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羽化

思い出を分け合うにつれ増えていく七年分の嫌いなあなた

好きなまま疎遠になって好きだった重みを抱えきれず泣きたい

花見へと向かう車内に花びらと同じ速度で滑る塵埃

ドタキャンのLINEが届く会場で一人称単数形になる

終電の三本前に揺られつつ空白を分け合っていたよね

意図しないハッピーエンド 準備した涙を渡しそびれるほどに

鈍感になりたい、痛みに苦しみに寂しさに眩しさに好意に

友だちと呼ぶには遠い同僚と同じ名のバラを買ってしまう

生クリームまみれの氷が舌先に触れる 唯一無二になれない

依存されてみたくて飼ったアボカドにアナフィラキシーで殺される夢

呪詛だった連なる過去も忘れたくなくて消せない鍵アカウント

人肌の恋しい土曜日の午後にレンジで爆発しているココア

助手席で浴びる西日はしにたいといってしまった後悔も焼く

中止した卒業式に積読の聳える自室のような気がかり

時速約一七〇〇キロメートルで希釈されたら思い出になれ

等速でスクロールするレンタルの恋人候補はエイリアンの顔

もろくてもきれいな羽がほしかったってかみさまにクレームをいう

一人旅の行き先に川 踏み出せば足首までにこの星のなだ

髪の毛を黒染めすれば清純派新入職員向けの保護色

透明な壁を隔てて先輩の素顔を視界の端にとらえる

残業をしないで帰る 残業の仲間意識外を浮遊する

恋人のつもりで掛布団を抱けばこれが空虚を抱いている腕

陸橋の奥のこれからふるさとと呼ぶまちは夕焼けに浸って

坂道を駆けおりてゆくジャケットは羽根をひろげるように膨らむ

パンプスのままで上司に奢られたコーラを飲めば背伸びの目線

二年越しに「元気?」が届くそれだけで残りの帰路をスキップできる

見返しのゆるいサインに触れたまま次のページをめくれずにいた

思ってたよりも大人じゃないひとになってしまって七日目の朝

腕時計止まって修理屋に行けば光が足りないからといわれる

孤独死が怖くなくなるこの星でいつかあなたも星になるなら

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