2022/11/13

年の瀬の足音が近付いてきた。射精に到達するその瞬間というエネルギーの突沸点に向かって、欲望の強度が段階的に疼いていくようで、この時期は変に心が躍る。2022年12月31日という大ピリオドを目指して、時間の密度が徐々に圧縮されていくに伴い、私の生も、心なしか忙しなさを帯びていくようだ。死に向かって走ることを意識すると、日々の足取りも軽くなる。

この時期になると、毎年、播磨屋本店という米菓屋のカタログが自宅に届く。以前、関西地方に住む親戚が、同社の煎餅をお中元として送ってくれたことがきっかけで、私の家にも同社のカタログが季節の折々で届くようになったらしい。実は、このカタログを読むのが、同社の煎餅(「華麗満月」というカレー煎餅が特に美味しい)を頬張る以上に、私の毎年の密かな楽しみであったりする。というのも、同社はただの米菓屋ではない。大体、ただの米菓屋は、代表取締役が"覚者"を自称し、今上天皇に対して人類救済の警告を発する「天皇への決死諫言」なんて自社のカタログに掲載しないし、奥崎謙三も顔負けのド派手なトレーラーを走らせたりしない。そう、繰り返すが、同社はただの米菓屋ではない。

同社のカタログに記載される今上天皇への諫言は、年々深刻さを帯びていくように思われる。少なくとも、今年度版は昨年度よりも深刻だった。"覚者"たる同社の代表取締役は、長年、自社のカタログを通じて今上天皇に共闘依頼のメッセージを発し続けているわけだが、このトーンだと、いつか痺れを切らして皇居まで直訴しに行く可能性も無きにしも非ずのように思われる。私に出来ることは、来年も変わらず同社が美味しいお煎餅を作り続けてくれることを祈るぐらいしかないが、同社の代表取締役が人類平和に向けて今上天皇に送る祈りは、いつか届くのだろうか。

突然だが、ここからは最近Amazonプライムビデオで公開された『仮面ライダーBLACK SUN』の話をする。以下、ネタバレも含むので、未視聴の方は気を付けていただきたい。本作は『仮面ライダーBLACK』のリブート版ではあるが、怪人と人間間に存在する根深い対立を、現代の政治社会と合わせて複層的に描写した作品であり、白石和彌の新たな視点から再構築された『仮面ライダーBLACK』の世界観を楽しむことが出来るものとなっている。岸信介、日本赤軍、安保闘争、統一教会、731部隊、BLM運動といった政治的モチーフが各所に散りばめられているため、白石和彌作品ではお馴染みの激しいバイオレンス描写以上に、こうした政治的モチーフが作中に響き渡っている点を観客としてどう受け止めるのかという点も含めて、本作はR-18というレイティングを受けたものと私は解釈している。超面白かった。

さて、本作では、怪人の力の源泉として「創世王」というスーパー巨大バッタ怪人のようなキャラクターが登場する。怪人といっても、他の怪人とは異なり、創世王本体に意志は存在せず、形骸とその権威が、その時々の超越的な力を有する怪人と同一化することによって連綿と後世に引き継がれるような存在である。それは怪人の力を司る母体の様な存在であり、かつては怪人達から信仰の対象として崇められていたが、現代においては、マジョリティの人間が怪人を兵器として利用するためのエキスを抽出する母体として、ゴルゴン党が与党たる現政権下で徹底的に管理されている。勿論、マイノリティの人間もエキスの抽出源として描写されている点は看過すべきではなかろう。

なぜ創世王の立ち位置がここまで極端に変化したのか。その理由はゴルゴン党にある。ゴルゴン党は、かつて70年代に人間と怪人の共生を掲げた怪人・人間混合の学生政治団体を母体とする組織である。闘争路線をめぐる内ゲバを経て、政権と癒合しながら怪人・人間間の共生を目指す穏和派が勝利した結果、ゴルゴン党は現政権を担うまでの権力を握り、それに伴い創世王の扱いも上記のとおり変化していったのであるが、ここで注目すべきは、ゴルゴン党幹部の怪人達における創世王を巡る立場の揺れ動き、そして創世王自身の意志が端から欠落している点であろう。

ゴルゴン党幹部の怪人達は、政権与党を支える側近として、人身売買ならぬ怪人売買で私腹を肥やす現政権に仕えることで圧倒的な権力を握る一方で、政権運営への参与を通じて、怪人としての自らのルーツたる創世王を、人間の支配下に置かれるという壮絶な屈辱を味わうこととなる。創世王に怪人としての意志が存在しないがゆえに、創世王は、時の支配者次第で如何様にも姿を変えるのであり、翻って考えれば、怪人達は、自らのルーツである創世王に意志が存在しない点にその運命を左右されてきたといえる。もし、創世王が意志を有していたとしたら、意志を有する創世王が、怪人のために世界を人間の手から奪還する方向性もあり得たのであり、政権中枢にいる怪人達が現代において再度内部闘争を繰り広げた原因には、創世王自体のこのような政治的構造が影響しているとも考えられよう。少なくとも、同胞の拷問死に憤怒して仮面ライダーに姿を変えた秋月信彦は、欠落した創世王の意志を代替する可能性を秘めた存在であったと思う。

天皇に覚醒を呼び掛ける"覚者"の声は、はたして今上天皇に伝わるのだろうか。いや、共闘自体、そもそも成立するのだろうか。『仮面ライダーBLACK SUN』によると、"覚者"が取り得る道は、現体制自体を破壊しようが現体制と一体化しようが、体制という形骸自体は何らかの新たな形をもって亡霊のように後世も付き纏うがゆえに、彼もしくは我々は、未来永劫、直接暴力という衝動を胸に、体制と闘い続ける方法しか残されていないらしい。来年度の播磨屋本店のカタログには、一体どんな諫言が書かれているのだろうか。朝日揚げを食べながら、来年度まで待ってみたい。おわり。

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