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これからの行政組織について考えてみる

こんにちは。
noteはじめてみました。

ここでは、日々の仕事や生活の中で、あれこれ考えては脳内で雲散霧消していく事柄を、アウトプットの習慣付けを兼ねて執筆していく予定です。

本日は、これからの行政組織のあり姿について、既存の組織制度や定数制度による制約を一旦度外視して、あるべき論から考えてみたいと思います。

そんなこと言って現場のこと知らないんじゃないの!?というご意見もあるかもしれませんが、一応地方行政の現場にいた立場も踏まえて執筆しておりますので、よろしければ頭の体操がてら読んでいただけると幸いです。

行政の組織構成

まずは手始めに、日本の行政組織の構造について振り返ってみましょう。
多くの日本の法人や組織体は、従来から階層型組織となっています。

行政組織もこの階層型組織を採用しており、首長をトップに局長、部長、課長、室長、係長、一般職員…のように、役職に応じた決裁権が与えられ、基本的に上位職の指揮命令に従って下位職が働く仕組みとなっています。

行政機関を例に、「階層型組織のイメージ」及び「階層型組織のメリット・デメリット」をまとめると、下記のとおりとなります。

行政組織

図1: 階層型組織のイメージとメリデメ(筆者作成)

階層型組織の最も大きな特徴は、指揮命令系統が単一でトップダウン型であるという点です。
この特徴に起因するメリットとして、責任と権限の所在が明らかになることや、職員の役割が専門化され効率性を追求しやすいこと等が挙げられます。

一方で、組織が大きくなればなるほど意思決定に時間がかかる現場の能動的な考えや行動を抑制するため指示待ち人間が多くなるセクショナリズムが起きやすいといったデメリットもあります。
よく言われる「縦割り行政」という言葉については、まさにこの組織構造に大きな要因があるわけです。

しかし、この階層型組織は、とある時代の組織や社会の発展に大きな貢献を果たしてきました。

そう、高度経済成長期です。

大量生産と大量消費の時代、つまり「作れば売れる」時代においては、現場の生産効率性が何よりも重要でした。
顧客(住民)のニーズを深く考える必要はありません。
0から1のアイディアを生み出す必要はなく、前例踏襲でひたすら効率だけを追求していればよかったのです。

一方で、大きな変革は少なくて済んだことから、意思決定スピードに時間がかかる点は、さほど大きな問題にはなりませんでした
このことは企業活動のみならず、行政活動にも同じことが言えるでしょう。

しかし近年、世の中の急速な変化に伴い、階層型組織には時代にそぐわない部分が目立つようになりました
VUCA*」と呼ばれる不確実性が高まる時代において、常に意思決定を迫られる状況に階層型組織が対応しきれなくなってきているのです。
VUCA時代においては、新たな価値観やデジタル技術が日進月歩で生まれ、顧客(住民)のニーズが多様化する中で、官民問わずに0から1を、つまり新しい価値を生み出すことが求められることとなりました。

*VUCA…「Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)」の頭文字から成る造語

そこで近年、新たに注目されるようになったのがネットワーク型組織です。

行政組織2

図2: ネットワーク型組織のイメージとメリデメ(筆者作成)

ネットワーク型組織では、メンバー間は階層関係でなくプロジェクトチームのようなフラットな関係性で結ばれます。

そのためメンバー間の活発な議論や意見交換が生まれやすくネットワーク間での情報共有の促進も図られやすいため、セクショナリズムの弊害を受けずにスピード感のある意思決定が可能となります。
その結果として、市場や環境の変化に追随しやすいという恩恵があります。

一方で、デメリットとしては責任と権限の所在が曖昧になりやすい効率が悪く定型業務に向いていない構成員の統率がとりづらいことがあります。
そのため、一般的に大きすぎる組織には向いていないと言われています。

階層型組織とネットワーク型組織

ここまで読んでいただいた方々にはおわかりのとおり、階層型組織とネットワーク型組織にはそれぞれ利点もあれば欠点もあります
従来は階層型組織でやってきたけど、時代に合っていないからネットワーク型組織に変えよう!という単純な話ではないわけです。

それでは、これからの行政組織はどうあるべきなのでしょうか?
私は、所掌事務によって組織構造をアメーバ的に変えていくことが最適解ではないかと考えています。

ここで大きな障害となってくるのが既存の組織・定数制度なのですが、この点についてはあるべき論から考えてみるという今回のテーマ上、あえて度外視して考えてみましょう。

まず、大前提として、現行の行政においても大きな比率を占める定型業務(窓口手続、許認可、法制、人事、予算、etc...)については、これまで通り階層型組織が向いていると考えられます。
こうした業務に求められるのは、フラットな議論ではなく、明確な責任・権限の所在効率性、そして規範とルールだからです。

一方で、近年ますます複雑化する行政ニーズの中で、ネットワーク型組織が適している業務も増えてきました
その最たるものが時限付きの大型プロジェクトです。
その一例として、私の出身自治体である愛知県のジブリパークプロジェクトを紹介したいと思います。

県営公園にジブリの世界観を再現したテーマパークを作る本プロジェクトでは、非常に広範な分野の知見意思決定スピードが求められます。
県営公園の工事に関する技術的な知見、版権や法令に関する知見、指定管理に関する知見、開業までのプロモーションや周辺観光に関する知見など、
求められる知見は多岐に渡ります

また、開業まで時間が切迫する中、非常に迅速な意思決定が必要です。
一方で、上記人員が永続的に張り付く必要はなく、フルメンバーを揃えるのはあくまで時限的でよいわけです。こうした業務には、ネットワーク型組織の方が適合性が高いと言えます。

(余談ですが、ジブリパーク担当所属には、期せずして各分野に精通したオールスターメンバーが集結しつつあり、実質的にネットワーク型組織の様相を呈してきている印象を受けています)

以上により、行政の根幹を担う定型業務は従来の階層型組織により運営しながら、他分野の知見とスピードが求められるプロジェクトにおいてはネットワーク型組織を組み合わせていくというベストミックスが、これからの行政運営において求められるのではないかと考えています。

行政組織論

図3:あるべき行政組織論の仮説(筆者作成)

ちなみに、こうした階層型組織にネットワーク型組織を組み合わせるという取り組みは、トヨタや花王などの先駆者的企業においては既に導入されています

参考URL:脱フラット型経営! トヨタの最強組織づくり

変化を余儀なくされているのは等しく全てのプレイヤーというわけです。
行政だけ例外になることはありえないと考える方が自然です。

公務員の専門性

さて、階層型組織で働いている人が、仮にプロジェクト単位でネットワーク型組織に所属することになった際に求められるものはなんでしょうか。

そう、専門性です。

ネットワーク型組織のメリットを活かすには、異なるバックグラウンドや知見を持ったメンバー間の活発な議論を通じた付加価値の創出が不可欠となり、そこで大いに力を発揮する武器が専門性です。

ここで「ん?」と思いませんか?「公務員に専門性だって」?

「公務員は専門性が身につかない」という言説をよく耳にします。
そして私の知る限り、これは意外と公務員から語られることが多い言説のように思います。

ですが、こうした言説は果たして本当にそうなのでしょうか
ここで語られる専門性とは、はたして何でしょうか

ここで少し事例をお話しします。
私は現在公務員を離れて大手総合系コンサルティングファームにて勤務しておりますが、コンサルティングファームでは基本的に、プロジェクトごとに求められるスキルを持った人員を集めたネットワーク型組織を組成して活動します。

ただ、私が所属しているファームではチーム制を採用しており、私は観光チームに所属しています。観光チームに所属しながら、数ヶ月ごとに異なるプロジェクト(異なるネットワーク型組織)へアサインされるわけです。

顧客から高額なフィーをいただく以上、プロジェクトには当然異なる分野に関する深い知見を持ったプロフェッショナルたちが集うわけですが、彼らが持つ専門性には2つの種類があります
それが、インダストリー軸サービス軸です。

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図4:インダストリー軸とサービス軸(出所:アビームコンサルティングHP)

インダストリー軸とは、いわゆる業界に関する専門性です。製造、化学、消費財、金融、商社、インフラ、公共など、何かしらの業界に精通した人がこのラインに属します。
筆者もこのインダストリー軸のチームに所属しており、手前味噌で恐縮ながら、筆者は社内において観光業界の専門家ということになっています。

一方でサービス軸とは、いわゆる組織機能に関する専門性です。経営戦略、財務会計、組織人事、SCM、CRM、ITマネジメント、DX、新規ビジネス立案など、何かしらの機能別ソリューションに精通した人がこのラインに属しています。

余談ですが、筆者が2021年度下半期に参画した大手運輸機関向けの観光関連新規ビジネス創出&マーケプラン立案のプロジェクトでは、インダストリー軸から私が参画するとともに、サービス軸からは数々の企業でマーケティングをリードしてきた新規ビジネス領域のマネージャーが参画していました。
異なる2つの切り口の専門性のミックスにより、プロジェクトの質が高まるわけです。

ここで気付く点は、公務員によく語られる専門性はインダストリー軸のものばかりであるという点です。
定期的な人事異動が避けられない公務員において、特定業界に精通するのは難しい面があるのは確かなのですが、組織機能の観点から考えると、許認可に精通した職員、法令事務に精通した職員、プロモーションに精通した職員というのは、私の身の回りにも多くいたように思います。

最近はスペシャリスト職の導入が進み、公務員にもインダストリー軸で専門性を養うキャリアの選び方が認められつつありますが、組織機能軸で専門性を養うという考え方がもう少し一般的になれば、「公務員にだって専門性は身につけられる!」とより胸を張れる時代が来るのではないでしょうか。

一方で、同じ組織機能軸でも人事系や予算系の業務においては、不祥事防止の観点から長期間の従事が難しいという課題がありますので、取り入れることができる機能組織に制約がある点には留意が必要です。

いずれにせよ、2つの切り口から考えると公務員にも専門家と呼べる人財は多く存在し、彼ら彼女らの知見を結集したネットワーク型組織は有効に機能することが予想できます。

あるべき論から考えてみる

序論で触れたとおり、上記はあくまであるべき論から考えた仮説であり、現行の組織制度や定数制度を踏まえると現時点での実現性は低いと言えます。

しかし、今できることから考える「改善」だけでは、抜本的な問題解決につながらないことも確かです。

時には現行制度を一旦度外視し、未来のことに思いを馳せながら、逆算的なアプローチを取ってみることが、変化の激しいこれからの時代の公務員に求められる資質なのかもしれません。

おわりに

次回は観光コンサルタントらしく観光マーケティングについて執筆する予定です。

多様化する顧客ニーズの中、地方の誘客はどう行っていくべきなのか?

漠然と3C分析やSWOT分析を行い、他地域との差別化を図り、顧客を奪い取る発想だけで持続可能な観光誘客ができるのか?

上記観点について、ブルー・オーシャン戦略のフレームワークを使いながら、全く新しい価値を提供する方法を考えていきたいと思います。