確保とタッチ、ファンブルとマフの違い~責任と原動力~(NCAAルール編)
これまで主に反則について解説してきたが、今回は「ボールの所有権はどちらか」というところに焦点を当てた解説をしてみようと思う。
このあたりの規則は日本でも用いられているNCAAルールの方が体系的に整理されているため、本記事では日本のアメリカンフットボール公式規則・解説書をもとに解説する。NFLルールと細かな違いはあるが、基本的には同じように運用されている(はずである)。
探しやすさの関係でNFLの動画を多く使っているが、あくまでNCAAルールではどうなるかの説明だと受け取っていただきたい。
1 そもそもキックとは
キックは大きくフリーキックとスクリメージキックの2種類にわけられ、スクリメージキックはさらにパント、ドロップキック、フィールドゴールプレースキックの3種類にわけられる。
1-1 フリーキック
前後半の開始時、トライの後、成功したFGの後に行われるのは「キックオフ」、セイフティの後に行われるのは「フリーキック」と呼ばれているが、ルール上の違いはパントが認められているかどうかだけ(キックオフはプレースキックかドロップキックによって行われなければならず、フリーキックはそれらに加えてパントすることが認められる)である。
1-2 スクリメージキック
スクリメージダウン中(多くの場合第4ダウン)に行われるキックのこと。陣地の回復を狙うパントと、フィールドゴールを狙うドロップキックおよびプレースキックに分けられる。
※ドロップキック: ボールが地面に落ちた瞬間に蹴るキック。フィールドゴールの間を通過すれば3点となるが、ドロップキックを狙えるときはフィールドゴールプレースキックも狙えるため現代ではほとんど見ない。
2 ファンブルとマフ; タッチ
一見どれも同じに見える事象であるが、ルール上は明確に区別されている。これを勘違いしているとキックのルールは理解できない。
2-1 ファンブル
パスやキック、手渡し以外の行為でプレーヤーがボールの確保を失うこと。つまり一度確保したボールでないとファンブルとはならない。なお「確保」の定義は以下の通りである。
ファンブルしたボールはいわゆる「フリーボール」となり、両チームともキャッチ、リカバーしたうえで前進させることができる(第4ダウンなどの特別な場合を除く)
2-2 マフ
ボールをキャッチ、リカバーしようとしたところ、キャッチまたはリカバーできずボールにタッチすること。マフをしてもボールの状態は変わらない。
このボールの状態というのが本記事では非常に重要である。「マフしてもキックはキックのまま」と説明されることが多い。
2-3 タッチ
プレーヤーの確保下に無いボールに触れること。マフもタッチの一種である。
故意のタッチ: 故意の、あるいは意図したタッチ
強制されたタッチ: ①相手からのブロックによってタッチした場合 ②相手がバッティング、もしくは不正にキッキング下ボールに触れた場合
強制されたタッチは無視されるが、注意しなければいけないのは、「相手にブロックされたからボールに当たった=強制されたタッチ」ではないということである。以下に解説書の記述を一部引用する
実際相手にブロックされていても強制されたタッチとされることはほとんどないため、レシーブチームはリターンしない場合、万が一にも接触しないよう即座にボールから離れなければならない。逆にキックチームはボールへタッチさせることを狙って相手をブロックするのも一つの技術である。
3 責任と原動力
セイフティやタッチバックに関係してくる概念。「ボールがゴールライン後方でデッドになった場合、ゴールラインを越えるような原動力をボールに与えたチームに責任がある」というのがその基本的な考え方。原動力はタッチやマフがあっても変わらない。
得点が成立していないプレーでボールがゴールライン後方でデッドになった時、そのエンドゾーンを守っているチームに責任があった場合セイフティ、攻撃しているチームに責任があった場合タッチバックとなる。
キックとは関係ないが、このルールはゴールライン際でのファンブルに大きな影響を与える。ルーズボールはアウトオブバウンズに出ても所有権は変わらず、ファンブル前に確保していたチームの攻撃が継続するが、エンドゾーンから外に出てしまうと「攻撃側に責任のあるゴールライン後方でのボールデッド」であるためタッチバック。攻撃権を失うことになる。
1ヤード地点からアウトオブバンズに出ればゴール前でのオフェンスが継続できるのに、少しずれてパイロンに当たってしまったら攻撃権を失うというルール、個人的にはアメフトで一番理不尽だと思っている。
4 フリーキックの確保
4-1~4-3はあくまでキックの状態が継続している、つまりキック後どちらのチームも確保していないときのルールである。上述の通り、タッチ(マフ)があってもキックの状態は継続している。
4-1 不正なタッチ
キックチームの選手がキックにタッチできるのは、
ボールがレシーブチームの選手にタッチした後
ボールがキック地点の10ヤード先の線(制限線)を越えた位置にある時
ボールが制限線を越えた位置の選手、審判、グラウンドに触れた後
以上3つのいずれかに該当したときである。
上記以外のタッチはすべて不正なタッチというバイオレーションである。ボールがデッドになったとき、レシーブチームにバイオレーションの地点でボールを得る権利が与えられるが、反則ではないためライブボールファウルとは相殺されない(ライブボールファウルが優先され、不正なタッチの権利は取り消される)。
4-2 フリーキックのキャッチとリカバー
・レシーブチームによってキャッチ、リカバーされた場合:
当然ボールはプレー中のままであり、レシーブチームはボールを前進させることができる。
・キックチームがキャッチ、リカバーした場合:
その瞬間にボールデッド。これが正当な確保であれば確保した地点からキックチームのファーストダウン、そうでなければレシーブチームにファーストダウンが与えられる。キックチームがオンサイドキックを確保しても、そこからさらに前進させることは認められていない。
俗に「キックオフは10ヤードを越えたり、レシーブチームに当たったりしたらフリーボール」と言われるが、これはあくまでボールを確保する権利についての話であり、レシーブチームとキックチームに全く同じ権利が与えられるわけではない。
4-3 エンドゾーンでデッドになった場合
レシーブチームによってタッチされていないフリーキックがゴールライン上もしくはその後方のグラウンドに当たった場合、ボールはデッドとなり、レシーブチームの所属になる。
これは即座にデッド、すなわちタッチバックとなる状況を特別に規定したものであり、タッチバックとなる状況を限定するものではない。
(例)レシーブチームが3ヤード地点でタッチしたボールがゴールライン後方でデッドとなったとき、その原動力を与えたのはそのエンドゾーンを攻撃しているキックチームであるため、これもタッチバックとなる。
レシーブチームのタッチはボールデッドのタイミング(ゴールライン後方の地面に触れても即デッドにならない)にしか影響しない。
※このボールをエンドゾーン内でキックチームが抑えた場合、8-2-1-d「フリーキックまたはスクリメージキックを相手のエンドゾーンで正当にキャッチまたはリカバーした場合」に該当するため、キックチームのタッチダウンとなる。
5 スクリメージキックの確保
前章と同様キックの状態が継続しているときの話である。
スクリメージキックは、攻撃権の放棄(ルールブック上の表現に準拠するならば「シリーズの終了」)を伴うが、その攻撃権の放棄はスクリメージキックがニュートラルゾーンを越えたときに発生するため、キックがニュートラルゾーンを越えた場合と越えなかった場合に区別されている
5-1 ニュートラルゾーンを越えなかった場合
キックチーム、レシーブチーム関わらず、すべてのプレーヤーがキャッチ、リカバーして前進させることができる。
キックチームが確保した場合シリーズが終了していないためフォースダウンギャンブルと同じ扱いとなる。更新線を越えれば新たにファーストダウン、越えなければ攻守交替となる。
これを利用したスペシャルプレーが次の動画である。
5-2 ニュートラルゾーンを越えた場合
ニュートラルゾーンを越えたスクリメージキックにキックチームの選手がタッチすると不正なタッチとなる。キックチームのタッチが認められるのはレシーブチームがニュートラルゾーンを越えた位置でタッチした後である(ブロックなどニュートラルゾーン手前でのタッチは関係ない)。
5-3 スクリメージキックのキャッチとリカバー
レシーブチームのキャッチ、リカバーはプレー中のままである。
キックチームがスクリメージキックをキャッチ、リカバーすると、その場でボールデッドになる。正当に確保していればその地点からキックチームがオフェンス、そうでなければレシーブチームのオフェンスになる。
似たようなことの繰り返しになるが、レシーブチームがマフしたボールはまだ「スクリメージキック中」なので、キックチームの確保は認められているが前進させることはできない。
このプレーは、以下のような流れである。
①DEN#6がパント
②DAL#17がパントブロック(確保の権利には関係ない)
③ボールがニュートラルゾーンを越える(DENのシリーズが終了)
④DAL#25がタッチ(DENに確保する権利が発生)
⑤DEN#50が19ヤード地点で確保
⑥DEN#50がボールを確保したまま27ヤード地点でタックル
③の時点でシリーズが終了し、DALに所有権が移っているため、⑤の瞬間DENに所有権が再び移動しボールデッド。19ヤード地点でDENのファーストダウンとなった。
なお⑤の瞬間に笛が吹かれなかったのは、DAL#25がタッチした地点、およびDEN#50がボールを確保した地点がニュートラルゾーンを越えているかどうか分からなかったためだと思われる。
---
・どちらも越えていなかった場合: DENのシリーズは終了していないため、27ヤード地点で第4ダウンが終了。更新線を越えていないためギャンブル失敗と同じ扱いとなり、27ヤード地点でDALがファーストダウン。タックルされるまで笛を吹かないのが正解。
・DAL#25のタッチが越えておらず、DEN#50の確保が越えていた場合: スクリメージキックがニュートラルゾーンを越えてから最初にキックチームがタッチしているため、DEN#50の不正なタッチ。19ヤード地点からDALのファーストダウン。キックチームが確保した瞬間に笛を吹くのが正解。
---
5-4 ゴールラインを越えた時
フリーキックと同じように、レシーブチームがタッチしていないボールがゴールライン上またはその後方のグラウンドに当たった場合、ボールデッドとなり、レシーブチームに所属する。
こちらも特別な場合を規定しているだけなので、他にもタッチバックとなりうるシチュエーションはたくさんある。
このプレーではSF#11が17ヤード地点でボールにタッチしているが、キックの状態であることは変わらない=責任はキックチームにあるのでタッチバックとなる。
※レシーブチームがファンブルした場合
レシーブチームが確保した時点でキックは終了しているため、フリーキック、スクリメージキックどちらも完全にフリーボールとなる。
キックチームにもキャッチ、リカバーした後前進させる権利が発生し、ファンブルしたボールがゴールライン後方でデッドになったらセイフティである。
6 まとめ
①ファンブルとマフ(タッチ)は完全に別物
②タッチがあってもキックはキックのまま
③タッチがあっても「責任」は変わらない
④キックチームに責任があればすべてタッチバック
⑤キックチームはキックを前進させることはできない
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?