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岩壁音楽祭の2020→2022。コロナ禍で積み上げてきた活動を振り返る

9月17日(土)山形県瓜割石庭公園で開催される『岩壁音楽祭 2022』!

岩壁音楽祭は“オープンソースなフェス”としてフェス開催のリアルな内情を公開中。2019年は運営メンバーのコラム形式で発信しておりましたが、今年は今年度から運営スタッフに参加した筆者が、運営メンバーにインタビューする形でも知見を発信していきたいと思います。

学生や会社員が集まり、平均年齢20代の「フェス開催 未経験者」たちによる試行錯誤から始まった『岩壁音楽祭 2019』。その後、コロナ禍によって開催できない期間が続く中でも、『DRIVE IN AMBIENT』『STAY IN AMBENT』といったイベントや、オンライン施策、岩壁デジタルツインの制作(!)などさまざまな形で制作・発信を続けてきました。

初年度開催終了後から『岩壁音楽祭 2022』を立ち上げるまで、運営メンバーはどんなことを考え、アウトプットしてきたのでしょうか?今回は立ち上げメンバーの上田昌輝さん、後藤桂太郎さん、今年のコンセプト設計を担当した“素案チーム”の1メンバーである植竹創さんに話を聞きました。

2ヶ月で企画→実行した『DRIVE IN AMBIENT』


──コロナ禍による「2020」中止後の、大まかな動きを教えてください。

上田 『岩壁音楽祭 2020』のアーティストブッキングを発表した段階で、新型コロナウイルスが流行しはじめ、開催中止を発表しました。岩壁音楽祭は、場所ありきのイベントなので、オンライン配信をやろうという選択肢はなく、やむを得ずの中止でした。

コロナ禍が長引くと感じたぼくらは、ソーシャル・ディスタンスを保ちながらもリアルな場でイベントの実施を模索し始めました。

──その初めてのアウトプットになったのが『DRIVE IN AMBIENT』?

上田 車の中はいわば「移動する部屋」みたいな感じです。車同士隔てられてるからディスタンスもしっかりあって。クラスター発生を抑え、かつ野外でイベントを実施するには一番コスパの良い案でした。

窓を開けてリアルにライブを見ることもできますし、FM電波を飛ばして音をそれぞれの車に配信しているので、車の中に篭ってFMでライブを聞くこともできる、という仕様に。

みんなでその場にいるけど独立している、でも音楽ではゆるやかなつながりをもたせる、ということを意識して企画しました。

─なぜアンビエントをテーマにしたんですか?

上田 開催したのは2020年6月6日。ドライブインのフェスが海外でポツポツ開催され始めたタイミングでした。でも、車の中という身動きが取れない「ハコ」で、ダンスミュージックは合わないんじゃないかと感じて。誰かと一体感を得る音楽ではなく、自分と向き合う音楽があうんじゃないかと。そんなことを話しているうちに、アンビエントでやればムード的にも、身体性的にもマッチしてるのでは?ということで企画したのが『DRIVE IN AMBIENT』です。

後藤 アンビエントにしたことは、自分達の中での納得感もあるし、新規性だと思っていて。自分達が今まで企画したことなかったようなアンビエントという音楽ジャンルに、コロナだからこそアプローチしていけましたし、コロナ禍で右も左もわからない状況の中でも「体験ベースで考えるとこれがベストだよね」っていうところ自分達なりの正解をしっかりと出せたところは、手応えの大きい部分でした。来てくれた人の満足感も高かったみたいです。

──岩壁チームとしては初めての試みだった『DRIVE IN AMBIENT』。開催後の手応えはどうでしたか?

後藤 前段として、「自分達は単なるフェスをやってるんじゃない」という意識は初年度開催後からどんどん大きくなっていて、それが今の岩壁音楽祭のコアにもなっています。たまたま野外音楽フェスティバルだっただけで、やってることは“自分達で未経験の物事にチャレンジして、知見を集めて発信する”こと。フェスかできる年はフェスをして、できない年は別の形のイベントで発信して、できそうでできなかった年は開催を計画してから延期・中止するまでのプロセスを公開しました。形は違えどやっていることは全部一緒で、“チャレンジして、知見を溜めて発信する”っていう。岩壁音楽祭とはどういう団体かを問われた最初の1年2年でしたね。

「ドライブイン形式だったらできるんじゃないか」というところから、実行するまでに約2ヶ月。会社ではないから稟議を通すとかもなくすぐに実行できたということに、フェスという形態に捉われないインディーならでは良い部分が凝縮されてたかなと思います。「すごく早かったね」と周りからもたくさん言ってもらえました。


ホテル宿泊型イベントが生んだ、コロナ禍の生活と地続きの“非日常”


──そうしてコロナ禍でも早々に開催した『DRIVE IN AMBIENT』。その後、2020年後半から2021年にかけての動きとしては?

後藤 岩壁のペースだと年末あたりに「来年どうする?」みたいな話をする機会があって。その時にはもう「『岩壁音楽祭 2021』はコロナ的に無理そうだよね」っていう予兆をみんななんとなく感じていました。ただ『DRIVE IN AMBIENT』をやったことに自分達なりには納得感があったので、「フェスじゃないことで何かできないか」と、岩壁チームのみんなでブレストしました。Zoom内にブレイクアウトルーム(個室)を設けて3人1組になって。そこで色々なアイデアが出る中に、ホテルイベントの案があって。BnA_WALLと繋がりがあったこともあり、実現に向けて現実味が出てきて『STAY IN AMBIENT』の企画が進み始めました。

▲当時の議事録(抜粋)。イベントやフェスの形に捉われないアイデアが多数生まれた。

上田 『DRIVE IN AMBIENT』と『STAY IN AMBIENT』ってやってること自体はそんなに変わらなくて、車の中かホテルの部屋の中かの違いで。ただ、プライベート空間で音楽を楽しむ方が時代に合うんじゃないか、誰かと向き合うより自分と向き合う時間の方が今必要なんじゃないかと思い、この形態で企画を進めていきました。

後藤 フェスやイベント、お祭りって非日常だけど、それってどんな日常を過ごしてたかの裏返しだから、日常と繋がってないといけないよねという結構抽象的な話をしていて。その時の世の中のムードって、いかに今までやってきたイベントを復活させられるか・残せるかみたいな話が多かったのですが、前提となる日常が変わっちゃってるから、フェスやイベントの非日常の方だけ復活させてもすごくチグハグ感があるなと。

イケイケのイベントが復活したとして、当時は行っても楽しめないだろうなという雰囲気を感じてて、「じゃあ今どんな生活してる?最近どう?」という雑談から始まって。そしたら「最近はショートトリップするのが楽しい」とか、「音楽は前よりアンビエントっぽいものを流し聞きするようになった」という声が出てきて、そういう日常から『STAY IN AMBIENT』っていう非日常が生まれたイメージです。県外移動せずに気分を変えるようなアートホテルに滞在して、その中で常にアンビエントの音楽に触れ続けるというような、今の生活と地続きの非日常が最終的に『STAY IN AMBIENT』って企画に落ちていきました。音楽を聴く場所もラウンジに行くもよし、ホテルの室内で楽しむもよし。代案としてのオンラインではなく、「オンラインとオフラインを自分で選べる」ような構成にしていました。

──『DRIVE IN AMBIENT』とは異なるアプローチで開催された『STAY IN AMBIENT』。ここではどんな知見が得られましたか?

植竹 当日は現場に立って案内をやっていました。来場者に話を聞く中で思ったのは、コロナで1年経っても「イベントの形を手探りしてる感」は来場者もみんな感じてるんだなということ。その中で岩壁がアンビエントを打ち出してることに面白さを感じてくれてる人が多かったので、コロナの中で新しいスタイルとイベントの仕方を提唱すれば、フェスじゃない形であってもきちんと届くんだなと思いました。

上田 宿泊とアンビエントの相性の良さも実感しましたし、チケットも即完したから確かな需要は感じました。ただ、個人の体験にフォーカスした、とてもリッチな体験になるので、やはり大きい会場でやらないと採算が取れない、結局スケールしていかないって課題はありましたね。BnA_WALLはもう一回やろうと言ってくれていて、そこがすごくうれしいなと思ってます。

ほぼ測量図面どおりの“岩壁デジタルツイン”


──『STAY IN AMBIENT』を開催したのが2021年4月。そこから2021年の間は何をしてましたか?

後藤 議事録見ると2021年9月6日に半年ぶりくらいの全体会議が開かれてて、「現状認識:2022年はフェスはできないだろう」って書いてある。やるんですけどね(笑)。岩壁音楽祭はまだ一回しかやってないフェスで、定型的なものにこだわらないところが良さではあります。一方で、せっかく2019年に良い形で立ち上げられたから、どんどん企画してアウトプットしていかないと忘れられちゃうかもという焦燥感はあって。

実は『CAMP IN AMBIENT』ってイベントも企画していて。「ドライブ、ホテルときたら、次はキャンプじゃない?」みたいな(笑)。野外でやりたいし、元々『岩壁音楽祭 2020(中止)』では2days開催してキャンプの知見を得ようとしてたから、それにもつながるしすごく良いんじゃないって。結局費用がかかるのと、いいロケーションが見つけられなくて実現できませんでしたが。

上田 あと、瓜割石庭公園をマインクラフトで作りました。岩壁チームは2020、2021にかけてどんどん人が増えていったんですよ。noteを見たり、『DRIVE IN AMBIENT』『STAY IN AMBIENT』から岩壁音楽祭を知って仲間になってくれる人が増えて、その分「生の岩壁」を見たことない・現地に行ったことない人も多くなってきて。現地に下見に行きたいけど、山形に直接行くのはコロナ的に難しく……。

そもそも岩壁音楽祭の始まりって瓜割石庭公園を見て「あれ、ここマインクラフトじゃね?」ってところから始まってるから、「もうマイクラで作っちゃえば良いじゃん!」って。それが2021年の1月ごろです。デジタルツインをつくって、そこであつまって、みんなでロケハンしよう!と(笑)。

後藤 コロナ禍で「クラブマトリョーシカ」っていうマイクラのクラブが話題になったんですよね。それを見て「超楽しそう!」「岩壁は現調行きすぎて手に取るように作れるぜ!」と思って作り始めて。作ってみたら当時新メンバーだった小野くん(岩壁音楽祭のTwitter担当)とかが「こんな感じなんですね」と言っていて「あれ、これってもしかしてバーチャル現調に使える?」って。他の会場候補地も、まだ未完成ですが作ったりしていました。

──再現度がすごいなと思いました。よくあんな実寸通りにできるなと。

後藤 瓜割石庭公園の測量図面があって、エクセルを方眼にして図面に当てはめて、そこからなぞって座標を引きました。1メートルを1ブロックとして、測量図面ベースで超正確に作ってるんですよね、ちゃんとデジタルツインなんです。

▲初公開!瓜割石庭公園の測量図面

上田 現実世界の石工は1日4,000回掘って1メートル角の石を削り出してたのですが、マイクラの石工は、コマンドで50メートル一気に掘削できるので。5人で作って、かかったのは2日くらい。

後藤 マイクラって色々正確で、東から日が昇って西に沈むんですよ。だから方角も再現して作れば夕方の光の入り方がシミュレーションできるし、雨も降らせられるからめちゃめちゃイメージが湧いて。村人を入れておいて、目離すと池に落ちたりとかしてて「ここには柵が必要だね」って。

──岩壁メタバース、面白い(笑)。他にはどんなことをしてましたか?

後藤 山形以外でも岩壁音楽祭を開催したいって話になり、全国の岩壁をディグって全国石切場マップを作ったりしてました。北海道から沖縄まで、Google Earthでロケハンして資料化して。茨城の「石切山脈」ってところには実際に下見に行ったり企画書を作ったりもしました。「石切山脈」はスケールが大きすぎて、全知全能のマイクラでも作りきれなかったけど(笑)。

上田 2020中止後から、GAMPEKI RADIOというオンラインコンテンツも始めました。Kotsu君ら岩壁にゆかりのあるアーティストや、今後出て欲しいアーティストをキュレートして、Soundcloudにmixやライブ音源を公開していくというもの。ermhoiさんはRADIOが先で、岩壁音楽祭自体は今年初めて出演していただきます。今年からまた再開させていこうと動き中です。

オンラインでつながり続けたコミュニティ運営


──2020年から2021年にかけて、運営メンバーもかなり増えたんですね。

上田 初年度終了後が10人で、2年で48人に。初年度から東京と山形にメンバーが分かれてるのもあり、集まれる人は集まってましたが結構日常的にzoomを活用してましたね。

──年齢も職業もバラバラなスタッフ同士、どうやってコミュニケーションを重ねていったのですか?2019年9月に岩壁チームに入った植竹くんはどう見ていただろう。

植竹 運営の中には関連する業界で働いているなど何かしらの技術を持っている人もいれば、僕みたいに桂太郎さんのnoteを見てチームに入ったフェス運営未経験者もいて。コミュニティとしては入りやすかった上で、いち運営としては何をすべきかわからないっていうのはありましたね。ただ、slackやmtgを見ているだけで面白さはありましたし、2021年の終わりに桂太郎さんが岩壁slackを整理してくださり、途中から入ったメンバーがすぐに内情を理解できるように情報を整理した「オンボーディング」を設けることで、ぐっとわかりやすくなりました。

▲新メンバーはSlackに入ると、まずオンボーディングをみる仕組みに。


後藤 植竹くんがいう通り、僕たちはイベント会社じゃないし、イベントが生業じゃない人が入ってきてて。植竹くんも本業で会計コンサルをやっていたりみんなが何かのプロフェッショナルな一方で、イベント作りとしては良い意味で“プロフェッショナルじゃない集団”というか。僕も上田も野外フェスをやったことない素人がフェスを開催してその知見をオープンにしてるから、それを見てイベント運営経験がない人もたくさん入ってきてくれたという感じはありましたね。

植竹 岩壁チームの良さって、「バイブスが共通言語にある」だと思っていて。レコード会社や音響会社で働くプロフェッショナルなメンバーも「仕事だったらやってないけどプライベートだからやりたい。自分達も楽しめるし、流れに乗る面白さ、ここに自分の時間をかけたい楽しさが岩壁にはある」と。バイブスに寄ってきてる感じがありますね。

──素敵なことですね。コロナ禍でコミュニティとしてやっていた取り組みは他にありますか?

上田 個人的に話したりライブに行ったり、面白いイベントの情報交換をしたりはしていましたが、あんまりコミュニティを無理に維持しようとはしてなかったかもしれません。みんな仕事も学校もありますし、それぞれ頑張ろうぜって。半年くらい休憩期間を設けるのがみんな気持ち良かった気がします。

▲2020年5月5日。ZOOMで集まってラジオ的にDJでつないだり。

後藤 個人の活動で言うと、初年度から参加してた運営スタッフの吉田は、当時在籍していた東北芸術工科大学の近くで OYASUMI っていうイベントを始めて。岩壁音楽祭でイベントのスキルを身につけて自分のイベントを開催して、イベントを通して色々な繋がりも増えていって。そういうバトンが繋げたことはよかったですね。


野外音楽フェスとしての開催は3年ぶりですが、その間も様々な知見の蓄積、公開などアプローチを続けてきた岩壁音楽祭。

次の記事では、『岩壁音楽祭 2022』のコンセプト「Spectrum(スペクトラム)」がどう生まれたかを発信します。

『岩壁音楽祭 2019』開催時の知見はnoteで公開しているので、こちらもぜひ見てみてくださいね!

オフィシャルサイト:https://www.gampeki.com/
Twitter:https://twitter.com/GampekiMusicFes
Instagram:https://www.instagram.com/gampekimusicfes/
 
チケット購入はこちらから:https://gampeki.zaiko.io/e/gampeki2022


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