見出し画像

昭和39年7月山陰北陸豪雨(3)

850hPa面のQベクトルの収束・発散

総観規模擾乱による上昇気流の励起を確認するために、850hPa面のQベクトルの収束の天気図を作成しました(下図)。赤のシェードがQベクトルの収束域で上昇流が励起されるエリアと推定できます。

850hPa面Qベクトル天気図
17日9時から19日3時にかけて6時間毎のループ
矢印:Qベクトル シェード:Qベクトルの収束・発散
実線:等高度線(gpm) 点線:気温(Celsius)

図の実線は等高度線を示しています。850hPa面の低気圧(地上の低気圧Aと対応)が北緯43度付近の大陸から日本海北部を東進し、北日本を通過しています。17日9時から18日3時にかけて、この低気圧の南側にはQベクトルの収束域があって、北陸地方へ接近しています(一番上の図を参照)。18日9時では不明瞭になっていますが、18日3時から9時の間、このQベクトルの収束域が北陸地方を通過している状況です。金沢市で大雨となった時間帯と概ね一致しています。

一方、松江市の周辺は17日9時から18日15時にかけて、このQベクトルの収束も発散も強くはありませんでした。松江市の最初の大雨期間(18日10時から19時)では、総観規模擾乱による上昇流励起の効果はなかった可能性があります。ただし、18日21時は低気圧Bと対応する850hPa面の低気圧が朝鮮半島東岸で明瞭となり、その前面のQベクトルの収束域が山陰にかかっています。松江市で2度目の大雨のピークは、低気圧Bに関連するQベクトルの収束の時間と概ね対応しています。

台風第7号がもたらした下層の暖かく湿った空気

台風第7号に伴う暖かく湿った空気が日本付近にどのように流れ込んでいるか推定するために、850hPa面の相当温位の天気図を作成しました(下図)。

850hPa 相応温位と風の天気図
16日9時から19日3時までの6時間毎の動画
シェード:相当温位 矢羽:風

16日に東シナ海を北東に進んでいる、高相当温位域(351K以上)が台風第7号(衰弱して熱帯低気圧に変わり消滅)に対応しています。17日3時から9時頃に九州を進んでいて、その後はほぼ東進し、18日3時には東海道沖に達しています。北陸付近では、台風第7号起源の暖かく湿った空気に対応する相当温位のピークは18日3時頃となっています。その後、別の暖かく湿った空気が大陸や東シナ海方面から流れ込んでいます。金沢の大雨は、初めは台風第7号起源の暖かく湿った空気の影響を受けていたと推定できます。一方、広島の大雨は開始時刻が18日10時のため、台風第7号起源の暖かく湿った空気の影響は小さかったと推測します。

最後に、前半で示した3つの課題について、これまでのJRA-55を利用した調査から推測します。

課題① 金沢市と松江市の大雨の主な要因

金沢市と松江市の大雨の要因は、前線を伴う2つの低気圧があって、低気圧や前線に向かって太平洋高気圧の縁辺(金沢市では台風第7号起源も)や、大陸方面からの非常に暖かく湿った空気が流れ込み、これによる前線活動の活発化と推測できます。下層では相当温位およそ348から351Kと暖かく湿っていて、大気の状態も不安定となっていました。これに、ジット気流に伴う上層の発散場の影響で対流雲が発達しやすい環境も重なり、対流雲が組織化していた可能性もあります。

金沢市では大雨となっている期間(18日1時から11時)、低気圧Aの前線の暖域内に位置し、大雨の要因として低気圧Bの影響はなかったと考えられます。

松江市では大雨となっていた期間(18日10時から19時)は、低気圧AとBの間にある前線がすぐ北側に停滞し、低気圧Bが接近している状況でした。大雨の要因としては低気圧の影響はあるものの、主として前線停滞による影響が大きかったのではと思っています。この大雨期間の後も大気の状態が不安定となっていて、雨が弱まった要因は総観場からは推測できませんでした。メソスケールの現象が絡んでいるように思います。この現象に伴う非降水域により、雨が弱まった可能性も否定できないでしょう。

課題② 松江市の2回目の雨のピークの要因

19日0時頃に松江市で大雨の2度目のピークが観測されています。その頃に低気圧Bが松江市のすぐ北の海上を通過したと推測できます。継続して大気の状態が不安定となっている中で、この擾乱に伴う上昇流励起により、2回目の大雨のピークがあったのでしょう。

課題③ 台風第7号起源の湿った暖かい空気が大雨要因の一つとなったか?

18日以降の大雨について、北陸地方周辺では最初は一時的に台風第7号起源の非常に湿った暖かい空気が流れ込んでいた可能性が高そうです。少なくとも金沢市の大雨要因の一つとなっていたと思われます。

以上で、昭和39年7月山陰北陸豪雨の大雨要因の考察は終わりです。今後も、JRA-55の期間に記録的な大雨となった事例を調査していきたいと思っています。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?