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レズビアン恋愛を描いた漫画『作りたい女と食べたい女』は、パラレルワールドの私

初めてハマった「ガールズラブ」漫画



10年前、日本で学生だった頃にこれを読んでいたらその後、歩む人生変わってかも
NHKの夜ドラ枠で実写化されたガールズラブの漫画『作りたい女と食べたい女』。

Kindle第一巻の表紙
右が「作りたい女」野本さん
左が「食べたい女」春日さん

comic walker という無料漫画が楽しめるサイトにて連載中です。最新話33話は12月16日に公開。

あらすじ&紹介は

あなたがいれば、今日も満腹。
Twitterで話題のシスターフッド×ご飯×GL

コミックウォーカー

とザックリ。「レズビアン」の言葉こそありませんが
GL、ガールズラブとしっかり明記されています。

コミックウォーカーのサイトでは公開されていないエピソードもあった&じっくり楽しみたかったのでkindleで3巻まとめて購入!子どもたちが寝たあとにベッドの中で一気に読みました。

ガールズラブの漫画市場、全く素人なのですがこの漫画は、私自身10年前に学生だった頃に読みたかった…!!

これを読んでいたらその後、歩む人生変わってかも。と本気で思うのです。(イギリスにも今いなかったかも…? )

そのくらい、LGBTQ +のメディア表象として大事な漫画だと思います。

「作りたい女」である野本さんが主人公で、読者は彼女の心情を読んでいきます。ある日偶然マンションのエレベーターで居合わせた「お隣のお隣さん」である春日さんという女性が「食べたい女」であることを発見?し、そこから少食な野本さんが作ったご飯を食べてもらうようになります。

その人気の高さから、NHKの『夜ドラ枠』にてドラマ化もされ、11月29日(火)から12月14日(水) まで全10話放送されていました。私はイギリス在住のため、you tubeで公開されている予告編やダイジェスト版以外は観れないのですが、漫画原作のイメージが反映された、ほんわかあたたかい気持ちになれる仕上がりになっているなぁーと個人的には思いました。

野本さん、春日さんに見た、パラレルワールドに存在し得るもう1人の自分

唐揚げ定食とか、餃子とか、プリンとか、シュトーレンとか、毎話ひとつのレシピがフィーチャーされており、ほっこりする締めくくりとなっている構成なのですが第16話『私は、』は涙なしでは読めませんでした…!

ネタバレ御免なのですが 






野本さんが春日さんへ抱く特別な気持ちに気づき、それを「好きになっていいんだ」と認めてあげたのです。

異性愛がデフォルトとして機能しているこの社会(特に同性婚が法制化されていない日本では尚のこと)で、女性として女性に恋愛感情を抱く「レズビアン」と胸を張って言い切るのは、やっぱりまだまだ難しい。

10数年前の自分の周りや自分は少なくとも、そうだった。
野本さんが第16話で行ったこの作業は当時、好きな女性がいた自分には出来なかったことです。だから、春日さんに対する素直な気持ちに真摯に向き合って、それを受け止めることができた野本さんに、おめでとう。良かったね…!と心の中で伝えました。

自分は10年前にイギリスに留学したことで、人生が180度変わりました。
今、自分がこうして歩んでいる人生に後悔はしていません。しかし、もし、あの時あのまま日本に住み続けていたら、野本さんまたは春日さんのような体験、生きづらさに直面していたことだろうというのは想像に難くありません。

さらに言えば、女性として女性を愛するレズビアンとしてだけでなく、女性として生きるだけでも嫌なこと、日々ありました。そういう細かなネタ(問題提起)をこの漫画はストーリーに組み込んでくれている。ただ美味しそうな料理を見て癒されるだけではないのが、良いです。

野本さんは料理が好きで手作りのお弁当持ってくるということで職場の男性から「良いお母さんになりそう」とか勝手に言われてしまい、ダメージを受けてしまう気持ち…それは「子どものお弁当は母親が作るもの」という思い込みを自分も持っていたから、もう共感しかない。(現在は夫が作る日、私が作る日半々くらい)

さらに春日さんは背が高い&身体が大きめ、服装も動きやすさ重視な格好で、異性愛者のモテを意識したりは一切しない。その潔さが気持ち良いなあーー!と思って拝見してます。

 自分がイギリスに来た年は、同じ大学で学んでいた日本人の学生と飲んだり、スポーツしたり楽しい時間を過ごしていたのですが、ある時、昼休みだったか、誰かの家で過ごしていたか、ボーイズ数人と私1人というシチュエーションで世間話をしていたときのこと。ある男の子が交換留学生の日本人女子 Aちゃんについて、何やら悪口めいたことを言い始めて。しかも「〜ていうか、 Aちゃんて結構ぽっちゃりじゃね?笑」と言うようなディスり方をしていて…何だかんだいって男子というのはこういうふうに恋愛対象というか性的な目線で女子の友達を見ているんだな、と悲しくなりました。
同じく、ハウスメイトだったイギリス人のボーイズ達も、元ハウスメイトの女性について下ネタを含む冗談を私の目の前で話していたことがありました。

今だったら一言言うことできただろうけど、当時は何も言えなかった。びっくりし過ぎて。
その後、彼らにそんな風に勝手に異性愛の対象として、性的な目線で見られるなんて!御免!という思いが強くなり、ボーイズ達がいる集まりに参加するときにはかなりボーイッシュな格好をすることが多くなりました。
ダボっとしたパーカーにブラックのスキニージーンズ、仕上げはキャップ。というような。ファッションを通して私は「異性愛者じゃないから、ヨロシク」というメッセージを送ってました。

私はイギリス人の元モデル、現俳優として活躍するアギネス・ディーンが好きなので、ボーイッシュファッションは自分の好きな格好だったから良いんだけど…この理論はセクハラされるような格好をしている女が悪い、と同じ。本来なら周りの目を気にせずに自分が好きな格好をできる環境であるべき。 

…漫画からはズレてしまいましたが、このように、思わず自分自身の体験と思わず重ね合わせてしまう、ジェンダーにまつわるネタが転がっている漫画なので、パラレルワールドの自分だなって思いながら毎回読んでいました。こういう点では、男性読者はどう読みこんでゆくのでしょうかね…

「レズビアン」という言葉を取り戻す

NHKの公式サイトではコンテンツがなかなか充実しています。特に、作者、プロデューサー、監修者の方かちの座談会で話されていた制作の裏話はとても興味深かったです。

以外、抜粋


ゆざき 私は野本さんが春日さんを好きになったのは女性であり、かつ春日さんだったからだと思うんです。もし春日さんが男性だったら野本さんは恋に落ちてないし、作品のなかで春日さんが女性であることは重要だったんですよね。

NHK 制作の舞台裏トーク


この点は、自分もハッとさせられた。
よくある「愛に性別は関係ない」という言葉遣いは一見、ポジティブなメッセージとして受け取ることができるけど、裏を返せば、女性(男性)として女性(男性)を愛する、『同性』に対する愛を矮小化してしまっているのではないか。異性愛には置き換えはれない関係性があること、そこはきちんと尊重しないといけない。このフレーズはかなり気をつけないと、同性愛者または異性愛に限定されない愛の形を追求する人たちに対するマイクラアグレッションともなり得るのかな、と最近思うようになりました。

座談会では、「レズビアン」という言葉に対する社会の偏見によって、この作品で意図する「レズビアン」という言葉が歪められてしまう危険性があるけれど、同時に積極的に「レズビアン」という言葉を使うことで、彼女たちの存在を可視化し、「レズビアン」という言葉のイメージを取り戻していくことも必要である、とかなり話し合われていたようです。
物語の展開的にもネタバレになってしまうから、あえて情報解禁時には使わないでおいた、というかなり配慮された決断だったとのこと。

皮肉ですがこの「食」を通じて愛を育む、というテーマの漫画、先例として『きのう何食べた?』がこれだけ人気になった理由もそれかな?と。

同性愛者の人たちだって『私たち』と変わらない、日々の生活を営み、美味しいご飯を作って食べる、『普通』の人たちなんだ。という、特権者の驕りに満ちた異性愛者の読者たちの支持があってのことなのかなぁーと、去年映画化が話題になったときにふと感じたモヤモヤを思い出しました。…確かにBL(ゲイ)、GL(レズビアン)の恋愛もの = セクシュアルなコンテンツというイメージからの脱却に成功したことは、もちろん素晴らしいのですが。

BLとGLも、変化している?
#物語のままで終わらせない  

やはりBL、GLジャンルと聞くと、キャラクターたちの関わり、特にセクシュアルな関係が注目してしまう(もともとそれがメインとして発展してきたのですが…)。しかし、あくまでBL、GLはファンタジー。ボーイズラブ(ゲイ)、ガールズラブ(レズビアン)の恋愛関係を実際に実践している人にとっては、自分たちのセクシュアリティが消費されていると感じてしまうことに対する不快感や憤りなどは感じないのだろうか、と思うんです。当事者でもファンタジーとして楽しんでるって方も、いるだろうと思うんですけど。

個人的に『きのう何食べた?』も楽しんで読んでいる漫画なのですが、読者/鑑賞者は、一体どの立場で、どのような思いを持ってこれらLGBTQ+のキャラクターたちが登場する作品を鑑賞、咀嚼、または(ただ)消費しているのか?複雑な思いです。

そこで、この漫画及び作者ゆざきさんに対して尊敬するのは、この作品を単なるエンターテイメントとして消費されてないよう、責任を持って発信していること。
日本に実際に存在するレズビアンたちがいま直面している問題と絡め、同性婚実現を支援するチャリティーを企画されていました!


私は現実にある同性愛を創作するにあたり、一方的に消費するような態度ではいたくなくて、クリエイターの立場として現実に横たわる差別に何ができるかを担当さんに相談していました。そして最終的には公式アカウントから同性婚法制化の訴訟に対して発信したり、チャリティで活動を支援したりすることになりました。

NHK 制作の舞台裏トーク

結婚する、しない自由はある。でも、選択肢としてすべての人たちが「結婚できる」環境であるべきで、日本でもそれが一日でも早く実現することを願っています。

この「#物語のままで終わらせない」のキャッチコピーがね、上に書いたことを濃縮してる。

これからの野本さんと春日さんの関係がどのように展開していくのか、引き続きフォローしていきたいと思っています!

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