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NFL反則解説シリーズ #11 「イリーガルフォーメーション」

 一番面倒な反則と言ってもいいのがこのイリーガルフォーメーション(Illegal Formation : ILF)である。NFLルールとNCAAルールで異なるところが多いので他の記事と章の順番を変更している。
 また、キックオフにもイリーガルフォーメーションは適用されるが、今回はスクリメージダウンのみを取り上げる。

<注意>

①情報の正確性には細心の注意を払っているが、誤りを含む可能性がある。また、簡単のために一部省略していることがある。

②特に注意書きが無い場合はNFLルールの話である。

③記載内容は執筆時点で最新のルールに基づく。

④基本的な単語については解説を省略することがある。分からない単語があった場合、過去の記事「#0-3 反則に関する用語」「#0-2 罰則の運用」を参照していただくか、ネットで検索していただきたい
 なお本記事では「ラインマン」「バック」「インテリアラインマン」「有/無資格捕球者」といった単語が出てくる。ある程度読めばわかるような構成にはしたつもりであるが、分からない場合は以下の#0-3内「オフェンス選手の分類」を参照していただきたい。

■定義

フォーメーションが以下の要件を満たしていない場合、イリーガルフォーメーションとなる。

・オフェンスチームの要件

①ラインマンが7人以上

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【ILFの例①:ラインマンが6人(手前のWRかTEが乗らなければいけない)】


②ラインマンの両端が有資格捕球者で、かつその間には無資格捕球者しかいない

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【ILFの例②:無資格捕球者#53がラインの端にセットしている】

③全員がインバウンズにセットしている

・ディフェンスチームの要件

<パントフォーメーションにおいて>
①スクリメージラインから1ヤード以内にいるディフェンスの選手は、スナッパーと被ってはいけない(ショルダーパッドの幅に入ってはいけない)

<フィールドゴールフォーメーションにおいて>
①スクリメージラインから1ヤード以内にいるディフェンスの選手は、スナッパーと被ってはいけない
②スナッパーから見て片側のスクリメージライン上に6人以上がセットしてはいけない

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【ディフェンスのイリーガルフォーメーションの例】


■NCAAルール

・オフェンスチームの要件

①全ての選手がインバウンズにいなければならない
②全ての選手はラインマンかバックでなければならない(ラインにセットしている選手は両肩を通る線が相手側ゴールラインと平行に向いていなければならず、かつスナッパーの腰より前に頭がなければならない)
少なくとも5人のラインマンは50-79の背番号でなければならない(ただしスクリメージキックフォーメーションを除く)
バックが5人以上いてはならない
⑤スクリメージキックフォーメーションにおける番号の規則の例外が適用されて無資格となった選手がラインの端にいてはならない

・ディフェンスチームの要件

①フィールドゴールフォーメーションにおいて、スクリメージライン上で3人の選手が肩を並べてセットし、同時にキック側の選手1人に対してヒットしてはならない。


■罰則

NFL、NCAA共通で5ヤードの罰退。スナップの瞬間が判断基準なのでライブボールファウル扱いとなり、プレーは継続される。

シグナルはフォルススタートなどと同じ。


■補足

そもそも有資格捕球者の定義に「ラインの両端にいる」という記述があるので、オフェンスの定義②「間にいる5人は無資格捕球者でなければならない」という文言に違和感があるが、要するにラインの両端は有資格番号の選手、間にいる5人は無資格番号を着けていなければならないという意味らしい。

ただし、無資格番号を着けていてもレフェリーに申請すれば有資格捕球者になれるため、この申請を行うことでラインの端に位置することができるようになる。

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【有資格捕球者の申請の例】

2020 Playoff Divisional Round TBvsNOでのこのプレーは、ラインの一番奥に#74(=無資格番号)がセットしていたため一度はフラッグが投げられた。しかし#74が有資格申請を行っていたためフラッグは取り消しとなり、TDが成立した。

※なお本来はプレー開始時に全ての審判が有資格申請の有無を分かっているべきである。

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逆に有資格番号を着けた選手が無資格になることは出来ない。かつては認められていたが、2015年にNEが用いた”four offensive linemanフォーメーション”を規制するためのルール改正によって禁止となった。

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【4 offensive lineman】

この時LTの位置に#47が入ったが、手前から2番目の位置に入ったレシーバー(RB)が無資格申請を行っていため、OLが4人しかいないのにも関わらずイリーガルフォーメーションとはならなかった。(そしてLTの位置に入った#47にパスを投げた)

ルール改正当時の記事では「タックルボックスの外に位置した有資格番号の選手は無資格になれない」と書いてあるが、現在のルールブックにはその限定記述が見つからないため、セット位置に関わらず無資格にはなれないと思われる。もし間違っていたら教えていただきたい。

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NCAAルールにはNFLのような有(無)資格申請という制度が存在しないため、TEがOLとして出場するようなときにはユニフォームを着替えて背番号ごと変更しなければならない。そのような選手はロースターには2種類の番号を登録し、番号変更を行った場合はレフェリーに通告する必要がある。通告を受けたレフェリーは放送システムなどを使って告知する。

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NFLとNCAAではバックの定義が異なるため、NCAAルールの感覚でNFLの試合を観ているとイリーガルフォーメーションを疑うセットが多数出てくる。その例を以下に示す。

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【NFLでしか認められていないセットの仕方】

このフォーメーションは一見片側に3人のタイトエンドがおり、「間が全員無資格捕球者」になっていないように見えるが、2と3はスクリメージラインから1ヤード後ろにいるためバック(いわゆるウィングバック)扱いとなる。

NCAAルールで上のセットをすると、誰も頭が一番近い位置にいるラインマンの腰より後ろに位置していないため全員ラインマンとして扱われる。TEの位置にセットした選手を有資格捕球者にしたいならば、外側の選手はきちんと腰より下がった位置にセットしなければならない。

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【NCAAルールにおけるセットのしかた】

ただし、NCAAルールは「バックが5人以上いてはならない=バックが3人以下でもOK」というルールであるため、7人以上がラインにセットしても反則にはならない(もちろん有資格捕球者は減る)。そのためラインを9人ズラっと並べるようなフォーメーションも成立する。

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【ラインが9人いるフォーメーション】

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 NCAAオフェンスの定義⑤は、スクリメージキックフォーメーションにおける番号の規則の例外がスナッパーがボールをスナップする姿勢になった時に適用されることが影響している。
 一度ラインの内側にセットして無資格となった有資格番号の選手がラインの一番外になったりすると、誰が有資格なのか分かりにくいためそういった戦術を規制している。
 ただしこのルールは忘れられていることが多く、実際見逃されることが多い。

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 NFLの「ラインマンが7人以上」とNCAAの「バックスが5人未満」は書き方が違うだけで本質的には一緒のことを言っているのだが、稀にこの違いが影響してくることがある。
 それは人数が11人未満になったときである。アメフトはサッカーや野球のように最低人数が直接規定されておらず、イリーガルフォーメーションにならない限り試合を続けることができる。つまりNCAAルールであれば10人になった時にライン6人バック4人、もしくはライン7人バック3人の組み合わせで試合を続行することができる。
 一方NFLルールではライン7人バック3人の組み合わせしか認められず、柔軟性に乏しい。そもそもNFLで選手が11人を切ることはあり得ないのでどっちでもよかったのではないかと推測される。


■観戦時の見分け方

特に誰かがオフサイドなどをした雰囲気が無いのにプレー開始直後にフラッグが投げられ、かつプレーが続いていたら大体この反則である。イリーガルシフトやイリーガルモーションである可能性もあるが、オフェンスが5ヤード下がる反則であることに変わりはない。


■戦術的な利用

 反則自体を利用しているわけではないが、規制がやや緩いNCAAルール下ではルールの範囲内で通常と異なる形のフォーメーションを組むことがある。
 それらは「アンバランスフォーメーション(アンバ)」と呼ばれ、普通モーション出来ない位置の選手にモーションさせたり、マンパワーを片側に集中させて突破を図ったり、誰が有資格なのか分かりにくくしたり想定していないつき方をすることでディフェンスのアジャストを混乱させたりといった意味がある。
 自分が好きなアンバからのプレーを一つ紹介して今回の記事を終わりにする。




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