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大嫌いだったはずなのに

昔、私は中村梅雀が大がつくほど、本当に大嫌いだった。

人を見た目で判断してはいけないが、見た目エロそうで、だらしなさそうな太り方、髪の毛のセットの仕方、トーク番組ですごく年下の奥さんと出演し、お互いデレデレしていて、私は「なんなんだこいつは!なんてハレンチな男なんだ!あのしまりのなさ!耐えられない!」と、母の前で1人憤慨していた。しかし、母は「面白いじゃない。いい人だよ。」と話していた。

私はもう生理的に受け付けなくて、中村梅雀がテレビに出るたび、チャンネルをすぐ他局に変えていた。私は、病気の都合と元々の性格でニュース以外、子供の頃からあまりテレビを見てこなかった。だが、いざテレビを見出すと、なかなかの確率で中村梅雀に行き当たるのである。私はその度に頭の中で「梅雀!アウトー!」と思っていた。

そして時が経ち、その日はたまたま本当に見る番組がなく、仕方なしに中村梅雀のドラマを見ていた。いや、見てやるよ感であった。

BSの昼の再放送ドラマは、内容が果てしなくどこまでいってもくだらないものが、結構ある。

だが、その日はドラマの内容が良かったのもあったのか、中村梅雀をじーっと見ていた。で、気づけば見入ってしまっていた。なぜなら、すごく演技が自然で、しかも味があるし、見た目は凝った衣装でもない、私の中のあの中村梅雀が、とっても映えているではないか。そして私はその実力とあのつぶらな瞳に、一気にフォーリンラブしてしまった。

見れば見るほど、セリフを一字一句聞き逃さずにすればするほど、噛んでも噛んでも味が続くするめのようだ!

走る梅雀、感情を爆発させたり抑えたりする梅雀、笑う梅雀、ほろりとする梅雀、なんにせよ何もかもがすごいの域を超越しているのだ。

「こいつは只者ではないな!!」と思い、帰宅した母に中村梅雀のことを根掘り葉掘り聞き、そしてネットで調べた。

中村梅雀の父も母も祖父もすごい方で、芸能一家なことを知った。

中村梅雀は幼い頃から、俳優や音楽を肌で感じ育った人なのだとも知った。

でも、それだけじゃない、なみならぬ努力もしただろう。ベーシストという立ち位置がそのことを告げている。

ベースは物凄く奥の深い楽器であるからだ。

今の職業を肌で感じてきた、努力もした、しかし、やはり彼には相当に人より秀でているものがある。それは感と洞察力だと思う。

中村梅雀が演じる時代劇なんて、最高で見終わった後、私はいつもスタンディングオベーションである。

今は中村梅雀の大ファンで彼が出でくると、私の心も踊り狂うのである。

あの、少ししか無くなってしまったフワフワとした髪、そして下がった眉毛、小さなお目々と小さい唇にまん丸顔、エビス様のような耳、丸々状態の残った2頭身、高めの声、笑った時桃色になるほっぺた、もう何もかもが可愛いし愛らしく見え、愛おしくもなるのである。

今となっては、奥さんが羨ましい限りだ。
毎日、一緒にいられるんだから。
この時ばかりは、結婚というものがいいなと思える。

新聞のテレビ欄に中村梅雀と書いてあるのを見つけると、その日1日その時間まで楽しみで仕方なく、見ている時は幸せの絶頂である。そして、見終わると今度はいつ会えるのかもう心待ちにしている、私なのだ。

中村梅雀のファンクラブがあったら、間違いなく私は即入会するだろう。私は本気だ。

もし、玄関をあけて、真っ赤な薔薇の花束を抱えた中村梅雀がそこに立っていたら、私は嬉しくて気絶するかもしれない。

とにかく大嫌いが大好きになるということを、中村梅雀はやってのけたのである。私みたいな鉄の仮面や鉄の心を持つ者を、中村梅雀は心剣(ある意味、真剣)を使い、バッサリと削ぎ落としたのである。

私のように鉄仮面、鉄の甲冑を着けている全国の者たちよ。
侮れないことは、意外と近くにあるものだ。
それは、もしかして大嫌いなものかもしれないぞよ。

ちなみに私は中村梅雀の「弁護士・森江春策の事件」が好きである。

I Love 梅雀♡
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