NFL反則解説シリーズ #14「無資格レシーバーのダウンフィールドへの侵入」

※本シリーズではパスを捕る資格が無い選手のことを「無資格捕球者」と書いてきたが、本記事では日本語版公式規則(NCAAルール)の記述に従い「無資格レシーバー」とする。

<注意>

①情報の正確性には細心の注意を払っているが、誤りを含む可能性がある。また、簡単のために一部省略していることがある。

②特に注意書きが無い場合はNFLルールについての話である。本反則はNFLルールとNCAAルールが大きく異なるので特に注意していただきたい。

③記載内容は執筆時点で最新のルールに基づく。

④基本的な単語については解説を省略することがある。分からない単語があった場合、過去の記事「#0-3 反則に関する用語」「#0-2 罰則の運用」を参照していただくか、ネットで検索していただきたい

■要約

  無資格レシーバーのダウンフィールドへの侵入(Ineligible Downfield Pass: IDP)は、パスプレー時に無資格レシーバーが規定のラインを越えてしまう反則。5ヤードの罰退となる。

■定義

  パスプレーの時、無資格レシーバーはスクリメージラインから1ヤード以上前に出てはいけない。ただし、以下の場合は合法である。

・合法の場合

  相手と1ヤード以内で接触し、その接触が継続していればダウンフィールドに出ても反則とはならない。ただし、1ヤードを越えた地点で相手との接触が終了した場合、パスが投げられるまでその場にとどまっていなければならない。

・反則となる場合

①相手と接触せずにスクリメージラインから1ヤード以上前に出た。

②スクリメージラインから1ヤード以内で始まった相手との接触が終了した後、スクリメージラインから1ヤードを越えた地点へと前進した。

③スクリメージラインから1ヤードを越えた地点で相手との接触が終了した後、相手ゴールライン方向に向かって動いた

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【IDPの例(#69)】

■NCAAルール

  パサーがニュートラルゾーンを越えるフォワードパスを投げるまでは、当初の無資格レシーバーはニュートラルゾーンから3ヤードを越えた位置に居てはならない。

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【NCAAルールにおけるIDPの例】

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【レシーバーがスクリメージラインを越えていないため、IDPとならない例】

※実際にはパスを投げたタイミングで無資格レシーバーが3ヤードに到達していなかったので、レシーバーがスクリメージラインを越えていても合法であったと思われる。

  NFLルールとは距離、パスの条件、合法となる条件の有無などが異なる。

■罰則

NFL、NCAA共通でプレビアススポットから5ヤードの罰退。

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【IDPのシグナル】


■補足

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  公式な記録では Ineligible Downfield Kick と区別するために Ineligible Downfield Pass と書かれているが、レフェリーのアナウンスでは Ineligible Receiver/Man Downfield と呼ばれることが多く、中継でもこちらを使用している。

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  この反則における Ineligible Man は、「プレー開始時に無資格である人」のことである。アウトオブバウンズに出たことで無資格になった元有資格捕球者は含まれない。

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・IDPが取られやすいシチュエーション

①スクリーンパスの失敗:スクリーンパスはOLがLBをブロックにいくアサイメントになっていることが多いため、パスのタイミングが遅れるとOLが規定の距離を越えてしまうことがある。ちなみに2020シーズンで一番多くIDPをとられたPIT(5回。2位はCARやHOUらの2回)はほとんどがこのパターンであった。これがロスリスバーガーの問題なのか、スクリーンに投げれなかった時に他のターゲットを探しても良いことになっていたのか、スクリーンパスがディフェンスに読まれていたのかは不明である。

②QBがポケットから逃げてパスを投げた時:パスプレー時のOLはスナップと同時に後ろへ下がって「ポケット」を作りQBをプロテクションする。このポケットからQBが逃げたタイミングで、ランに切り替えたと勘違いしたOLがディフェンダーをブロックしに前に出ると、QBがパスを投げれた時に反則となってしまう。OLの皆さんにおかれましてはQBが「ゴー」のコールをかけるまで前に出るのは我慢していただきたい。

③Run-Pass Option:近年の Run-Pass Option(RPO)の流行に伴い、この反則が注目を浴びることが多くなった。RPOではランとパスを同時に実行するため、ラインがランブロックをしている時にパスを投げることになる。もちろんプレーは規定の距離を越える前にパスを投げられるよう組み立てられているのだが、イニシャルターゲットが空いていなかったり、OLが張り切ってLBを取りに行ったりすると間に合わないことがある。RPOでパスをチョイスしてプレーが崩れた時は、投げずにスクランブルすることをオススメする(5ヤード罰退してやり直しがの方が得になる場合もあるが)。

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  IDPは正しくとるのが一番難しい反則と言っても過言ではなく、実際に見逃されることも多い。NCAAルールの「3ヤード」も厳密に観測することは不可能(オフィシャルが3ヤードラインの横に立つわけにいかない)であるため、運用上は大まかに「LBが居た位置」として見られているようである。そのためNCAAルールにおいてもDLを押し込んでいったOLに関しては反則を取られないことがある。

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【IDPが見逃された例】


■戦術に与える影響

  NCAAでは zone や pin-pull、 power などありとあらゆるプレーと組み合わせたRPOが行われているが、NFLでは pin-pull と組み合わせることが多い
  筆者はこの傾向にNFLの「無資格レシーバーは1ヤード以上出てはいけない」というルールが影響していると考える。
  zone はコンビブロックを組むことが前提であるため、どうしてもOLのうち何人かは最初に接触した相手から離れてLB等をブロックしにいかなければならず、そのLBに伸びるOLは1ヤードを越えてしまうことが多い。
  一方 pin-pull は uncovered のラインが covered の背後を回るため、パスを投げるタイミングで uncovered のOLが1ヤード以上前に出てしまうといったことはほとんど起こらない。NFLで pin-pull RPO が主流となっているのはこういった理由だと思われる(もちろんNFLで zone や power 等と組み合わせたRPOが見られないわけではない)。

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【pin-pull RPO:#70と#63が背後を回っている】

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