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『テッド・ラッソ』はグラのおすすめ。

テレビ業界の最高賞「エミー賞」のノミネーションが発表されて、『テッド・ラッソ:破天荒コーチが行く』「コメディシリーズ部門作品賞」を含むコメディ部門最多の20ノミネートとなりました。
Apple TV+ を使ってない人は多いと思うんですけど、僕はこの作品にどハマりして全話を一気に見たのでこのドラマの魅力を書いておこうと思います。

■あらすじ

アメフトのコーチだったテッド・ラッソは、イギリスに渡りサッカーの監督に転身する。経験がないため問題が続出するも、テッド・ラッソはチームを立て直すために奮闘する。

https://ja.wikipedia.org/wiki/テッド・ラッソ:破天荒コーチがゆく

あらすじだけ読むとスポーツドラマのように思えるかもしれませんが、実は勝利や栄光を目指す話ではないです。

僕がこのドラマを好きな理由は、毎回笑えるほどのコメディ作品であることはもちろんですが、それ以上にキャラクターを通じて他者に対して誠実でいることの大切さを描いた作品であることに胸を打たれたからです。

誠実さを描く作品といっても、聖人みたいな完璧なキャラクターばかりが出てくるわけではないです。どのキャラクターも不完全さを抱えながら、自身の言動を見つめ返すことで様々な誠実さが提示されているのです。

■『テッド・ラッソ』が示す様々な"誠実さ"

・オープンで優しくいること

主人公のテッドは、誰に対してもオープンで優しく接するキャラクターとして描かれています。しかし彼は、実は元夫が愛したクラブの破滅を企むオーナー・レベッカの裏工作やプレイヤー同士のいざこざ等の悪意や嫌悪に直面していきます。それでも、普通は誠実さに値しないキャラクターに対してもテッドは優しく接することを徹底し、彼らに変化を与えていくのです。

例えばレベッカに対しては、毎朝クッキーを渡して厚かましく接したり、彼女が元夫との関係に打ちひしがれるシーンではサポートしたりします。すると彼女は当初の悪意が罪悪感に変わり、テッドだけではなく部下をはじめとした周囲に対しても、優しく接するように変化するのです。

この作品は前提として、このように他者に対して優しく接することは無意味ではないと示すことを徹底しており、その中で優しく接された側がどのような変化を起こすのかに焦点を当てているのだと感じました。

・自分の言動に責任をもつこと

ただし、人はいつだって他者に対して優しくいられるとは限りません。置かれた状況や他者との関係などによって、他者への言動に余裕がない時があります。ここで僕が大好きなシーズン1エピソード4のシーンを紹介します。

エースのジェイミーは浮気症で、それが原因で傷ついた恋人のキーリーは彼の気を引くためにキャプテンのロイを利用して恥をかかせてしまいます。しかし直後に、キーリーレベッカから「元夫が責任を取らない男」だったと教わり、自身の言動の責任を省みることになります。世代も立場も異なる彼女たちですが、類似した状況下にあるからこその繋がりに感動しました。

その後のシーンは"深読みかもしれません"が、よく見返すほど大好きです。
ロイキーリーから淀みない気持ちの謝罪を受け、そんな純粋な気持ちを感じたからこそ逆にキーリーに対する信頼を感じたと、僕は思いました。

その信頼があるからこそ、ロイの一瞬の目線のシーンですが、キーリージェイミーの悪化した関係性を理解した上で、彼女が別れに本気で向き合えるよう無言でエールを送った目線に思えました。実際にキーリーは自己中心的なジェイミーに責任を取ることの大切さを伝え、別れを決断します。

キーリーの心情の変化やロイと心で理解し合ったことを繊細に描いており、キャラクターたちの誠実さに溢れた素敵なシーンだったと思います。ちなみにその直後、吹っ切れたキーリーレベッカが酒を飲みながら2人の強まった繋がりを示すシーンがあり、温かい気持ちになったエピソードでした。

・思いやり、寄り添うこと

さらにこの作品が素敵だなと思うのは、他者の問題に対してどうしても解決への糸口が見出せなかったり、心の穴を塞ぐことができなかったりする時についても描いていることです。

誰に対してもオープンで優しく接するテッドですが、彼自身もいくつか問題を抱えています。アメリカにいる妻との離婚の危機を迎えたり、過去の出来事が誘発する不安発作を起こしたりするシーンが描かれます。

そんな時でも彼のいちばん近くにいるのが相棒のコーチ・ビアードです。
テッドがたびたび不安に苛まれると、ビアードはただ彼への理解を示して一緒に居たり、ただ一緒に酒を飲んだりするというシーンが描かれます。

ビアードはきっと、思いやりの心を持って彼に寄り添うことを選択し、問題について話したいのか話したくないのかはテッド自身の気持ちを尊重しているのだと思います。問題の解決に役立つことができなくても、自分ができることの精一杯を示す彼の行動が、純粋な優しさとして胸に沁みました。

■まとめ

人に対して優しくすることの大切さを前提として描きながらも、それでも優しくできない時にどう責任を取るのかの大切さを示し、さらに他者に対して自分は何ができるかを考えさせる作品になっていることが、この作品の凄みだと思います。

この作品が、スポーツドラマではなく、このような誠実さに溢れたドラマであることを示す作中のセリフがあります。

"勝敗はどうでもいいんだ。選手たちがプレー以外でも輝くことが重要だ。簡単じゃないが誰にも信じてもらえずに育つのはキツい。"
                         ー テッド・ラッソ

シーズン1 エピソード3『クリム記者の密着取材』

人に対して誠実でいることの先にどのような人間ドラマが待っているのか、それをこのドラマで見て欲しいです。周囲とのコミュニケーションという意味でも、他者と共に働いたりチームで行動したりしているあらゆる人にフィードバックできる作品だと思います。
あと純粋にめちゃくちゃ笑えます。エミー賞で話題になるのも納得です。