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「武漢肺炎」というワードは、なぜまずいのか(RKBラジオ)

RKBラジオ『櫻井浩二 インサイト
(2020年12月23日放送)

午前8時41分~50分の【インサイト・コラム】のコーナーを、文字に起こしてみました。MCは櫻井浩二、田中みずきです。

(写真は、ドキュメンタリー番組『イントレランスの時代』の1シーン)
1月5日までYouTubeで無料公開中

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櫻井浩二:火曜日は、RKB報道局・神戸金史(かんべ・かねぶみ)の「勘弁ならねえ」です。今日は、ヘイトスピーチのお話の続きなんですか?
神戸:最初にちょっと、「勘弁ならねえ」じゃなくて、お詫びしなきゃいけないんですよ。
櫻井:はい?
神戸先週のこのコーナー(12月15日放送)で、日本第一党が、福岡市天神のイムズ横で「日曜日の午後3時から街頭宣伝をやっています」「よろしかったら、聴いてみたらどうですか」というお話をしたんですが、前の日の土曜日になって、日本第一党の福岡県本部がツイッターで、日曜日は「コロナウイルス」が感染拡大しているために中止します、とツイートが……。
 もし放送を聴いて、天神に行った方がいらっしゃったら本当に申し訳ないと思って。第一党に代って、ちょっとお詫びしなきゃいけないかな、と。
田中みずき:勘弁してください(笑)
櫻井:ご勘弁ください(笑)

神戸:その第一党のツイートなんですけど、今私は「コロナウイルスが感染拡大しているために」と言ったんですけど、原文では「武漢肺炎」という書き方をしていました。
田中:あら。
神戸:「武漢肺炎」という風に、地域名で呼ばれる方っていらっしゃるんですよね。私のFacebookの友達でも、そういう言葉を繰り返していたので、ちょっとどうかなと思って……
田中:トランプさんも言ってましたね。
神戸: 「止めた方がいいんじゃないですか?」って言ったんです。何でかと言うと、2012年から始まった「MERS」、中東呼吸器症候群という病名……。
櫻井:ありましたね。
神戸:これ、中東地域に対する差別や経済的な悪影響をもたらしてしまったということから、WHO(世界保健機関)がすでに今年3月の段階で、今回のコロナウイルスでも「地名で呼ばないようにしましょう、特定の地域・地名・その出身者などを関連づけないでほしい」という呼びかけをしています。多分これは、みんな「そうだな」と思うでしょう?
 ウイルスはどこで起きてもおかしくありません。日本で起きるかもしれませんし。それを地名とか個人名とかで言われてもね。「櫻井ウイルス」と言われても嫌じゃないですか。
櫻井:そりゃそうですよ。
神戸:「嫌だな」と思う感覚……いじめとかにつながるじゃないですか。「地名は避けた方がいいよ」というのはある意味、常識にしていかないといけないのじゃないかな、と思っています。
櫻井:でも、WHOが出した「COVID-19」は、あまり定着しなかったですね? 結局、「新型コロナ」で(笑)
神戸:ただですね、いつまでも「新型コロナ」という言い方はできない……
田中:もう、だって、変異種が……
神戸:ちなみに、「COVID」というのは、「COVI」が「コロナウイルス」の略。Dが「疾患」「病気」、19が「2019年」です。この名前は、残ると思います。「新型コロナ」という言い方は消えていく。また新しいのができたら……。
 福岡市在住の内科医さんで、酒井さんという方がいらっしゃいます。コラムを書いておられて、内容が非常によかったんです。今回のコロナ感染症で、名称が固有名詞に固定化してしまうと、「被害者である発症地域の人々にいわれなき汚名をあびせ、こうした状況が長く続いてしまうことになりかねない」。
櫻井:うん!
神戸:どこで感染症が出るかは、わからない。人名や職業名も当然使えない。

「なぜ病気の名前に地名を使っていけないのか」という経緯を知った上で意図的に「武漢肺炎」などと呼んでいたとしたら、これは差別に他なりません。もし、経緯を知らずに呼んでいたのなら、これから気を付けていただければうれしいです。

(全文はこちらに)
 ↓  ↓
新型コロナ、病名の背景に「地名はダメ」のルールと事情
酒井健司
朝日新聞デジタル  2020年3月9日

神戸:非常に冷静で、「いいコラムだな」と私は思ったんですね。
 日本第一党の方は、「武漢肺炎」とよく言っているんです。かなり強く。私が東京で取材した当時も、桜井さんはずっと「武漢、武漢」と連呼していました。なんでそうなっちゃうのか。先週お伝えした音声があるので、もう一度聴いていただきたいんですけど。

マイクを握る男性1
 「大手の新聞社、それからテレビ局、こういう大きなメディア、ほとんど左翼と言われる人たちが支配をしている。以前からそうなんでしょうけれども、そしてその背後には、支那中共がいるんですよ。
 アメリカだけじゃない。日本にも支那中共のスパイが紛れ込んでおります。その一番、福岡にもたくさんいますよ。中共のスパイ。どこにいるか? 九州大学ですよ。九州大学に来ている留学生。中共からの留学生を見たら、まず中共のスパイであると思って間違いありません」
(=12月6日午後、福岡市天神で。神戸が撮影した、日本第一党の街頭演説の映像から)

神戸:えー、大変お聞き苦しい音を流してしまって、また申し訳ないんですが。
櫻井:改めて……偏見に満ちあふれたコメントですね。
田中:ほんと……。
神戸:今月私が取材した時に、日本第一党の方が天神のイムズ横で話していた音声ですね。九州大学の留学生は「まず中国共産党ののスパイである」という風に断定をしておられます。先週、九州大学は「学生の安全を守るために、こうした発言について毅然と抗議した方がいい」と申し上げました。こういう文脈の中で、「武漢肺炎」という言葉を使っていたら、これは明らかに差別的に使っていると思っていいと思うんですよね。
 「武漢肺炎」という言葉を「止めなさい」っていうのも大事なですけど、それよりも問題は文脈だし、発している人の気持ちなんじゃないかな。この文脈で「武漢肺炎」「武漢ウイルス」という言葉を連呼していたとしたら、そこには明らかに、中国への差別感情があると思うんです。これこそ、ヘイトスピーチ解消法が最も問題にしている、日本国外からの出身者に対する差別、そして差別をあおる行為だと思います。
 この言葉について、敏感になった方がいいと思うんですよね。
 先ほど申し上げた、私の知り合いの方がFacebookに書いていて、「WHOがこういう風に言っていますよ」とコメントしたんですね。多分、読んでないんでしょうけど、「中国に対してちゃんと毅然とした態度を取らなきゃいけない」っていうような趣旨の返事があったんです。「ちょっと、知識が足りないんじゃないでしょうか」と書いたら、ブロックされてしまいました。
櫻井:あら!
神戸:この方、福岡ではけっこう有名な方なんですよ。テレビにも出てらっしゃる方で。尖閣諸島への侵入侵犯がおかしいと思うのは、当たり前だと思うんですよ。余計な紛争を起こそうとしたり、領土拡張欲があったり。ナショナリズムを(中国に)刺激されるような。それは私たちにもある。
 だけど、中国そこに住んでいる人全部がそうですか? 組織、国の体制、そういったものに対して、僕らは毅然と言わなきゃいけない。香港だって、大変なことになっているじゃないですか。中国共産党に対して強く、民主主義を守る立場から、言わなきゃいけない。
 だけど中国から来ている人、一人ひとりがスパイだとか、全体像にかぶせて言ってしまうのは、非常にまずい訳です。
櫻井:そうですよ。ひとくくりに。
神戸:そう、「ひとくくり」がキーワードですね。私の知り合いの方にも、「武漢肺炎」と言うのを止めてもらいたいなあ、と。それ自体が、煽っていることになりかねない。差別や憎悪の気持ちを広げていく側に立ってはいけないと思うんです。特に、発信力のある、表に出る方は。
 私もちょっと失礼だったですけど。「知識が足りないんじゃないですか」と書いちゃったんで。でも、(WHOのリリースを)読んでほしかったんですね。あっという間にブロックで……ちょっと悲しい思いをしたんです。
そういうことを言いたい人たちは、あまり差別の意識はないのかもしれません。
櫻井:どうなんですかね? あると思いますけどね。さっきの話を聞いている限りは。それこそ、さっきの「文脈」ですよ。聞いている限り、あるような気がしますね。
神戸:日本第一党の方々が意図的に使っているのは、先ほどの音を聞いていただいても明らかだと思います。そういった方々と一緒にされてしまう可能性のある言葉ですから、ちょっと発言に注意して、「WHOもそう言っているのか」と気を付けた方がいいと思いますね。
 ネット上では、日本脳炎てあるじゃないですか。「スペイン風邪はどうするんだ」とか、書いてらっしゃる方もよくいるんです。日本で発症例が見つかったから日本脳炎と名付けられています。これ、150年近く前の話です。明治の初めなんですね。スペイン風邪は1918年、これも100年。そのころは、発症した人がいる地の名前で言うのが普通だったんでしょう。「100年前と同じ人権感覚ですか?」ってことですよね。そして今、日本脳炎と言って日本を差別するために使う人はいないと思います。
井:確かに。
神戸:だから、文脈かな。言葉を使っている人がいたら、「なるべく止めた方がいいんじゃないですか」と一言言った方がいいかなと思っています。
櫻井:我々アナウンサーもそうなんですよね。差別用語ってよく言うんですけど、ほんと僕もそう思いますよ、文脈だと思いますよ。どこでどういう風に使うかで、差別言葉にもなるし、正しく使う言葉にもなるし。変わるんですよね。
神戸:そうですよね。
櫻井:神戸金史の「勘弁ならねえ」。インサイトコラムでした。
(了)


※番組前半の【インサイト・アラカルト】
 「福岡でも『ヘイトスピーチ規制条例』の準備を」
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