[小説]月が綺麗ですよ

ようやく仕事を終えて、窓を開ける。
草むらの湿った匂いを吸い込みながら、大きく伸びをする。

明るい夜だな。そう思って空を見上げると、月がとても綺麗だった。
それで、ユウに伝えたくなった。

コール音を数えながら、深夜だし迷惑だなと気づく。
切ろうとした瞬間

「もしもし?カオリさん?」
戸惑っている声に、ちょっと緩んだ。

「はい、カオリです。操作ミスじゃないですよ。」
先日、操作ミスでわたしに電話をかけてきたユウが吹き出したので
二人でしばらく笑い合った。

「今夜は月が綺麗ですよ。」
わたしがそう言うと、ユウは言った。
「え?そうなんですか?見てませんでした。」

わたしは
「それだけです。」
と言って、電話を切った。

とても満足した。
今夜は月が綺麗だと、ユウに伝えることができた。

いい夜だなぁ。。
さて、ちょっと飲もうかな。

ひとりでゆっくり、グラスを傾ける。
うん、いい夜だ。

30分ほどたったころ、インターフォンが鳴った。

せっかくのいい夜なのに、、
そう思いながらモニターを覗くと、そこにはユウが立っていた。

急いでドアを開けた。
「え?どうしたの?」

ユウは言った。
「月はずっと綺麗でしたよ。」

まっすぐ、わたしを見る目がはにかんでいた。

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