全ては集団お見合いから~"XFL-style" Kickoff 2024~
ヒップドロップタックル禁止決定の報に揺れた翌日(現地時間26日)、今シーズンのNFLでは新しいキックオフ形態が採用されることが決まりました。
決定当初は具体的な内容が明らかになっていなかった(少なくとも僕は見つけることができなかった)のですが、日本時間昨日になって、NFL FOOTBALL OPERATIONSが今回導入される新キックオフの具体的なルールを説明してくれたのでそれをまとめます(*現時点で発表されているのはあくまで提案段階のものであり、最終決定は5月以降)。
正直英語が読めるなら上記のソースを読んだほうがためになると思うので、以下は英語が読めない人だけご参照下さい。
概要
今回導入されるキックオフはXFL式(XFL-style)キックオフと呼ばれるもので、カバーチーム(Aチーム)とリターンチーム(Bチーム)が5ヤード空けて向かい合うところに、遠く離れたところからボールが蹴り込まれると、「ボールこそが両陣営の境界線」「アメフトは陣取りゲーム」だと信じてきた我々のアメフト観からするとかなり異様なフォーメーションをとります。
そもそもこのキックオフは、リターン率が40%を下回り、”タッチバックのための儀式” と化していた(プロ)フットボールのキックオフをどうにかして意味のあるものにしたいという意図で考案されたもので、リターンの割合を増やすことと、Aチームの選手とBチームの選手が接触する際の相対速度をなるべく小さくすることを考えてルールが組まれています。
ルール
Aチーム
キックはA35ヤード、セイフティ後のキックはA20ヤードから行う(従来通り)
キッカー以外の全てのAチームの選手(本記事では「カバー選手」と呼ぶが、これは公式の呼称ではないため注意)はB40ヤードラインに片足を置く
カバー選手は、ボールが地面かリターナーに触れるまで動いてはいけない
キッカーはボールが地面かリターナーに触れるまで50ヤードラインを越えてはいけない
Bチーム
最低9人の選手(本記事ではセットアップ選手と呼ぶが、これは公式の以下略)がセットアップゾーン(B35ヤードからB30ヤードの間)に位置しなければならない
セットアップ選手のうち7人はB35ヤードラインを踏む必要がある。また、この7人は均等にセットする(
ナンバーの外に2人、ナンバーとハッシュの間に1人、ハッシュ間に1人詳細不明、なんらかの制限=alignment requirementsがあることは間違いない)B35ヤードラインを踏んでいないセットアップ選手はハッシュマークの外にセットしなければならない
セットアップ選手は、ボールが地面かリターナーに触れるまで動いてはいけない
最大2人のリターナーは自由に動くことができる
ランディングゾーン
B20ヤードラインとBチームのゴールライン、2本のサイドラインで囲まれた長方形
キックがランディングゾーンに届かなかった時:反則。BチームにB40ヤードからのオフェンスが与えられる
キックがランディングゾーンにあたってからエンドゾーンに入り、そこでボールデッド:タッチバック。B20ヤードからオフェンス
キックが地面や人に触れずにエンドゾーンに入り、そこでボールデッド:タッチバック。B30ヤードからBチームのオフェンス
従来ルールではキックオフのボールが直接エンドゾーンに触れたらその瞬間ボールデッドでタッチバックとなったが、XFL式ではBチームの選手が確保してダウンしなければタッチバックにならない
その他
フェアキャッチは認められない
第4Q以降、負けてるチームはオンサイドキックを選択することができる
オンサイドキックは23-24シーズン以前と同じルールの下行う。ただし、キックしたボールがセットアップゾーンを越えた場合、つまりオンサイドキックを宣言して長いキックを蹴り込んだ場合アンスポーツマンライクコンダクトの反則となる(BチームがA20ヤードからオフェンス)
風などの影響でボールがキックティーに保持できない時はキックスティック(下図)を使うことが許される(従来はホルダーを使っていたが、キッカー以外の選手がボールの近くに立てなくなったため)。このキックスティックはキック後すぐに近くの審判が回収する
トライダウン中の反則の結果、キックがA35ヤードからでなくなっても、上記のセットアップゾーンやランディングゾーンの位置は変化しない。これは20ヤードからのセイフティキックでも同様である
このルール変更は今(24-25)シーズンのみに適用される。来シーズンオフに改めて審議
ポイント
安全性
カバー選手とセットアップ選手の間が5ヤードしか離れていないため、30ヤード全力疾走からのヒットが消滅。その他プレーと同様の安全性を実現している(らしい)。
チームへの影響
オンサイドキックシチュエーションを除き、リターンが「行われなかった」場合の再開位置は3つに分けられる。
ランディングゾーンに届かなかった場合、もしくはアウトオブバウンズ:B40ヤード
エンドゾーンにノーバウンドで蹴り込んだ場合:B30ヤード
ランディングゾーンに触れてからエンドゾーンに入った場合:B20ヤード
つまり、キッカーにはランディングゾーンにノーバウンドでボールを届けること、リターナーには飛んできたキックを必ずキャッチし、リターンすることが求められる。
トラディショナルな飛距離と滞空時間を兼ね備えたキックは必要なくなる(∵カバー選手もセットアップ選手もどうせ同じ位置から同じタイミングでスタートする)ので、キックオフを蹴る選手を変更するチームがあるかもしれないし、キックリターンに参加させるメンツの選択の変化(機動性がそれほど必要なくなるのでOLも使える?)、リターナーの価値が上がることによるロースター構成の変化や契約への影響なども考えられる。
分岐点
従来のキックオフリターンが25ヤードまで戻せるか戻せないかの勝負だったのと同じように、XFL式は基本的に30ヤードをめぐる争いになると思われる。つまり、実質的にキックオフ後のオフェンスの開始位置を5ヤード上げる改革も兼ねている。
XFLの平均的なリターンは30ヤード前後で止まっていた印象があるが、NFLではカバー選手とセットアップ選手の制限線をそれぞれ5ヤードずつ50ヤードライン側にずらすらしく、平均リターン到達地点にどのような影響を与えるかは注目したい。「蹴り込みタッチバックを選択して、30ヤードからオフェンスさせたほうが良いのでは」という考えのチームが出てくる可能性は十分にある。
個人的な感想
これまで安全のために面白さがないがしろにされてきたキックオフを根本的に変えることで、安全と面白さの両立を目指した面白いルール改正だと思っている。今年のNFLのキックオフがワクワクするものになるのか、どんな新しい戦術が生まれるか、来シーズン以降も継続されるのか、開幕を楽しみにしたい。
余談(XFLとの違い)
今回のルール改正はXFLで試行していた新キックオフを参考にしたものだが、XFLで行われていた時からかなりルールが変わっている。XFLファンや、本記事で使っている画像(当然XFLのもの)と文章を照らし合わせるまめな読者が混乱する可能性があるので、以下に代表的な違いをまとめる
ボールをセットする位置(NFL:A35ヤード/ XFL:A30ヤード)
カバー選手とセットアップ選手の制限線(NFL:B40-35ヤード/ XFL:B35-30ヤード)
制限線を踏まないセットアップ選手(NFL:最大2人/ XFL:認めない)
カバー選手、セットアップ選手が動いて良くなるタイミング(NFL:ボールがリターナーか地面に触れた時/ XFL:ボールがリターナーに触れる、もしくは地面に触れて3秒経過した時)
キックがランディングゾーンに届かなかった際の次のオフェンス開始位置(NFL:B40ヤード/ XFL:B45ヤード)
ランディングゾーンに触れたタッチバック(NFL:20ヤード/ XFL:15ヤード)
ランディングゾーンに触れなかったタッチバック(NFL:30ヤード/ XFL:35ヤード)
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