仮面
揺れ動く気持ちは、きっと誰にもわからない。私は、屋上に立ち尽くす。ここから去ることも飛び降りる勇気もない。私は、臆病者で卑怯者だ。
ー死ねばいい。
誰もが簡単に口にする。消えたい、死にたい。そんな思いは、私を暗闇へと引きづりこむ。サエコもユリナも、私の味方ではない。この世界で生き抜ける強さを持ち合わせていない私は、このまま黒い何かに飲み込まれてしまいそうだった。
夏は私を少しだけ大胆にする。強くなったつもりで、立ち上がろうとするけれど、すぐに見たこともない大きな壁が現れる。私は、後ずさりする。逃げ出せないように首輪をつけられた私は、自分の歩ける距離を確認しながら、苦痛な気持ちをグッと抑えこむしかなかった。
私は、まるで操り人形だ。一歩を踏み出せば、新しい世界が広がると分かっていても、踏み出そうとする足がすくむ度、私は、絶望感に襲われていた。
大人たちは言う。
ー逃げ出せばいい。
私は、言う。
ーどこに逃げ出せばいいと言うのか。
いつも大人は答えない。私は、今日も自分を偽るために仮面を被る。仮面は、私を醜いものに変えていく。
いや、違う。
仮面は、醜い私を隠す為にあるのかもしれない。
「ほら、ナナエもやりなよ」
私は、きっと誰よりも醜くくて汚い。
多分、それが本当の私なのだ。
「ほら、早く!」
受け取ったバッグを、a子に振り下ろす。感情なんてない。何度も何度も振り下ろす。泣き叫ぶ声なんて聞こえない。私の心は、感情を失ったのだ。
「投げちゃえ!」
声がした。私は、屋上から思い切りバッグを放り投げた。
空に散らばる教科書は、なんの役にもたたない。私に何を教えてくれるというのか。泣き声をかき消すように大きな笑い声がした。
ー死ねばいい。
振り返る私は、今、どんな顔をしているのだろう。
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