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日本海西部を南下した組織化した対流雲域とECMWFのGRIB2 (3/3)


対流雲域の移動に沿った鉛直断面図

組織化した対流雲域が、9時から21時に移動した位置にほぼ沿った鉛直断面図を作成しました(図11)。この断面図は、2023年5月23日9時、15時、21時のECMWF初期値の相対渦度をカラーで示し、図中左上に断面図の位置(線分)と500hPa面の等高度線を示しています。また、縦軸の1020hPa付近に、対象の対流雲域の位置を赤丸で示しました。

図11 2023年05月23日 09,15,21時の対流雲域の移動に沿った鉛直断面図1
カラーは相対渦度(正値が赤系、負値は青系)、
等温度線(オレンジ)、等温位線(黒)、等相当温位線(赤)、断面に沿った等風速線(青)
気圧1020hPaの位置にある赤点はその時刻の対流雲域の位置を示す。

9時は対流雲域に対応すると考えられる正渦度は地上から900hPa面において明瞭でした。その北側には背の高い鉛直方向にほぼ垂直にの正渦度域があり、図6
で示した500hPa面の正渦度と対応しています。15時にはこの背の高い正渦度域は、対流雲域に対応する下層中心の正渦度域に接近しています。21時には、850hPa面より高い高度の正渦度域は、それより低い高度の渦度域より先行し、背の高い正渦度域は、500hPa面以下の高度では、南に傾きました。

この状況から、09時から18時前後までは対流雲域付近では850から500hPa面高度付近で正の渦度移流が強まっと考えられ、対流雲が組織化したタイミングと概ね一致します。

図12と図13に、図11のカラーを発散、露点温度差に変えた図を示します。これらの図から収束や湿りは対流雲域との対応はあるとははっきりとは言えない状況でした。対流雲域の位置とこの断面図の位置が微妙にずれている可能性もあると考えて、エマグラムも確認することにしました。

図12 2023年05月23日 09,15,21時の対流雲域の移動に沿った鉛直断面図2
カラーは発散(発散が赤系、収束は青系)、
等温度線(オレンジ)、等温位線(黒)、等相当温位線(赤)、断面に沿った等風速線(青)
気圧1020hPaの位置にある赤点はその時刻の対流雲域の位置を示す。
図13 2023年05月23日 09,15,21時の対流雲域の移動に沿った鉛直断面図3
カラーは露点差、
等温度線(オレンジ)、等温位線(黒)、等相当温位線(赤)、断面に沿った等風速線(青
気圧1020hPaの位置にある赤点はその時刻の対流雲域の位置を示す。

これら鉛直断面図はMetPyを利用して作成しました。このコードの概要については、以前noteの記事を参考にしてください。ECMWF用の鉛直断面図作成のための、jupyter notebookのコードを掲載します。

ECMWFのGRIB2データを扱う際に、気象庁のGRIB2と異なり注意しなければならない点があります。温度や湿度などの要素別の気圧面の並び順は統一性がありませんでした。降順、昇順で並んでいないため、これに注意してコードを作成しています。

対流雲域のエマグラム

2023年05月23日 09,15,21時のECMWFの初期時刻のGPVを利用して、
衛星画像から把握した対象の対流雲に最も近い格子におけるエマグラムを作成してみました(図14)。ECMWFの解析では下層の湿りの程度から、対象の対流雲と位置ずれがあるか、実際の対流雲を十分に表現できていないことがわかりました。

次に、このエマグラムが対流雲の発生・発達の環境場を表現しているかについて検討しました。500hPaより高い高度では徐々に昇温し、地上付近の温度は大きな変化はなく、安定度は次第に良くなってきており、CAPEも9時で一番大きく211J/kgでした。対流雲が組織化することと整合的でありませんでした。

対流雲の組織化の要因を検討するために、このようにモデルのGPVを1格子で検討するには、限界があるようです。

図14 対象の対流雲付近のECMWFの初期時刻のエマグラム
2023年05月23日 09,15,21時のECMWFの初期時刻のGPVを利用して、
対流雲に最も近い格子でのエマグラムと、
下層で最も相当温位が高い高度の気塊を持ち上げた場合の温度を表示。
右上にはホドグラフを示した。
温度(赤実線)、露点温度(緑実線)、持ち上げた気塊の温度(青実線)

このエマグラムもMetPyを利用して作成しています。下に、jupyter notebookのコードを掲載します。高層観測のエマグラム表示の記事や、JRA55のエマグラム表示の記事にコードの概要があるので、これらも参考にしてください。

まとめ

2023年5月23日に日本海西部では、次第に北から高気圧に覆われてくる中、上層の寒冷低気圧の西側に対流雲が発生、組織化しながら南下し、近畿地方に達しました。

この対流雲が組織化した総観場から見た要因としては、ECMWFの全球モデルの初期値解析から、①対流雲の北から接近する500hPaから850hPa面にほぼ垂直の正渦度極大域があって、正渦度移流の場となっていたこと、②対流雲が近畿北部の沿岸部に接近した頃に、西から近づく500hPaの小規模な寒気コアの影響で大気の状態がさらに不安定となったこと、が考えられそうです。

この他に海水温や下層相当温位の状況など他にも要因があるでしょう。

図15に日本海の海水温の分布図を示します。対流雲の位置のエマグラムから600hPaから900hPa面の温度は時間と共に若干低温化している中で、海水温は2度程度高くなることがわかります。南下するほど、下層では大気の状態が不安定になっていたことが想像できます。

図15 2023年5月23日の日別海水温
気象庁作成

今回の事例調査で、はじめてECMWFのGRIB2を扱いました。基本的には気象庁のGRIB2とほとんど同じように扱えました。ただし、上昇流や地上の湿度が要素としてデータがないこと、プログラム上では気圧面の順序が不規則なことに注意が必要なことがわかりました。

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