オールインワンメトリクスに基づいた選手の評価──プラスマイナス系

こんにちは、らんそうるいです。今回は5回を予定している連載の第4回として、オールインワンメトリクスの内、私たちがプラスマイナス系と呼んでいるものについて書きたいと思います。連載におけるこの記事の位置づけを図で示すと次のようになります。

選手の評価指標の整理:下は個人の具体的なプレイで、上は出場選手たち(ラインナップ)の得失点差を表しています。下に行くほど具体的・上に行くほど抽象的です。

 前回(第3回)の内容をおさらいしましょう。選手の貢献を一つの数値で表そうという試みがオールインワンメトリクスでした。オールインワンメトリクスはEFF系とプラスマイナス系に大別できました。EFF系は短期間のデータで計算結果が安定するという長所がありますが、守備やオフボールのプレイの評価が苦手であるという短所がありました。
 今回(第4回)は、得失点差の推移に注目することで、守備やオフボールのプレイも含めて1つの数値で表現できるプラスマイナス系のメトリクスを紹介いたします。まず、プラスマイナス系の進化の歴史について話した上で、現状の最終進化系であるRAPM(Regularized Adjusted Plus-Minus)に絞って長所と短所を述べたいと思います。よろしくお願いいたします。

プラスマイナス系の進化の歴史

プラスマイナス

プラスマイナスは、プレイバイプレイという時系列で選手とプレイを記録したデータが公開されてから計算が始まった、比較的新しいスタッツです。出場時間中の得失点差を表しています。

プレイバイプレイBリーグ公式ホームページからキャプチャしました。画像中央が試合の経過時間です。左右には、それぞれその時間にどんなプレイがあったのかや選手交代、タイムアウトの情報が記録されています。

 プラスマイナスは、得点やリバウンドといった個々のプレイではなく、出場時間中の得失点差を表していることから、コート上の全てのプレイを1つの数値に押し込んでいると考えることができます。
 しかし、プラスマイナス系の始祖であるプラスマイナスは大きな欠点を抱えていました。それは上手な選手と一緒にプレイする選手は、プラスマイナスの評価値が高くなりやすいというものです。また、相手選手が上手なほど評価値が上がりにくいという問題もありました。こうした、関心のある選手の貢献以外の要因をいかに取り除くのかがプラスマイナス系のオールインワンメトリクスの進化の歴史です。

プラスマイナスの図解:一番上の行同士の得点の差(10-10)と、真ん中の行同士の得点の差(15-5)を足し合わせたものが選手Aのプラスマイナスになります。

ネットプラスマイナス:引き算を使った推定方法

 まずはじめに考案されたのがネットプラスマイナスでした。これは関心のある選手の出場時間中のプラスマイナスから、関心のある選手が出場していない時間のプラスマイナスを引き算するというものです。こうすることで、プラスマイナスの内、味方選手の影響で過大・過小評価されていた部分を取り除くことができます。

ネットプラスマイナスの図解:選手Aが出場している時のプラスマイナスは上の行の10点-10点で0点になります。選手Aのが出場していない時のプラスマイナスは下の行の15点-5点で10点になります。選手Aのネットプラスマイナスはこれらの差なので0点-10点で-10点になります。

 一方で、ネットプラスマイナスは引き算の結果なので、評価値が高くなる場合は2つありえます。関心のある選手の貢献度が大きい時と、控え選手の貢献度が小さい時です。どちらの影響でネットプラスマイナスの値が大きくなったのか分からないというのが、残された課題でした。また、相手選手の上手さも考慮されていませんでした。

APMとRAPM:統計学の手法を使った推定方法

 そこで、敵味方の影響を統計学の手法で揃えたのが、APM(Adjusted Plus-Minus)とRAPM(Regularized Adjusted Plus-Minus)です。詳細は専門的なので省きますが、どちらのメトリクスも線形回帰という手法を使って貢献度を推定します。
 APM・RAPMはプラスマイナスが抱えていた大きな問題、すなわち上手な味方と一緒にプレイすると評価値が高くなりやすい・手強い相手と戦うと評価値が低くなりやすいという欠点を、既に克服していることを強調しておきたいと思います。
 RAPMはAPMを改良したメトリクスで、APMより頻繁に見かけるので、RAPMに絞って長所と短所を述べます。

RAPMの長所

RAPMの長所は、コート上での全てのプレイを得失点差として捉えることができる点です。
 あらゆるプレイの影響は得失点差という結果で表現することができます。たとえば、守備の進路を妨害するプレイ(スクリーンプレイ)は、もしそれが効果的であるなら、味方の得点が増えるという形で得失点差に影響します。他には、ゴール近くで長身の選手が守備をすること(リムプロテクト)で、相手がゴール近くでの攻撃を選択しづらくなり、ゴール近くの成功率の高いシュートを防ぐ効果が期待できます。この守備の貢献も失点を減らすという形で得失点差に影響します。スクリーンプレイやリムプロテクトといった貢献は、たとえ集計しづらかったとしても、得失点差としてなら表現できます。このような背景があって、得失点差を直接推定するRAPMは全てのプレイを考慮することができると考えられています。

RAPMの短所

RAPMには短所が2つあります。1つ目の短所は、なぜ評価値が高いのか低いのかが解釈できないことです。EFF系のメトリクスでは計算に使ったスタッツに立ち戻ることで、なぜ評価値が高いのか低いのかをある程度解釈することができます。しかしプラスマイナス系のメトリクスはできません。これはあらゆる出来事を得失点差という1つの数値に押し込んでしまっていることに起因します。
 2つ目の短所は、信頼できるランキングを得るために3〜5年分のプレイバイプレイが必要だと考えられていることです。
 そこで最終回(第5回)では、RAPMを1年程度のデータで再現するというモチベーションの下、精力的に開発が進められている混合系のメトリクスについて説明させていただきます。

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