に越流が始まっていた。ライトアップされて流紋が白く光っている。美しいのだが、風雨が強くて、おまけに寒い。九州はなんとなく暖かいイメージがあるけれども、阿蘇の2月は寒いのである。その夜は、5分間だけ見て早々に退散した。

一夜明けて、寒さは相変わらずだが、風雨は収まった。曇り空だけれども雨の心配はなさそうだ。
昨晩のが事前下見になって、視点場にはすぐに着けた。クレストからの自然越流。堤体の流紋が美しい。手前の鉄橋は南阿蘇鉄道の立野橋梁だ。トレッスル橋という形式で、以前それを見に来たことがあるが、まさかこんなすぐそばにダムができるとは思ってもみなかった。

ダムサイトに移動する。上流から見るとこんな感じに、水面がいきなり落ち込んで越流している。なかなか見ることのない光景だ。

立野ダムは、阿蘇カルデラから白川が流れ出ている場所に建設されている。白川の谷が外輪山の切れ目となっていて平野部を見下ろすことができる。満水の立野ダムからは下流の街を守っている感じが強く伝わってくる。

こんな看板が出ていたり

カウントダウンの看板も「0.0m」になっている。サーチャージ水位達成だ。

他に見たい場所があるので、一旦、ダムサイトを離れる。
それが、こちら。
なんと鉄橋が半分水没してしまっている。
この橋は南阿蘇鉄道の第一白川橋梁で、普段、立野ダムに水がないときは谷底から約60mの高さを誇っているが、試験湛水でサーチャージ水位まで水が溜まっている今日はこの有り様だ。
第一白川橋梁は、2016年の熊本地震で損壊して、その後再建されて2023年7月に運転再開したばかりだ。その再建の際にあらかじめ立野ダム満水の際は水没することを見越して設計してあるということで、こうした状況になっても橋自体はなんら問題はない。南阿蘇鉄道の列車も普通に走っている。

第一白川橋梁が半分水没している光景も、立野ダムが満水状態になっている今しか見ることができないので、場所を変えて撮影しに行く。もちろん列車が来るタイミングを見計らっての計画的な行動だ。望遠レンズも持って来てある。

まだやらないといけないことがあって(今回の満水は忙しい)、今度は南阿蘇鉄道の長陽駅にやって来た。最初に展望台から見たように立野ダムの手前には南阿蘇鉄道の立野橋梁があって、ダムだけを眺めるには「邪魔」になる。それなら南阿蘇鉄道の列車に乗って車内から見たら、これは最高の展望台になる。
それで、長陽駅に車を停めて立野駅まで往復しようというのである。

南阿蘇鉄道の車窓からの眺めがこちら。

立野駅では8分しか折り返し時間がないので、そのままホームに留まって車両の写真を撮ったりしていた。知らなかったのだがこのMT-3001という車両は2月で廃車が決まっていて、これが最初で最後、見納めになってしまった。

長陽駅で乗って、車内にいた車掌さん(?)に立野駅で折り返すので帰りの運賃はどうしたらよいかとか相談していたので、おそらく顔を覚えられていたのだろう。立野ダムの見物がてら南阿蘇鉄道に乗ったということもバレバレだろうし。帰りに長陽駅で降りた時に車内放送で「この度はわざわざ南阿蘇鉄道に乗っていただきましてありがとうございました」と言われた時は、照れくさかった。
今度は、ちゃんと立野駅から高森駅まで全線乗りに行きます。

最後にもう一度展望台に来てみた。
100年とか150年とか確率上の計算でしかないけれども、立野ダムが次に越流するとしたらそれは大洪水の発生時で、そんな危急の事態の時にわざわざ熊本まで行くことはないから、この光景は本当に見納めだ。この越流の光景をしっかりと目に焼き付けておこう。


旧小学校の空き教室を利用して開設された立野ダムの広報施設「あそ立野ダム広報室」、その前にこんなミニダムくんたちがいた。ちゃんと放流孔が3つ空いている。かわゆすぎだろ。


帰り道、九州自動車道を鹿児島空港に向かいながら、そう言えば、ダムの周辺をいろいろと(車で)走り回って、南阿蘇鉄道も乗ったりして、ちゃんとお昼ご飯を食べていなかったなと思い出した。
九州道・宮原SA(下り線)の宮原角煮ラーメン(熊本県氷川町)。豚バラ肉の角煮がジューシーで美味しかった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?