見出し画像

ことば、音と言語②

幼少時代、一度も聴いたことないはずなのに不思議な感覚に包まれる音楽を耳にすることがしばしばあった。

それは、何処か遠くに置いてきてしまってそれが何なのかも忘れてしまったのに細い糸で繋がっているような、「私という人間」は知らないけど「私の内にある何か」が知っているような、…何とも表現し難い感覚だった。

そういう時にさり気なく母に探りを入れてみると、彼女が私を妊娠している時に聴いていた音楽/あるいは兄が練習していたヴァイオリン曲だということが徐々に分かってきた。これは一部の人々の間で持て囃されている(期待されている)ものとは一線を画す、リアルな私の胎内記憶だったのだろうと今になって思う。こういった感覚は成長に伴い失われていったため、片手で数えられるか数えられないかという年頃までのものだったはずだ。

幼い私は奇妙な感覚の正体が分かるようになると、そういう音と出逢うのが少し楽しみになった。もちろん不思議なことには変わりなかったけれど、「漠然とした不思議」が「興味深い不思議」に変わった。

聴覚のための 脳と感覚のメカニズム が誕生前から機能していることは、今では広く知られている。研究者により数字は多少変動するが、胎児は大体妊娠18週目ほどから耳が聞こえ始めるようになり、35週目頃には大人の聴覚レベルに近づくとされている。更に胎児は妊娠最後の10週の間に母親の話を聞くことで言語を学び始め、出生時には母語(≒母親の話す言語)と外国語を区別するようになっていることまで実証されている。これを知った時、ようやく自身の体験へのきちんとした確証が得られたような気がした。

画像1

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?