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昭和39年7月山陰北陸豪雨(2)

前回は、昭和39年7月山陰北陸豪雨の大雨の状況を確認し、地上前線解析から大雨の要因を考察しました。今回は、大気の静的安定度や南北断面図、ジェット気流に関連する上層発散に着目して大雨要因について検討します。

大気の静的安定度

前回の地上前線解析から大雨時に金沢は前線の暖域内、松江では前線の近傍の暖域側でした。不安定性降水による大雨の可能性が考えられるため、大気の状態が不安定であったかを確認します。JRA-55を利用して、300hPa面の飽和相当温位と、850hPaより下の高度で最も高い相当温位との差を求めます。この差が小さい程、大気の状態は不安定で、0度より小さい場合は、平衡高度は300hPaより高度が高いと考えられます。この値の分布に、300hPa面の等温度線(赤の細破線)・地上の低気圧(丸印)・地上前線(赤の太破線)を重ねた図を下に示します。この図は17日21時(日本時間)から19日09時までの6時間毎の図を3秒毎のアニメーションにしています。

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 大気の安定度を示す天気図
1964年7月17日21時から19日09時までの6時間毎
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この図から、金沢付近は17日21時から18日9時の期間の安定度を示す値は3から0度と安定度が低下していました。松江付近は17日21時にはこの値は0度以下で19日3時頃まで3度以下が継続しています。この安定度が低下した期間と大雨の期間を比較すると、金沢では大雨の期間と安定度が低下した期間は概ね一致していましたが、松江では大雨の期間の前後でも安定度が低下しています。

また、松江や金沢付近の安定度の低下は、300hPa面の等温度線からは寒気の影響とは考えにくく、主に下層の暖かく湿った空気が要因と考えられそうです。

南北鉛直断面図

金沢や松江付近における、それぞれ地点で大雨が降り始めた頃の相当温位や風、収束発散の南北鉛直断面図から大雨要因を考察します。この断面図は、東経136.5度か133.0度で、北緯は30度から45度の範囲の等温位線(黒線)、等相当温位線(赤線)、等風速線(青線)、収束発散(シェード:赤系の色が発散、青系の色は収束)を示しています

下図は、金沢付近で大雨が降り始めた18日3時の南北断面図です。緑点線は金沢の緯度を示しています。この緯度の下層では、およそ348Kの高相当温位の暖かく湿った空気が西南西35ktの風で流れ込み、336K未満の相対的に低い相当温位の空気が600から700hPa面にあって、対流不安定となっていることがわかります。また、下層は風向の変化から暖気移流となっており、収束が明瞭です。500から400hPa面の高度では発散が明瞭で、上昇流が強まっている可能性を示唆しています。

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1964年7月18日3時の南北鉛直断面図(JRA-55利用)
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下の図は、松江付近で大雨が降り始めた頃の18日9時の南北断面図です。緑点線は松江の緯度を示しています。この緯度の下層では、およそ351Kの高相当温位の暖かく湿った空気が西南西20から30ktの風で流れ込み、およそ336Kの相対的に低い相当温位の空気が600から700hPa面にあって、対流不安定となっていることがわかります。また、下層は収束が、350から250hPa面の高度では発散が明瞭で、上昇流が強まっている可能性を示唆しています。

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1964年7月18日9時の南北鉛直断面図(JRA-55利用)
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金沢では500hPa面付近の、松江では300hPa面付近の発散が対流雲を強めた可能性がありそうです。上層発散による対流雲の強化を考察するために、300hPa面の天気図を解析することにしましょう。

300hPa面の上層発散

ジェット気流に伴う上層発散が、積乱雲の発達に寄与することはよく知られています。そこで、300hPa面の上層発散と地上の低気圧と前線を重ねた天気図を作成して考察します。下の図は、17日21時(日本時間)から19日09時までの6時間毎の図で3秒毎のアニメーションにしています。300hPa面の等高度線(黒実線)・等風速線(40kt以上,青線)・非地衡風成分の風(矢印)・収束発散(シェード:赤は発散、青は収束)、地上の低気圧(丸印)・地上前線(破線)を示しています

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300hPa面の天気図
1964年7月17日21日から19日09時までの6時間毎のアニメーション
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金沢付近では18日3時は収束発散は弱いですが、18日9時に強い発散場となっています。この強い発散の要因は、低気圧Aがちょうど北陸地方の北を東進している中で、低気圧Aのほぼ直上で300hPa面のジェット気流(風速およそ80kt)が解析でき風速が強まるタイミングで、これと共に生じる非地衡風成分による発散と考えました。ジェット気流が強まる際、非地衡風が高い高度側から低い高度側へ向き、それにより生じるコリオリ力とジェット気流の加速がバランスするパターンと想定し、18日09時の非地衡風は北西へ向き、ジェット気流の流れは西南西となっていて、このバランスと矛盾しません。

松江付近では、18日09時に金沢付近と同じ上層発散域内にあります。15時から21時も発散が続いていますが、この期間の発散の要因は09時の状況とは異なります。ジェット気流の位置が09時から15時に北にシフトし、15時はそのジェット気流加速域の南側では西北西から東南東にのびる明瞭な発散域(日本海の概ね北緯38度線に沿った)があり、前述のバランスのパターンとは異なる状況となっています。18日15時から21時は300hPa面のトラフが渤海付近を南東に進み、その前面ではジェット気流が加速し、この加速域と共に生じる明瞭な上層発散域が朝鮮半島付近から日本海西部へ移動し、この発散域は中国地方へにも拡がっています。また、このジェット気流は低気圧Bの北側に位置し、この低気圧に連なる前線と関連していると推測しています。

次回は、500hPa面天気図やQベクトルの天気図について考察して、大雨要因をまとめる予定です。

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